A requiem to give to you
- 雪女の囁きと切られた糸(7/7) -



オマケ@・グレイ



部屋から半ば追い出されるようにして出てきたグレイは何とも言えない気持ちで頭をかいた。



(何なんだよ、アイツ)



まさかあんな風に追い出されるとは思わず、湧いて出たのは怒りではなく困惑だった。

グレイは手元を見た。部屋から出る前、急に投げられて反射的にキャッチしたそれは……彼女がとても大切にしている筈の自鳴琴だった。



「……コレ、投げてきて大丈夫かよ」



壊れても知らねーぞ、と呟きながらも念の為に損傷がないかを確認する。

外傷は特になさそうだが一応蓋を開けて中もみると、中のシリコン栓がおかしい事に気がついた。



(ズレてるな。投げた衝撃か? ……いや、違う)



恐らくずっと前からだろう。しかしこのズレ方では本来の音の鳴り方とは随分と違うのではないのだろうか、とグレイは首を傾げた。




「仕方ねーな」



そう呟くと自鳴琴をポケットにしまい歩き出す。



(何考えてンのか知らねーけど………いらない、だなんて。それで納得すると思うなよあの馬鹿女)



今になって湧いてきた理不尽さへの怒りに青筋を立てながらも、グレイは廊下の寒さも忘れて部屋へと戻っていった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







オマケA・ヒース



「ヒースー♪」



明るい、けれどどこか底冷えするようなそんな声にヒースは肩を震わせた。

こんな声を出す人物は仲間内では約二名ほどいるのだが、今回はより面倒な方に当たったらしい。



「今日は街を観光すると聞いていたのですが、どうしてこんな所にいるんですかねぇ?」



こんな所、とは街の入り口である。直ぐ背後は魔物がうろつく外だった。

セルシウスとの邂逅の後、バレない内に急いで戻ってきたヒースだったが、門をくぐった所で運悪くジェイドと遭遇してしまったのだった。



「い、いや……ちょっと剣の練習でもしようかな、と」

「それなら当然、ルークやガイもいるんですよね?」



苦しい言い訳だとはわかってはいたが、やはり全く通じてはいなかった。

今にも拳でも飛んできそうな雰囲気に素直に「ゴメンナサイ」と片言で謝ると、大きな溜め息を吐かれてしまった。



「レジウィーダと言い貴方と言い………異世界の住人は怖いモノ知らずですね」



そんなに魔物の餌になりたいんですかね。

そう言ってニッコリと笑ってくる軍人にヒースは首をブンブンと横に振った。



「滅相もないっすね! ちょっとオソトが気になってこっそり遊びに行ってましたスンマセン、はい」



そう言うヒースをジェイドは疑り深い目でジーッと見ていたが、やがて言及はしないことにしたようで街の中へと促した。



「ある程度自由にしてもらって構いませんが、危険な行動はもう少し慎みなさい」

「はーい……」

「次は縄で縛って引き摺り回しますからね」



どこぞのお嬢様顔負けの真っ黒な笑みを浮かべながらのその言葉に、ヒースは素直に頷くしかなかった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







オマケB・タリス



タリスはお土産売り場へと来ていた。ルーク達もそれぞれ気になる物があるようで、ああだこうだ言いながらもお土産を選ぶ声が聞こえてきて思わず笑みが浮かぶ。



「タリス、何を買うか決まった?」



ティアがナタリアと共にこちらに向かいながら問いかけてきた。彼女の手にはレジウィーダへのお土産であろうチーグル製菓の新作スイーツの袋が下げられている。



「それが、色々とあって決まってないのよねぇ」



そう言って振り返った先にはぬいぐるみが並んでいた。可愛いものからちょっとセンスを疑う物まで陳列されているそれにティアが少し頬を赤らめながら近付く。



「可愛い……」

「あら、ティアはぬいぐるみが好きなんですの?」



ナタリアの言葉にハッとなるとティアはツンとした表情を作ると「違うわ」と焦り声で返していた。

それが何だか面白くて、タリスは声を上げて笑う。



「あはは、別に良いじゃない。女の子らしくて」

「べ、別に、好きじゃないわよ」



そうは言っても隠しきれていない照れが顔に出ていてタリスは更に笑う。

それを見てナタリアが安心したように口を開いた。



「元気が出たようですわね」

「え?」



どう言うこと、と彼女を見ると苦笑を浮かべていた。



「仕方がない事だとは思いますが、最近元気がなかったものですから……そんな風に笑うところは久し振りに見ましたわ」

「あ……」



どうやらかなり心配をかけていたようだ。途端に申し訳がなくなり、眉を下げるとナタリアは慌てたように手を振った。



「ど、どうしましたの!? わたくし何か余計な事を言いましたか!?」

「いえ、そう言うわけじゃないわ。ただ、心配をかけてしまったなぁって思ったら、申し訳なくなっちゃって」

「それは気にしないで」



と、ティアが言うとナタリアも同意した。



「そうですわ! 友達なんですもの。心配するのも当然ですわ」

「友達………そうね。ありがとう、二人とも」



そう言って笑うと、二人も安堵したように息を吐いた。

それから再びぬいぐるみを見ると、ふと思いついた。



(そう言えば、)



昨日、流れからトゥナロの話が出たのを思い出す。グレイを少し成長させたような、彼と瓜二つの顔立ちをしたローレライの使者。

イオンの話から元はローレライ教団の団員だったらしく、数年前に亡くなったとされている。

もしも、本当に彼が亡くなっていて、タリス達の前に現れているその姿がこの世のモノでないのだとしたら……───



「これは…………面白い事が出来そうだわ」



思わず漏れてしまう笑みに、足元にいた仔ライガは首を傾げながら「にゃあ?」と鳴いていた。






続く
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