A requiem to give to you
- 雪女の囁きと切られた糸(3/7) -



そう言ってセルシウスは己の手を胸の前に出すと、音素を集め始めた。



「これは?」



集まった音素の光を見つめていると、それは突如弾けてヒースの頭上から降り注ぎ始めた。

驚いて見上げるが、それは攻撃的なモノではないようだ。少しひんやりとするが寒すぎる訳でもなく、寧ろ己を守るかのように包み込んでくれていた。



『理に愛された者……ヒース。微々たるものだが、我の祝福を与える』

「祝福?」

『それでどうか、我らが同胞を救ってやってくれ。きっと我以外の者達も、今のお前なら出会い、力を貸すだろう』



だが、と真剣な眼差しでセルシウスはヒースを見た。



『決して、力に呑まれるな。過度な力は人の心も体も容易く壊す』



使いすぎるな、との警告なのだろう。

祝福と称した光が自身の体に吸い込まれるようにして消えたのを確認すると、ヒースは「わかった」と頷いた。



「ありがとう。必ず助けるよ。この世界も、そして君の仲間達も」

『この旅路に、其方らの幸がおおからん事を───』



そう小さく微笑むと、セルシウスはどこからか吹いてきた粉雪に紛れて消えていった。

ヒースは己の右手を見た。



「理に愛されし者、か」



光を救う者だとか、まるで小説とかゲームの主人公のようで、何だか少しむず痒い。

だけど、



(これであいつらの事も守れるかな?)



守られてばかりじゃなくて、何も出来なかったと後悔するのでもなく、自らの手で今度こそ……。



「──────よし、戻ろう!」



ヒースは大きく白い息を吐いてから気合を入れたようにそう呟き、街に向かって走り出した。






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N D2002。イフリートデーカン・×・×の日。

ついこの間のことです。

私たちの故郷が消え、戦争が始まりました。

その日は故郷で一番偉いお家の息子さんのお誕生日で、本当は私たちの家族もお呼ばれされていました。

でも、父のお仕事が忙しく行けそうにありませんでした。それに家族みんなで故郷から遠い地にいたので、今年はお祝いのお手紙だけ送りました。その数日後に、この知らせが届いたそうです。

帰るべき家も、お友達も、みんなみんな無くなってしまったと、父と母は悲しんでいました。

私も少しだけ悲しかったけど、寂しくはありません。だって私には………がいるから、大丈夫です。

でも、父と母はそうではないようです。知らせが来てからずっと笑顔を見せてくれません。それは少しだけ嫌だなって思いました。

──────

N D200×。ノームリデーカン・×・△の日。

私と………はベルケンドの音機関研究所で働くことになりました。

今は研究所のお手伝いが中心となると思いますが、ゆくゆくは故郷の消滅した理由を見つけたいのです。

父と母の笑顔を奪ったその原因。それが解れば、また昔みたいに皆で幸せに暮らせるかも知れない。

………も私と同じ気持ちで、ここまで一緒について来てくれました。それはとても心強い事です。

………が一緒なら、私は何でも出来る気がします。

これからも一緒に頑張ろうね、………。

──────

N D200×。シルフデーカン・○・○の日。

ここで働きながら色々と調べてみてわかった事がありました。

故郷であるホドが滅びた理由。それは当時マルクトが研究していた超振動と言う第七音素同士をぶつけ合って生まれたエネルギーによって島ごと海に沈められたそうです。

その時の被験者の名前はヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデ。この名前は聞き覚えがありました。

私たちの遠い血縁関係にある家の人で、昔何度か会った事があります。あまり覚えてはいませんが、とても優しくて面倒見の良い人だったかと思います。

どうやら故郷の研究者達は当時行っていた研究を攻め入ってきたキムラスカに奪われたくなくて、この人を使って超振動を引き起こしたようです。

戦争の原因であるキムラスカもですが、あえて自国を消滅せんとしたマルクトも大変やる事が下賤です。………もこれを知って怒っていました。

それは当然でしょう。父と母の笑顔を奪った原因は敵国キムラスカではなく、自国であるマルクトだったのですから。

──────

N D200×。シャドウリデーカン・○・×の日。

今日は、昔ここで研究していた人の部屋に間違って入ってしまいました。その人はもうずっと昔に亡くなっているとの事ですが、重要な資料がたくさんあるとかで部屋はそのままにしているようです。

そこで少し不思議な物を見つけました。見た目はただの資料だったのですが、その題名が妙に目についたのです。

『異次元エネルギーの提唱』

一年近くここで音素の研究をさせてもらっていますが、このようなモノの存在は初めて知りました。

詳しくは書き切れないので省きますが、どうやらこのエネルギーは次元を超越するほどの力があるのだとか。

まるでお伽噺のようですが、それが本当なら………過去に戻れたりするのかな?

………にも、この話をするかは迷っています。だって、あまり現実的でもないですもの。

過度な夢を持つのは、無為意味ですから。






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