A requiem to give to you- 白銀に歌う追複曲・前編(5/6) -
「イオン様、ご存知なのですか?」
「僕も詳しくは存じませんが、何年か前までローレライ教団に所属していた人物の名前だったと記憶しています」
「あたしも名前だけなら聞いた事あるかも。確か、詠師の一人でしたよね?」
イオンに続き、アニスも思い出したようにそう言うと、イオンは「そうですね」と返した。
それから直ぐに出た言葉は耳を疑う物だった。
「しかし彼は……
何年も前に亡くなっている筈です」
その言葉にシン……と、誰もが言葉を失った。
暫くしてレジウィーダが「あのさ」と口を開いた。
「実は、それこそ幽霊だったりしてね☆」
「実態はあったぞ」
ウインクしながらの言葉に即座にグレイが突っ込む。
「けどよ導師。オレもアイツが教団所属だって知らなかったぞ?」
確かにそれっぽい服装はしていたが、とグレイは自分とよく似た彼の人物の格好を思い出す。
「それは……元々彼の存在が極秘だったからです」
「極秘?」
はい、とイオンは頷く。
「彼を知っているのは導師である”僕”と大詠師モース、そしてヴァン。……それから彼を指導していた者のみでした」
「本当にごく一部って感じなのねぇ」
「でも名前は教団の所属名簿に載るから、名前だけは知っているけど誰かはわからないって人が多いんだよ。あたしみたいに」
「だから聞き覚えがあったんだわ」
アニスの言葉にティアも漸く合点が行ったようだった。
「しかし、これ程までに隠されていたと言うことは、何か重大な役目でもある人だったのでしょうか?」
「……すみません。彼についてはヴァンやその兵士に一任していたので、”僕”は詳しくは知らないんです」
「そう言うものなのか?」
レジウィーダやグレイはイオンの言葉の意味が直ぐにわかっていたので疑問に思わなかったが、”イオン”についての事実を知らないことからすればおかしい事を言っているように感じるのだろう。
案の定ヒースがそう疑問を口にすれば、グレイがフォローに入った。
「教団の現状を見ればわかるさ。トップはコイツだけど、実権の殆どがモースやヴァンが持っているような状態だからな」
「……すみません」
申し訳なさそうに謝るイオンに、グレイは「導師が謝る事じゃねーだろ」と言って話を戻した。
「ま、死んだかどうかの事実は別として、オレらは確かにアイツがローレライの使者として今、この世に存在しているって事しかわからねェ」
これ以上の事ばかりは本人に聞くしかねェ。
そうはっきりと言い切ったグレイにタリス達も「今はそれしかないわねぇ」と同意するしかなかった。
「因みに私はレジウィーダが言っていた預言の事くらいしかわからないわ」
「僕もタリスと同じだ」
タリスに続き、ヒースも同意する。
「預言、なぁ。でもローレライの願いだって言うユリアの詠んだ預言を覆して欲しいってのはどう言う事なんだろうな?」
ガイがうーんと考えるようにそう呟くと、他の仲間達も同じように考え出す。
「それについては、あなた達は何か知っているんですか?」
ジェイドの問いに四人は再び顔を見合わせると、首を振った。
「ざっくりとは知っているんだけど……でもそれは、自分たちの目で確かめた方が良いかも知れない」
レジウィーダがそう言い、三人も同じ考えのようで黙って彼女に話を委ねていた。
「あたし達が伝えるのは簡単だよ。でも、人が言ったからってそれが本当に正しいかはわからない。勿論、皆を騙すつもりはないけどさ」
でもね
「最終的に自分達で真実を見つけて、考えた方が良いと思うんだ」
預言を覆すのなら、尚の事。誰かの言葉に振り回されず、自分の行動は自分で決めていく。その過程で、情報として誰かの言葉だったり、預言だったりを活用するのは良いのだと思う。
「だから皆には考えて欲しいんだ。本当に預言を覆す必要があるのかも、全て含めて」
「でもそれで私達が預言を覆すつもりがなかった場合、あなた達の目的が達成されないんじゃないの?」
ティアがそう言うと、レジウィーダは「大丈夫だよ」と笑った。
「成るようになるって!」
「適当すぎねぇか!?」
ルークのツッコミは最もだが、それでも四人は考えを変えるつもりはなかった。
「言っただろ、考えろって。オレ達が喚ばれた意味も、預言の存在意義も。………何故、第七譜石だけが未だに見つからないのかも」
全部、な。
そんなグレイの言葉にルーク達は戸惑いながらも頷いて返すことしか出来なかった。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
「では、長くなって来たので次で取り敢えず最後にしましょう」
そう言ってジェイドはレジウィーダを見た。
「先程も話題に上がりましたが、フィリアムについてです。あなた達と合流前にシルフィナーレと会いましてね。そこで彼が貴女のレプリカだと言う話を聞きましたが、それは本当ですか?」
「本当だよ」
隠す事もなくレジウィーダは頷いた。
「あの子が生まれたのは二年ほど前。偶然なのかはわからないけど、あたし達がこの世界に来た日だ」
「二年……? たったそれしか経ってないのか?」
自分の事と比べているのかルークが信じられないようにそう言うと、ジェイドが「刷り込みですね」と説明した。
「普通、レプリカは生まれた時は赤ん坊と同じく歩き方一つ知らずに生まれてきます。ですが刷り込みの技術を用いれば、ある程度の知識を教え込む事が可能です」
「そうだったのか……」
「まぁ、被験者本人の記憶までは刷り込む事は出来ませんがね」
そう言ったジェイドの表情はどこか寂しい色を帯びていた。
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