A requiem to give to you
- 遠い記憶が望むコト(7/9) -



「まさかフィリアムから言われるとは思ってもみなかったからさ、あたしもアイツもなーんも気持ちの準備が出来てなかったから驚いたよね」

「そうでしょうね。ですが、そんな簡単に戻せるのでしたらもっと早く出来たのでは?」



当然の質問。しかしレジウィーダは首を横に振った。



「持ち主が嫌がってたら無理だと思うよ。でも、きっとこれを逃したらもう二度とこの記憶は戻らなかったのかも。だからフィリアムも決断してくれたんだと思う」



だからこそレジウィーダも、そしてグレイも意を決してその提案を呑んだ。それからグレイは直ぐにフィリアムの手を取ると、反対の腕をレジウィーダに触れさせて能力を発動させた。彼が直接能力を発動させたところは初めて見たが、【トロイメライ(夢想曲)】、だなんて実に彼らしい名前だと思った。

彼の能力によりフィリアムから少しずつ、懐かしい記憶が流れ込んできた。最初に頭の中に浮かんだのは、銀世界だった。それから見覚えのある白、金、銀………それらとたくさん遊んで過ごした思い出達。

実に二年ほどは過ごしたのではないだろうか。当時は己よりも小さかった人達にいつものように絡みつつも、彼らを支える白に悩みを打ち明けたのも思い出した。その悩みは、その場では結局解決はしなくて、けれど決して無駄とも思わなくて………物心ついた頃から持っていた考えを揺るがした。

そんな記憶達の最後には…………白と黒を纏ったモノに襲われ、雪で出来たキャンパスを真っ赤に染めた己自身がいた。



「でも、そこまでだった。何でだか、全部の記憶が戻ったわけじゃなかったんだよね」



けれど、嘗てこの世界に来た時の記憶が戻ったのは大きな収穫でもある。自鳴琴から兄との思い出。フィリアムからは雪国での思い出。あとの一つが戻らなかったのは少し残念だったが………でも、少しだけ安堵もしていた。



「何にしても、この世界にいる間に君達のことを思い出せて良かったよ」



そう告げると、ジェイドも頷いて返した。



「私も、良かったと思います──────宙」



と、ジェイドは己を本名で呼ぶ。そんな彼を静かに見ると、ジェイドは真剣な眼差して見返しながら口を開いた。



「私がこうして生きていられたのは、貴女があの時に守ってくれたからだ。……だから、













ありがとう」



それから、



「傷付けてしまって、すみませんでした」

「ジェイド……」



いつか、シェリダン港で言っていた事を思い出した。まさか本当に謝罪を言われるとは……なんて頭の片隅で考えていると、ジェイドは更に続けた。



「あの事件で貴女は勿論、貴女を大切にする人達にも取り返しのつかない事をしてしまったんだと思います。けれど貴女の幼馴染み達は事実を知っても私をその事で責めなかった。別に責めてほしい訳ではありませんでしたが…………それでも、正直堪えてました。そしてきっと、貴女も私を許すのだろうと、思っています」

「………そうだね」



どことなく悲しみを帯びたような彼に頷く。そんな彼に「でもね」と言った。



「許すのは、君に罰を与えたいとかそう言う訳じゃないんだよ。君は君で今までたくさん悩んで、傷付いて来たんだと思う。それにルークも言っていたけど、ジェイドがフォミクリー技術を作ったおかげで出会えた奇跡だってある。それにはあたし自身も本当に感謝してるんだ」



だからさ、とレジウィーダは笑った。



「生まれたからにはレプリカだって一人の人間なんだ。その命は大切にしてあげなくちゃ! ───それに、技術自体は何も悪いことだけじゃないんだし、これからは開発者の君がその良さを広めていかなくちゃね」



それが君が取るべき責任、とレジウィーダは言った。それを罰と捉えるかは彼自身だが、でもこれからのこの世界にとっても決して無駄なことじゃない。

ジェイドは暫く何を考えていたが、やがてしっかりと頷いた。



「わかりました………必ず、やり遂げてみせましょう」

「うん、よろしくね!」



ジェイドの言葉に大きく頷く。それから彼はそうだ、と思い立ったように別の話題を口にした。



「それはそうと、レジウィーダ。貴女は全てが終わったら、やはり元の世界に帰りますよね?」

「勿論だよ。やりたい事もあるからね。でも、それがどうしたんだ?」

「いえ…………大したことではありません」



ですが、とジェイドは続ける。



「今の貴女ならば、大丈夫だとは思いますが………───もし、もしもですよ?」

「? うん」



どこか勿体ぶるような言葉に首を傾げつつも続きを促すと、彼は優しく笑った。



「前のように、貴女があの三人といる事が辛くなるようであれば………















その時は、私のところに来ませんか?」



静かに告げられた筈のその言葉は、この空間にはとてもはっきりと響いた。

レジウィーダは目を瞠ってジェイドを見る。そんな己にジェイドは言った。



「勿論、無理にとは言いません。ですがもしも来ると言うのなら、私は貴女の望む形で迎え入れます」

「望む、形?」



はい、とジェイドは頷いた。



「貴女が、宙が私に求める形です。兄妹、親子………それ以外でも、何でも構いません」

「………でも、それって君の意志じゃないよね?」



彼がそう言うからには、彼なりに求めるモノがあるのではないか。そう思って問うと、ジェイドは小さく笑って返した。



「この歳になると、案外一人であの家にいるのは寂しく感じるんですよ。求める形がないと言えば嘘になりますが、だけど私は…………どんな形でも、貴女に側にいてほしい、と思うんです」



ですが、



「貴女には私よりもずっとずっと大切なモノがある。叶えたい夢も、希望も持っている───だから、これはあくまでも逃げ道、です」

「逃げ道……」

「辛くなったら、いつでもお待ちしております」



そこまで言うと、ジェイドは話を切り替えるように手を叩いた。



「さて、そろそろ進まなければ………待ちくたびれたルークやグレイ達が喚くかも知れませんからね♪」

「そう言う割には楽しそうだけどね?」



そうは言うも、世界の崩落は待ってはくれない。レジウィーダもこれ以上この話に突っ込む事はせず、気持ちを切り替えるとジェイドと共に再び奥へと向かった。
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