A requiem to give to you
- 遠い記憶が望むコト(3/9) -



「オレ自身もまだ色々とやりたい事があるんだよ。こんな所で音素に引っ張られて消滅しましたとか、くっだらない死因なんて作りたくはないな」



ハッ、とそう言って鼻で笑うとトゥナロはヒースを追い抜かして歩き出す。



「オレは見届けなけりゃあならねェ。ローレライの使者として、お前達の刻む時を。それと…………あいつらの決断を、な」

「………………そう」



あいつら、と言うのはグレイか、或いはレジウィーダなのか。それとも、両方だろうか。その答えはわからない。

ヒースは先程とは意味合いの違う溜め息を吐く。それから大剣を収めると、トゥナロの隣りに並びながら足を進め始めた。



「自棄になってる訳じゃなければ良いよ。………けど、あんた自身がどんな未来を望んでいるのか、それはもう少し考えても良いんじゃないか?」

「………………」



再び黙り込むトゥナロに、ヒースは前を向きながらこう続けた。



「親友が、消える姿なんて誰も見たいとは思わないからね」

「──────!」



隣りで驚いたような気配を感じた。しかしヒースはそれに何かを言うことはなく、皆との合流を急ぐ為に歩く速度を上げたのだった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







同時刻、タリスとグレイもまた、皆との合流に向けて歩いていた。幸いにも落ちた高さ自体は大した事はなかった為、片腕が使えないグレイも何とか上手く着地が出来、動く左手にナイフを持ちながら辺りを警戒しつつタリスと並んで足を進めている。

魔物の気配はない。しかし油断は決して出来ない。普通ならあるそんな緊張感などどこへやら、グレイは隠す事なく大きな欠伸を繰り返していた。



「ふあぁ………ねっむ」

「あなたねぇ………」



タリスは気が抜けたようにそんな彼を見た。



「今日ずっとそんな感じだけど、ちゃんと寝なかったの?」

「あー…………まぁ、ちょっとな」



その言葉に途端に不安になる。グレイ自身寝ることは好きだが、何かと不眠症になる事が多い。少し前もかなりの長い間まともに休めない日が続いていたくらいだ。最近はしっかりと眠れていたと思っていたが、もしかしてまたもや何かあったのだろうか……と、タリスは心配げにグレイを見ると、それに気が付いた彼は首を横に振った。



「別に眠れなかった訳じゃなくて、やる事があってあまり寝る時間がなかっただけだよ。だからンな顔して見るな」

「やる事?」



そうだ、とグレイは頷く。



「ただ後ろで見ているだけなんてしたくねーからな。少しでもあのクソ野郎に一泡吹かせる為に準備をしてたンだ」

「そうだったのねぇ。因みに、どんな準備をしてきたの?」

「それは……………秘密」



そう言ってグレイはフッ、と笑う。



「急拵えだし成功するかは半々だけど、上手くいけばヴァンを殴り放題に出来る可能性はある」

「まぁ、それ楽しみねぇ♪」

「つっても、タイミングがかなり難しいから、もしかしたら使わないって事もあるかも知れねーけどな」



だから過度な期待はするなよ、と言うグレイだったが、けれどタリスはそんな彼が昔のような悪戯好きな面を見せている事が嬉しかった。



「わかったわ。でも、まだ怪我が完治している訳じゃないのだから、決して無理はしないで」



未だに彼の右腕のギプスは取れていない。他の傷はすっかり治っているようだが、流石に一度折れた腕は直ぐにはくっつかないのだろう。それでも早い方ではあるのだが、だからと言ってヴァンのような相手にまともに渡り合うのは不可能だ。



「ルークやガイだっているし、後衛には大佐さん達もいる。それに私達だって………隠れていて、とは言わないけれど、それでも無理にヴァンと戦おうとは思わないでよ」

「わかってるよ。オレだってこれ以上痛いのは勘弁だし、あまり無茶するといよいよヒースにぶっ殺されかねないしな」

「ヒースに? 寧ろその前に私が氷漬けにするわよ」

「……………………」



彼の言葉に疑問を抱きながらも素直に思った事を告げたのだが、グレイは何とも言えない表情で口を閉ざしてしまった。そんな彼にニッコリと笑う。



「何か言いたい事でもあるのかしら? 今だったら聞くわよ」

「………いや、別にないです」

「そう、それは残念ねぇ」



面白い返答を期待していたのだが、流石に無茶振りだったか。それとも相手が己だったからだろうか。



(きっと、これがレジウィーダだったら………もっと色々と言い返していたのかも知れないわねぇ)



そんな事を思うも、不思議と嫌な気分にはならない。寧ろ、ここにレジウィーダがいなかった事が残念なくらいだ。きっと、そんな二人のやり取りを見てみたかったのだろう、と自らに結論付ける。



「そう言えば」



と、タリスは思い出したように言う。



「実は地球に帰った時にね、レジウィーダのお父さんに会ったのよ」

「あいつの?」

「ええ。つまり、未来のお父さんでもあるわね」



それでね、と続ける。



「後から思い出したんだけど、私………あの人に会った事があったなって思って」

「へぇ、そうなのか」



あまり興味がなさそうな反応なグレイにタリスは足を止めた。そんな己に不思議そうに同じく足を止めたグレイを向くと、



「あなたも、会った事があるのよ」



と、告げた。
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