A requiem to give to you
- 不透明は鮮明に(6/6) -



「明日、アブソーブゲートでヴァンとの決着が着いたら………終わるのかな」

「どうしてそれをオレに聞くんだ?」



尤もな問いにフィリアムは俯く。だがしかし、それでも誰かに聞きたかったし、聞いて欲しかった。



「だって………元々、姉さん達がこの世界に来た目的はユリアの預言を覆す事だって聞いてたから。秘預言については俺もあまり詳しくは知らないけど、でも少なくとも今ルーク達がやっている事が成功すれば、滅びの道は回避出来るんだろ?」

「………………」

「そうなれば姉さん達は元の世界に帰る事になるし、フィーナさんも………姉さんを殺す事が出来なくなる。残った問題は、俺達が一つずつ片付けていけば良い」



そう、だから明日ヴァンに勝って、外殻大地を無事に降下させたら旅は終わる。この世界に生きる者達は皆、障気や消えゆく大地に恐怖する事もなく、この先の未来を歩む事が出来るようになる。

大団円ってやつだ。丸く、とはいかなくとも、和平を結んだ事でキムラスカとマルクトが手を取り合い、そこにダアトやケセドニアも入れば、いくらでも良い方向に持っていくことが出来る筈だ。

















筈、なのに……



(でもやっぱり、いざその時が来ると………少し、寂しいな)



フィリアムとしての意志を持ち、飛び立った日から得てきた思い出。その大半を占めるのはやはりダアトで一緒に過ごした人達だ。その中には当然レジウィーダやグレイもいて、五月蝿くとも賑やかで楽しかった。

ルーク達とこうして旅をするようになってからは新しい仲間を得て、また違った刺激に心が躍った。何だかんだとこちらを気にかけてくれるヒースも、いつだって優しく接してくるタリスも、フィリアムにとっては既にかけがえのないモノとなっている。

もう、前のように宙の記憶で感情を左右されないと誓った。だけどそれを抜きにしても、やはり寂しさは抜けないようだった。しかし別にそれで恨んだりとかはしない。フィリアムはこの世界の事も、関わってきた人たちも大切である事を知っているから、無理にレジウィーダ達について行こうとも思ってはいない。

そんなフィリアムの葛藤をトゥナロは分かったのだろうか。彼は大きな溜め息を吐く「あのな」と、言葉を紡いだ。



「明日で終わるかどうか、なんてのはわからねェ。仮にあいつらに勝ったとしてもヴァンがどこかへ逃げるかも知れないし、もしくはそれを超える程のとんでもない事をしでかすかも知れない」

「とんでもない事って?」

「さあな。けど、面倒な事を避けたいのと、お前が望んだ形を実現したいのなら………目の前に迫る戦いだけでなく、ヴァン自身の動きには最後まで油断せずにかかった方が良い………とだけ言っておく」



そう言ってトゥナロはこちらに背を向ける。それからフィリアムに聞こえるかどうかの小さな声で言った。



「もしも本当にあいつらとの時間が最後になると思っているのなら、お前の中にあるモノをどうするかの決断もちゃんとしておけよ」

「あ…………」



そう言われ、フィリアムは思わず自身の胸に手を当てる。トゥナロはまるで自身にも言い聞かせるかのように「後悔しない選択をしろ」とだけ告げると、再びどこかへと歩いていってしまった。



「…………俺の中に、あるモノ」



誰もいなくなった空間で一人そう呟く。それが何であるのか、なんて最早愚問だ。

だってそれは、宙の記憶だから………それをどうするのかを決めろ、とトゥナロは言いたいのだろう。強制的に消したり、戻したりするのならばレジウィーダの側で死ねば良いのだと思う。それで彼女の記憶は戻るだろうし、何なら分離した力も彼女の元へと還る筈だ。

しかしその方法はフィリアムも、そしてレジウィーダも望んではいない。けれどトゥナロの言い方的には、それ以外の方法があるのだろう。そしてその方法と言うのもまた、何となく予想はついている。



『フィリアム、一つだけ教えて欲しいのだけれど』



前に地球に行った時、タリスが言っていた言葉を思い出した。



『あのね──────

















前の宙は、陸也の事が好きだった?』



最初は何故それを態々己に問うたのかと思った。しかし今のレジウィーダに問うても答えなど持ち合わせてはいないし、知るよしもない。だからこそ、当時の記憶や感情を知っている己に聞いたのだろうと後になってわかった。

今のレジウィーダ自身の感情なんて、当然本人ではないのだからわからない。しかしあの時の事だったら、フィリアムでもわかっていたから………だから正直にタリスに伝えてあげた。態々恋人の好きだった奴の感情なんて知りたいのか、とも思ったが、しかしその答えに彼女自身は満足していた。それが、彼女自身の答えでもあったのだろう。

ならば───



「………………俺の答えも、一つしかないよな」



フィリアムはそう呟いて、一つの決断をした。その結果の先がどうなるのかは予想はつかない。だけど、きっと………それでもあの人達は、変わらず四人で居続けるのだろう。そう考えたら、何となく心が軽くなったような気がした。











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