A requiem to give to you- 不透明は鮮明に(4/6) -
「ルーク、私はね。あなたに会えて良かったって、心の底から思っているの」
「タリス……」
「突然知らない場所に来て、行き場のない私やヒースを受け入れてくれた事。遊んだり、勉強したりしながら一緒に過ごしてくれた事、旅をしてくれた事、それに………最後まで諦めなかった事」
タリスは一度言葉を切り、それから今までの事を思い出すように再び言葉を紡ぎ出す。
「大切な人に裏切られても、仲間達に見捨てられそうになっても、あなたは自分で一生懸命考えて、行動してきた。偶に卑屈になるし、それでティアとかに怒られる事もあるけれど、それでもあなたは諦めず喰らいついて、こうして今を生きていてくれている」
私はね、
「あなたのそんな姿が眩しくて、でもそれがすごく素敵だと思った。だからこそ、皆もあなたを信頼しているのよ。……だからね、きっと大丈夫よ」
「大丈夫って、何がだよ……」
不安げなルークにきっと寂しがり屋な彼を傷つけてしまう、けれどとても大切な事を告げる。
「私達がいなくなっても、あなたはやっていけるわ」
「……………っ」
ルークは息を呑む。その肩でミュウも両耳を垂らして目を潤ませている。そんな二人に笑いかける。
「そんな顔をしないで。あなたにはこの旅の中で素敵な仲間達に出会えたじゃない」
「でも、タリスやヒース達だって………俺の大切な仲間だ!」
わかってるわ、と頷く。
「私だって、そう思ってる。だからこそ、思うのよ………あなたの幸せを」
「幸せ……」
小さく言葉を繰り返すルークにタリスは「ねぇ、ルーク」と彼の名を呼ぶ。
「あなたを本当に幸せにするのは、それはきっと私ではないわ」
「え?」
「私の、あなたにとっての役割は……送り出す事。もしかしたら必要はないのかも知れない。だけど少しでも、あなたが傷付かずに済む道があるのなら、私はそれを見つけて背中を押すの」
時折、ルークの己を見る視線の意味には気付いていた。彼自身がそれを理解していたかはわからないが、それでもタリスは彼の手を取ることは出来ない。
だって彼には、もう………素敵な宝物があるのだ。この旅を通して誰でもないルーク自身が得た、最も信頼し合い、支えてくれる人が。
別れが近いからこそ、今はこちらに対する寂しさの方が多いのかも知れない。だけど、きっと彼が自身の本当の気持ちに気が付いた時───本当の意味で彼は己の幸せを感じられるようになるのだろう。
「ルーク、真実を見失ってはダメよ」
タリスは真剣な眼差しでルークを見上げる。
「あなたの幸せは、あなた自身の手で守るの。その為にも、明日の戦いは絶対に負けられないわ」
「………わかってる」
と、ルークは小さく頷く。それから肩にいるミュウを手に取ると何故かその大きな両耳を手で掴んだ。当のミュウ本人は「みゅみゅ?」なんて言いながら疑問符を浮かべているようだったが、ルークは構わず話を続けた。
「いつかは帰るってのは最初からわかっていた事だし。確かに寂しいけど、でもお前はお前で帰る場所がちゃんとある……から、だからちゃんと、最後は笑って送り出すよ」
「うん、ありがとう」
優しいその言葉にお礼を言うと、ルークは首を振った。
「俺の方こそ、こんな俺をずっと見守ってくれてありがとう。俺、屋敷にいた頃は師匠やガイ以外にこんなにも親しくなれた人がいなかったから………すごく、嬉しかったんだ」
あのさ、とルークは少しだけ俯きながら続ける。
「俺、一つだけ悔しい事があったんだ」
「悔しい事?」
そう言うと彼は頷く。
「もし、もしもの話だけどさ。お前がこの世界の人間か、もしくはグレイ達よりも先に俺がお前と出会う事が出来ていたんだったら…………もっともっと、嬉しかったんだろうなって」
「ルーク………」
それはつまり、やはりそう言う事なのだろう。どうやら彼はわかっていたようだった。
ルークは自分で言っていて恥ずかしくなったのか、途端に顔を赤らめながらも頭をブンブンと振り、それから改めてタリスを見た。
「と、とにかく! そう言うのを抜きにしても、お前が俺にとって大切な仲間で、友達である事に変わりはないんだ。それはお前達が元の世界に帰っても変わらないからな!」
「ふふ、わかってる………わかってるわ」
タリスはそう言って何度も頷く。彼は大切な友達。それは、この先一生会えなくなったとしても、変わることはない。
そう、例えタリス自身が皆との関係が変わろうとも………それだけは、変わらない。
「さ、ルーク。私の事は良いから、そろそろ行ってあげるべき所があるんじゃないかしら?」
タリスはそう言ってルークを促すと、彼も思い当たる節があるようで、ミュウをまた肩に乗せ直すと頷いた。
「ああ、………タリス」
そう言って最後にタリスの名を呼ぶルークは、穏やかに笑った。
「今まで、本当にありがとう」
「私の方こそ、」
ありがとう。そう一言告げると、今度こそルークを彼の最も大切な人の元へと送り出した。
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