A requiem to give to you- 桜色は笑う(8/8) -
アリエッタはその時の事を思い出すように語り出した。
「あの時、イオン様のお墓………見つけたんだ」
「あ………」
本当は亡くなった事にしてはいけないから、お墓とも言えない教会の裏にひっそり亡骸を埋められた場所だ。そうそう人が立ち入らないし、行ったとしても普通にはわからない。だけど彼女には、わかってしまったのだろう。
「最初は、信じられなかった。イオン様はいるのに、何であそこからイオン様の匂いがするんだろうって。でも、今までの事をたくさんたくさん考えたの…………そしたら、わかりたくないけど…………わかっちゃった」
そう言ってアリエッタはグレイを見た。
「グレイは、ずっとヒントをくれてたんだよね。私、覚えてるよ。『目に見える事実が全てじゃない』って、言ってた事。アリエッタに……私に、自分から本当の事に気付いて欲しかったんだなって、直ぐにわかった」
グレイは目を伏せる。それが答えでもあった。
「『そう言う判断をせざるを得なかった奴の気持ち』って、言うのも……、皆が、言ってくれた通りだったんだね………っ、」
少しずつ、その声に嗚咽が混じっていく。そんな彼女にレジウィーダは今度こそ彼女に駆け寄った。
「ごめん、なさい………本当は知っていた、のに………信じたくなくて、ずっと、逃げてた………」
静かに涙を流す彼女をレジウィーダは抱き締めた。自分よりも小さな体から伸びた腕が己の服を掴むのを感じ、そっとその背中を撫でる。
「でも、シルフィナーレも言ってたんだ」
「フィーナさんが?」
うん、と頷く。
「イオン様はもういないって。知ってたけど、やっぱり言われると………嫌でも本当なんだって、思ったら………悔しかった」
だけどね
「イオン様の、気持ち……私が直接聞けなかったのは、悲しいけれど………でも、知ることができて、良かった。だから
ありがとう」
アリエッタは顔を上げ、涙に濡れたその顔で精一杯の笑顔を浮かべていた。
「アリエッタ……」
と、クリフが彼女の名前を呼んだ。
「私では、貴女の今までの寂しさを埋めてあげる事は出来ません。ですが………もし、貴女が良ければ、これからも側にいても良いですか?」
「クリフ………」
「私もまた、貴女にいろんな嘘をついているし、まだ明かす勇気は持てません。ですが、いつか必ずお伝えすると約束します…………どうでしょうか?」
そう言ったクリフの手が震えているのをグレイは気付いていた。彼がどれ程の覚悟でその言葉を口にしているのかを理解したが、それでも口を出す事なく見守っていると、アリエッタはレジウィーダから離れると、クリフを向き直った。
「勝手にいなくならないでいてくれるなら………良いです」
「………! はい、勿論です!」
彼女の言葉にクリフは花が咲くような笑顔で返した。それがどことなく年相応に見えて、胸が暖かくなるような感じがした。
そしてアリエッタは次にシンクを見た。
「シンクも、一緒にいてくれますか?」
「は? 何でボクまで…………」
「だって、シンクに食べられたご飯とかおやつとか。まだ全部返してもらってないもん」
「何その理由!?」
ふざけてんのっ、と憤慨する彼にアリエッタはクスクスと笑った。一頻り笑った後、最後にルーク達を見てアリエッタは言った。
「ルーク。それにアニス達も………アリエッタは、あなた達が目指す世界で生きるよ」
「「!!」」
「だから、負けたら許さないから……………がんばって」
その言葉にルークは、アニスは………しっかりと頷いた。
「ああ、任せとけ!」
「あったり前じゃん! 絶対にやり切ってやるんだから♪」
二人のその言葉に、アリエッタは満足そうに笑うと空にいた魔物を呼んだ。どうやら一匹だけではなかったようで、四、五匹程が彼女の側に降り立つと、アリエッタはこちらを振り返った。
「これからリグレット達を探して、それからダアトに戻る……です」
「あ、……教官達は……生きているのかしら?」
ティアが何とも言えない表情でそう言うと、シンクが肩を竦めた。
「どうだろうね。ただ、こんな所で待ち伏せていたくらいだし、馬鹿正直にやられるような奴らじゃないでしょ……………ま、仕方がないから一緒に探してやるよ」
そう言ってシンクは一匹の魔物の背中に乗り込んだ。それに倣うようにクリフも別の魔物に乗る。
「私は当然アリエッタについて行きますよ」
「うん、二人とも……ありがとう」
それじゃあ、またね。
アリエッタはもう一度こちらを向くと小さく手を振り、それから一番大きなフレスベルグの背に乗る。それから魔物達に合図を出して飛び上がると、山の麓に向かって去って行った。
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