A requiem to give to you
- 桜色は笑う(7/8) -







…………………。




















「───っ!?」



レジウィーダはハッと目を覚ました。辺りは真っ白で、体が動かない。どうやら雪の中に埋もれているようだった。



「み、んなは………」



あの術が発動されてから、どのくらいの間気を失っていたのかはわからないが、とにかく今はここから脱出しない事には皆の安否はわからないだろう。耳を澄ませるが、誰の声も聞こえず、何がどうなっているのかも全くわからない。



「吹けよ業火、全てを焼き尽くせ───フレアトーネード!」



炎の竜巻が発生し、レジウィーダを中心にそれは広がり、急速に雪を溶かしていく。地面に足を着け、辺りを見渡せば案外近くにいたのか、仲間達が気を失って倒れている。リグレットとラルゴ、そしてアリエッタは………姿が見えない。

それより、今は皆が先だった。



「皆! ───!?」



駆けつけようとした時、目の前に誰かが降ってきた。



「っ…………アリエッタ」



どうやら魔物によって空に飛んでいたらしい彼女は、倒れている仲間達を向くと右手を振り上げた。

トドメを、刺そうと言うのか───



「やめて!!!」



レジウィーダが必死に叫ぶ。しかしアリエッタは勢いよくその手を振り下ろした。















「ハートレスサークル」

「え?」



アリエッタが術を口に出した瞬間、仲間達を包み込むように優しい光が溢れた。あまりにも予想外の動きにレジウィーダは混乱から動けずに彼女を見つめるしかなかった。

やがて光が収まると、仲間達は次第に意識を取り戻した。



「う、いっててて………」

「何が起こったの……?」



どうやら全員無事のようだ。仲間達は辺りを見渡し、そしてアリエッタの姿を見ると驚いたように彼女を見た。



「ア、アリエッタ!?」

「……………………」



彼女は何も言わない。そんな彼女に皆が戸惑ったように言葉をかけられない中、レジウィーダは一度深呼吸をすると、静かにアリエッタの側に歩いて行った。



「アリエッタ」



名前を呼ばれ、アリエッタはこちらを振り向く。彼女は俯き気味にぬいぐるみに口元を当てて隠し、しかし視線はしっかりとレジウィーダを見ていた。



「───ごめんね」



その言葉は静かに辺りに響いた。



「イオンの事。騙すつもりはなかったんだ」

「………………」

「ここにいるイオン君やシンクは、確かに君の大好きだったイオンじゃない」



やはりアリエッタは何も言わない。しかし、ぬいぐるみを抱える手に力が籠ったがわかった。それでもレジウィーダは言葉を続けた。



「イオンは、病気だったんだ。君に自分の苦しむ姿を見せたくなかったんだよ。だから黙ってた。君をあの子の導師守護役から解任したのも、自分以外の人の守護役になってほしくなかったんだって………言ってた」

「オイ、アリエッタ」



グレイがクリフに肩を借りながら立ち上がり、話しかけた。



「こいつの言っている事は紛れもない事実だ。今のイオンやシンクはあいつのレプリカだ。自分の代わりを立てる為にレプリカを作ったのも、お前を守護役から切り離したのも、全てイオン自身がそう命じたンだ。ヴァンやモースにな。勿論、あいつらはあいつらでそれぞれ思惑もあったから、完全にお前を哀れんでたわけじゃねェ………けどな」



と、グレイはシンクとイオンを見た。



「お前がどう思ってるかは知らねーけど、こいつらだって生きてる。騙すとか騙さないとかじゃない。こいつらは心を持ち、自分だけの時間を…………生きてるんだよ。わかってて黙ってたオレらを憎むのは構わないけど、それだけは否定しないでやってくれ」

「グレイ………」



イオンが溢れ出す感情を抑え込むように名前を呼ぶ。それからアリエッタを向くと、意を決したように彼女に向かって言葉を紡いだ。



「アリエッタ。僕は…………レプリカです。貴女の言う通り、嘘付きです」

「イオン様!」



アニスが立ち上がるが、彼は首を振って彼女を下がらせると、続けた。



「僕は、貴女のイオンになる事は出来ません。僕自身も、そして………オリジナルのイオンも、それを望んではいませんから」

「…………………」

「こんな形で貴女に真実を明かす事になってしまい、すみませんでした。グレイはああ言ってくれましたが、僕の事を恨んでくれても構いません。ですが、一つだけお願いをするのなら……」



首からかける音叉のペンダントを握り、イオンは悲しげに微笑んだ。



「貴女を大切に想っていたあの人の心だけは、受け止めてあげて下さい」

「…………………」



アリエッタはぬいぐるみに顔を隠す。イオンも、シンクもそしてレジウィーダ達も、静かに彼女を見つめる。

どのくらいの時間が経ったのだだろうか。一分、あるいは数十秒だったのかも知れない。長くも短くも感じたその時間の末、やがて彼女は顔を上げ、小さく口を開いた。



「あのね


















知ってたよ」



え、と誰かの声が上がる。皆が驚きに彼女を見ていると、アリエッタは控えめに、しかし優しげな笑みを浮かべた。



「本当は、わかってた。イオン様の事」

「え………いつから?」



レジウィーダが問う。



「前に、フィリアムが皆に飛行譜石を渡した時に……ダアトにいたでしょ。その時、だよ」

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