A requiem to give to you
- 桜色は笑う(6/8) -



「貴方達の存在が、私を変えた。だからもっと、この世界の進む未来を見てみたくなったんです」



だから安心して下さい、とクリフは笑う。



「私は貴方達の敵にはなり得ません。貴方達が………君達がこの世界を好きでいてくれる限り、僕は君達の味方だよ」

「お前…………」



グレイは何かを言いかけ、しかし首を横に振ると肩を竦めた。



「お前がそう言うンなら、これ以上は何も言わねーよ。疑うような事言って悪かったな」

「いえ………それよりも」



と、クリフは先程までの雰囲気を霧散させ、少しだけ焦ったように己の手を握り締めた。



「アリエッタがいる可能性が高いのなら、シンクを連れ戻さねばなりません」

「戻さなくても良いンじゃないか?」

「っ、ですが……それでは余計な火種を生む事になりかねない」

「もし、本気でやばそうだったらその前にトゥナロが止めてるだろうよ」



だって彼はきっと、自分よりももっとこの世界について知っているのだろうから。そんな彼は寧ろシンク達がついて行くのを止めるどころか、促しているまであった。



「そろそろ、清算の時だ。イオンとの約束は破る事にはなるが……………でも、あいつら(レプリカイオン達)を本当の意味で生かす為には、いずれは必要な事なんだと思う」

「…………………」

「戦う事は避けられないかも知れねェ。あっちが本気で殺すつもりで来るのなら、こちらも相応に相手する他ない。そうなれば、負けた時…………下手をすれば命を落とすだろうな」



でも、



「オレも、あいつらも負ける事はない。こちら死んだら全てが終わりだから。例え相手がアリエッタだろうが、絶対に負ける訳にはいかねェ。───だから、もしもそうなった時にはよ
















お前がアリエッタを救い上げてやってくれよ」



え、とクリフは顔を上げた。グレイはフードから除く彼の両目と初めて目線が合い、しかしそれに何かを言うわけでもなくフッと笑みを浮かべた。



「あいつが真実を知って、絶望するかも知れない。ずっと騙していたオレ達を恨むかも知れない。それでも、あいつには生きていて欲しいと望む奴らがいる。その時に、誰よりもあいつを大切にしているお前が側にいてやってくれ」

「………君、本当にグレイ? まさか君にそんな事を言われるだなんて…………いたっ!?」



絶句したように言うクリフにグレイはその自分よりも低い位置の頭に「うるせーよ」と拳骨を落とした。



「人が良い事言ってるンだから、ここは素直に受け止めとけ。それよりも………どうするンだよ?」



やるのか、やらないのか。

そう問われたクリフの答えはもう、決まっていた。



「…………僕よりも先に彼女を死なせるわけがないだろう? あの子にはこの世界の行く末を見ていてもらうんだ。こんな事で、終わらせる事なんてさせないよ」



クリフはフードを深く被り直す。それからグレイを追い抜かすと、顔だけ振り返った。



「お前こそ、寒さとその怪我で動けなくなる前に街に帰れば?」



そんな挑発的な言葉にグレイは鼻で笑った。



「っざけンな。ここまで来てノコノコと一人で引き返せるかっての」

「…………そう来なくてはね」



クリフも同じように笑い、それから二人は仲間達に追い付くべく足早で先へと進み始めた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「───そこまでだ!」



そんな鋭い声と共に轟音が響き、ピタリと止めた足元の雪が舞い上がる。ルーク達は腕や武器で顔を守り、雪を振り払い前を見るとそこには、予想通りの人物が武器を構えて佇んでいた。



「リグレット教官………!」



ティアが彼女の、リグレットを呼びながらナイフを構える。それにルーク達も倣い、そして直ぐに背後からの気配に気が付いた。



「後ろからも来ます!」



ジェイドの声に皆は背を合わせ、敵を注視していると、自分たちが今し方歩いてきた道からはラルゴが現れた。



「ラルゴ!」



ラルゴは無言で大釜を構えてルーク達を見据え、それからシンクの姿に目を見開いた。



「………シンク!?」



その声にリグレットも驚いたように彼を見た。



「お前………生きていたのか!?」

「まぁ、お陰様でね。どうにも離してはもらえなかったよ」



シンクはフッと笑う。しかしシンクも、そしてリグレットやラルゴもまた、その顔にどこか焦りが浮かんでいた。

それもそうだろう。何故ならば………


















「──────嘘つき」



囁くような、小さな声が聞こえた。聞き覚えのある少女のそれに、ルーク達は恐れていた事態が来てしまった事を察したのだった。



「アリ、エッタ…………」



いつもなら側にいる魔物を一匹として連れず、不気味とも思えるぬいぐるみを強く抱きしめたアリエッタが、こちらを見ていた。その表情に温度はなく、感情は読み取れない。そんな彼女に誰もが背筋に雪とは違う冷たさを感じずにはいられなかった。



「アリエッタ、これは───」



イオンが慌てたように前に出る。しかしアリエッタは「来ないで」と彼を拒絶した。



「あなたは、アリエッタのイオン様じゃ……ない。シンクも、そう」

「「……………っ」」



二人は息を呑む。リグレット達も何を言ったら良いのかがわからずに彼女を見ていると、アリエッタはこの場にいる全員を睨みつけた。



「皆、嘘つきだ…………リグレットも、ラルゴも…………レジウィーダ達も…………アリエッタに隠し事をしてたんだ!」

「待て、アリエッタ! これにはちゃんと理由がある!」



リグレットがそう言うが、アリエッタは決して聞き入れようとはしなかった。そのままぬいぐるみを前に突き出して掲げると、途端に彼女の周りに急速に音素が集まり始めた。



「始まりの時を刻め───
















ビックバン!!!!」



瞬間、ルーク達だけでなく、リグレット達をも覆い尽くさんばかりの暗闇が広がり、そして───




















「ティア、レジウィーダ! 皆を守れ!!!」



グレイのそんな叫びが聞こえたと同時に、真っ白な光と共に爆ぜた。


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