A requiem to give to you
- 桜色は笑う(4/8) -



「前々から警告はされていたんだ。ただ、どんな存在かは今日初めて知ったけどね」

「何にしても、今後はシルフィナーレだけでなく彼女とも戦う事になると思います。あれは正真正銘の化け物だ。人をいたぶり、殺し、破壊する事を悦ぶ。下手な慈悲など持てば、間違いなくこちらがやられます」



ジェイドは真剣な眼差しで仲間達を見据える。



「彼女と対峙するのなら、こちらも本気で相手をしなければなりません」

「そうだね」



と、頷いたのはレジウィーダだった。



「化け物はともかく、放っておけばたくさんの死者が出てしまう。そうならない為にも、ネビリムさんは止めなくちゃ………勿論、ヴァン達もね!」

「……俺さ」



ルークが静かに言葉を紡ぐ。



「ジェイドがフォミクリーを作ったから、こうして生まれる事が出来たんだ。確かにアッシュの、本物のルークではないけれど…………でも、こうして皆と旅をしているのは俺自身だからさ。その、上手く言えねぇけど…………」



でも、とルークはジェイドを見上げて笑った。



「ありがとうな、ジェイド」

「…………そんな風にお礼を言われるような事ではありませんよ」

「それでも、少なくとも……俺はレプリカ技術が悪い物だとは思わないし、感謝してる」



真っ直ぐな言葉。そんな彼に流石にいつものふざけた事は言えなかったのか、ジェイドはもう一度眼鏡のブリッジを指で押し上げると踵を返した。



「とにかく、用心に越した事はありません。まだ六神将やヴァンとの戦いもありますから、動けるのでしたら陽の出ている内にセフィロトに向かいますよ」



そう言ってジェイドは足早に部屋から出ていってしまった。残された仲間達は顔を見合わせ………それから面白そうに笑った。



「大佐、照れてましたね〜」

「本当にな、案外可愛いところあるじゃないか。あのおっさん」

「つーか、子供に言いくるめられてるのマジウケるな」



にやけ顔のアニスとガイにグレイもそう言うと、ルーク達も頷いた。そんな彼らにレジウィーダは気を取り直すように声を上げた。



「よーし、取り敢えず話はまとまったって事で、サクッとセフィロトに向かおうー!」

『おー!』



元気な仲間達の声。先程までの不安など感じさせないそんな雰囲気に、ネフリーもどこか嬉しそうに兄の出ていった扉を見つめていた。

それから知事邸を出ると、入口にはジェイドの他にフィリアムとシンク、クリフがいた。



「ジェイド君お待たせー」



声をかけるとジェイドは頷き、仲間達を見た。



「皆さん揃いましたね」

「ああ、直ぐにセフィロトに向かうんだろ?」

「はい。ですがロニール雪山は天気が変わりやす上、吹雪く日も多いです。アルビオールで行くには危険ですので、ここからは徒歩で行くことになりますが………準備はよろしいですか?」



その問いにレジウィーダ達も頷く。それからシンク達を向いた。



「シンクとクリフはどうする?」

「まぁ、どうせここにいたって仕方がないし、ついて行ってやるよ」

「うわ、すっごく上から目線なんですけど……」



シンクの言葉にアニスが少し引いたように呟く。聞こえてはいるだろうがそれにあえて無視を決め込んだシンクはクリフを見る。



「お前はどうするのさ」

「私は…………」



クリフは言い淀む。どうしようか悩んでいるのだろうか。そんな彼にトゥナロは足元まで来ると前足で小突いた。



「悩むくらいなら一緒に来い」



トゥナロの言葉にレジウィーダもそうそう、と笑う。



「旅は道連れ、世は情けってね!」

「…………わかりました。私もついて行きましょう」



クリフは頷き、一行に加わった。それから直ぐに荷物をまとめると、ロニール雪山へと向かったのだった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「こっちこっちー!」



一度は行った事があるレジウィーダ、タリス達の案内でセフィロトへと歩みを進める。本来ならば強力な魔物が彷徨く上、降り止まぬ雪により視界も悪くかなりの危険がある場所ではあったが、道がわかっている分、ルーク達が思っていた以上に順調に進んでいた。



「時にレジウィーダ」



道中、何の前触れもなく唐突にジェイドがレジウィーダを呼んだ。



「なあに?」

「ディストから少し気になる事を聞いたのですが」

「ディスっちゃんから?」



ええ、とジェイドは頷くと、彼は降雪が彩る空の向こうに見える山脈を指差した。



「貴女は、あの奥に行った事があるのですか?」

「奥って…………ああ、あそこね。うん、行ったよ」



レジウィーダは隠す事もなく肯定する。それに驚いたのはナタリアだった。



「まさか一人で行ったのですか!?」

「? ナタリア?」



意味がわからずにルークがナタリアを見ると、彼女は戸惑ったような顔をしてこう言った。



「前に本で読んだ事があるのですが、シルバーナ大陸を北西部と南東部に分断する山脈。特にこの山を北に抜けた北西部と言うのは、常に雲に覆われていて、雪が止む事がないそうですわ」

「ついでに言うと、」



と、そう言ってガイも補足を入れる。



「噂じゃあ、そんな場所に足を踏み入れた人間は、殆ど帰って来ないって話だぜ」

「な、何だそりゃ………つーかお前、そんな所に何しに行ったんだよ」



よく無事だったな、とルークが言うと、レジウィーダはうーん、と顎に手を当てた。



「正確言うと、あの時はトゥナロさんもいたからね。それに天気もそれ程悪くなかったから、意外とサクサク行けたんだよ」

「それ、サクサク行けたって言うより、間違いなくコイツが何かやったよね。………そこの所はどうなの?」



今度はクリフがトゥナロに問う。しかし問われた本人は「どうだったかな」と、面倒なのか回答を放棄していた。
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