A requiem to give to you
- 光と闇の凶戦士(5/5) -



「フフフ、ダアトにいた時は大した事はないと思っていたけれど………なかなか粘るじゃない」

「ダアト……?」



どう言う事かと彼女を見る。しかしそれに彼女が答える前に、微かに聞き覚えのある歌が耳を掠った。



トゥエ レイ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ



あっ、と思ったその途端、レジウィーダは急激な眠気に襲われた。



「っ………う、」



立っている事も出来ずに膝を付く。すると後ろからシルフィナーレが追いついてきた。



「私を忘れないで下さいな」

「ちょっと、まだ私は遊び足りないわ」



ネビリムはそんなシルフィナーレに不満そうに言う。それに少しだけ申し訳なさそうな顔をすると、シルフィナーレは「ごめんなさいね」と謝った。



「目の前に手の届きそうな獲物を前にすると、居ても立ってもいられなくて」



ですが、



「彼女、持っているエネルギーだけでしたらその辺の譜術士よりも余程あるかと思いますので、死なない程度でしたら持っていってもらっても構いません。そしたら最後は……………私が彼女を仕留めますので」



その言葉にフン、とネビリムは鼻で笑う。



「それは当たり前。そもそもアナタについて来ているのだって、そう言う契約があるからだもの………ま、私の手で壊せないのは残念だけど」

「あのさぁ………」



レジウィーダは何とか意識を繋ぎ止め、好き勝手に話し合う二人を睨み上げた。



「な、に…………人をおもちゃみたいに、言ってくれてる……わけ?」

「あら? まだ喋る元気があったんですね」



意外そうに目を丸くするシルフィナーレに「やかましいわ」と悪態を吐く。



「悪いけど、あたしは………アンタ達にやられる訳にはいかないんだよ」



だって、



「あたしは、あたしが壊しちゃった
















お兄ちゃんの………夢を叶えるんだから」

「………何ですって、?」



その時、ここに来てから初めてシルフィナーレの笑顔が消えた。



「思い出したんだよ。お兄ちゃんの事………そして、アンタ達双子の事も」



レジウィーダは立ち上がる。正直、まだ気を抜けば直ぐにでも倒れてしまいそうだ。それでも真っ直ぐと、彼女を見据えた。



「あたしはアンタの夢を叶える事は出来ない。死にたくないし、何よりもこんな事で叶えた夢の先で………フィーナさん達が幸せになれるだなんて思わないから」



だってきっと、ただ戻しただけでは………同じ事を繰り返すだけだから。



「過去に戻るよりも、未来へ進みたいんだ。生まれてから結ばれてきた縁とか、思い出とか………全部あたしの大切な宝物だ」

「………そんな事、許さないわ」



シルフィナーレは静かにそう返す。



「貴女が幸せになるですって………そんな事、絶対に認めない。私も、そして貴女も………たくさんの罪を重ねてきた。今更、未来を夢見るだなんて、許される筈がない!!」



それだったら、とシルフィナーレは叫ぶ。



「過去からやり直した方がマシよ!」

「でも、たった十数年戻しただけじゃあ、何も変わらないよ」



預言によって彼女の故郷は滅びた。日記から見た彼女の願いが家族の笑顔と、大切な半身を取り戻す事だと言うのなら……根本的な解決になどならないのだ。しかし、シルフィナーレはそれでも構わないと言う。



「預言なんて知らない。信じたい人が勝手に信じれば良いのよ。キムラスカにもマルクトにも、ユリアの預言にだって、誰にも私達の時間を邪魔させない。ヴァン様が預言や人類を滅ぼそうとも、私の夢が叶うのならば………いくらでも殺し、滅ぼせば良い!」



だから、とシルフィナーレはレジウィーダに向かい無詠唱で光の矢を放つ。それを何とか避けたが、まだ譜歌の効力が切れていない体はバランスを崩してしまった。その隙を見逃す筈がなく、目の前に一瞬で移動してきたネビリムが再び闇の剣を手にそれを振り上げた。



「───っ!?」



間に合わない、と瞬時に悟った。そんなレジウィーダに、彼女は囁いた。



「貴女は私の夢の礎となるの。だから…………


















ここで死んでね」



そんなシルフィナーレの言葉と共に、ネビリムは振り上げた剣を勢い良く振り下ろした。




















「させませんよ」



ガンッ、と鉄のぶつかり合う音がした。



「………え、?」



暫く聞いてなかった、けれどとても馴染みのある落ち着いた声。それにレジウィーダは思わず瞑っていた目を開く。するとそこには、




















周りの雪景色によく映えた、蜂蜜色があった。











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