A requiem to give to you
- 光と闇の凶戦士(4/5) -



思ったのと違う反応だったのだろう。シルフィナーレはおや、と首を傾げた。



「あまり驚かないのですね」

「そりゃあね。今までの事を思い返せば、自然とその結論に行き着いたからさ」



落とし物を預かっていたクリフが何も言わずにいなくなっていた。最近、再会した時には盗られたと謝られた。盗られたと言えば、水の都にあった筈の物も無くなっていた。その国で最も侵入が難しいとされる場所にあった筈のそれ。

そして何より、シルフィナーレ自身が前に持っていたあの光の杖もそう……………あれらは全部、封印を解く為の鍵だった。



「ディストにも会ったんだよ。あの人、詳しくは話してくれなかったけど、それでも………何があったのか、察するのは難しくなかった」



アンタでしょ、とレジウィーダは女性を向いた。



「ディスっちゃんに怪我をさせたのは」

「…………………」



相変わらず相手は何も言わない………かと思われたが、それは突然肩を震わせた。



「…………フフッ、…………アハハハハハハハッ!」



女性は初めて声を上げて笑い出し、それからこう言った。



「だって、それが私の存在理由だからよ!」



女性は愉しげに、今にも踊り出しそうな軽やかな足取りで歩いてくると、レジウィーダの直ぐ目の前に立った。下手に動けずに女性を見上げると、彼女は徐に被り物に手をかけて取り払った。………そこにあったのは、予想通りの人物の顔。



「……………ネビリム、さん」



いつか雪山の奥地で出会った霊魂と同じ女性の顔だった。しかしその性格は似ても似つかない。まさに破壊と搾取を悦んだ、狂人のそれだった。

レジウィーダはネビリムから視線を外さずにシルフィナーレに言う。



「フィーナさん、封印を解いてしまったんだね」

「ええ」



シルフィナーレは頷いた。



「だって、貴女を殺すにはこのくらいしないと駄目だと思ったので」



一体、どれだけの恨みが籠っているのだろう。下手をすれば自分だってやられかねない化け物を解き放ってまで、己を殺そうとするその意思。

しかし、



「でも、あたしをただ殺すだけじゃ、あなたの望みは叶わないんじゃないの?」



元々はフィリアムとレジウィーダの持つ力を一つに戻そうとしていた。しかしフィリアムがこちらに着いた今、お互いを殺し合う事は決してない。そう思ってシルフィナーレを見ると、彼女は笑みを崩さずに言葉を紡いだ。



「私もそう思っていたのですが、一つの結論に思い至りましてね。貴女達の能力、何も貴女達に使わせなくても良い事に気が付きました」

「………どう言う事?」

「それは、」



そこまで言うと、シルフィナーレはコテンと首を傾けた。



「話す義理はありません」



それと同時に、ネビリムが右腕を素早く払う動作をした。その気配を察し直ぐにしゃがむと、何か重たい物が頭上を通過した。そのままバックステップで距離を取ると、彼女の右手には禍々しいオーラを纏う剣が握られていた。避けなければ、今頃首と胴体がおさらばしていた事だろう。



「フリーズランサー!」



レジウィーダは素早く術を放つ。詠唱を破棄していた為、威力は微々たるものだが、距離を取るには十分だった。案の定、ネビリムは飛んでくるいくつもの氷の欠片を難なく避け、距離が出来たところに更に術を重ねた。



「エナジーコントロール!」

「させないわ!」



ネビリムはこちらに向かって駆け出す。しかしそれよりも先にレジウィーダは術を発動させた。



「───ミラクルミスト!!」

「遅いわ!!」



ネビリムの薙ぐ剣がレジウィーダの体を斬る。一瞬にしてその身が二つに分かれた───かと思いきや、それは瞬く間に氷の塊へと変わり砕け散った。



「何!?」

「! ───正面を見て!!」



シルフィナーレが声を張り上げると同時に、レジウィーダはネビリムに向かって駆け出すのが目に入った。反応が遅れたネビリムは防御体勢を取った………が、そのまま突っ込んできたレジウィーダは何故かネビリムの体をすり抜けていった。感触すらないそれに二人は驚きが隠せない。しかもすり抜けたその姿もまた、数メートルと行かない内にかき消えた。



「まさか………」



と、二人が顔を上げ遠くを見ると、こちらを背に走り去るレジウィーダの姿が目に入った。



「幻覚、ね」



シルフィナーレは静かに言葉を漏らす。どうやら先程の術は細かい氷の粒子が見せた幻覚のようだった。

ネビリムは面白そうに口角を上げると、新たに左手に闇の杖を取り出しその場から一瞬にして消える。



「逃がさないわ」

「うげ」



レジウィーダの目の前へと姿を現したネビリムは剣を振り下ろす。レジウィーダはそれを横に飛んで回避するが、直ぐに横から杖が殴りかかって来た。



「危なっ!?」



当たる直前に後ろに転がって避ける。しかしネビリムの追撃は止まらず、彼女は武器を光の弓に持ち替える高く飛び上がり、三本矢を放ってきた。



「スターストローク!」

「紅蓮蹴撃!!」



その身に炎を纏い、回し蹴りで矢を撃ち落とす。地面へと着地したネビリムは心底楽しいと言った感じだった。
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