A requiem to give to you
- 光と闇の凶戦士(3/5) -



「シンクに、クリフ………お前達もいたのか」



事前に話を聞いていた為、シンクがいる事には驚かなかった。しかしクリフがいた事は予想外で、ルークが問うとタリスが思い出したように口を開いた。



「あ、そうなのよ。彼、怪我をしたディストを雪山から連れて帰って来てくれたんですって」

「え、そうなのか?」



そりゃまたどうして、とルーク達の視線を浴びたクリフは肩を竦めた。



「シルフィナーレの行方を追っていたらたまたま見つけたんですよ。放っておくのも良心が痛みますので、”心優しい”私はちゃんと保護したんです」

「…………よく言うよ」



後半はどうにも胡散臭いそんな台詞にシンクが小声で突っ込むと、クリフはフードから覗く口元を上げた。



「おや、シンク参謀長。何か言いましたか?」

「別に………“心優しい“部下を持ってシアワセだと言っただけだよ」



絶対に思ってないやつだ。

誰もがそう思ったが、あえて口には出さなかった。そんな二人にタリスは呆れたように溜め息を吐くと、同じような表情をしていたフィリアムに問いかけた。



「そう言えば、レジウィーダはまだ中にいるの?」

「いや」



と、フィリアムは首を横に振った。



「さっき俺達が行った時にはいなかった。少し前に帰ったらしいんだけど………そっちには行ってなさそうだな」

「ええ、一体どこへ行ったのかしら?」



そんなタリス達を他所に、ジェイドはルーク達に声をかけた。



「いないのでしたら丁度良いです。ディストの尋問なのですが………私に任せてもらえますか?」



え、と皆がジェイドを見ると、彼はニヤリと笑った。



「こう言うのは、軍人の役目ですから♪」

「あ、ああ……」



どことなく楽しそうで、けれどどうにも悪意が拭い切れない、そんな笑みを浮かべる彼を戸惑いながらも送り出した。

それから数分と経たない内に、















「ぎゃああああああああああっ!?」



───と、そんなけたたましい悲鳴が病院の外まで響き渡った。



『…………………』



うわぁ……、と誰もが心の中で思っていただろうその瞬間も、悲しき叫びは聞こえ続ける。



「や、やめろー! やめて! 死ぬー!?」



ジェイド、ごめんなさいー!!



「…………何だか、凄くデジャヴを感じますわ」

「シッ、それは言わない約束だ」



ナタリアがボソリと漏らした言葉にガイがこっそりと口止める。幸い、二人のその会話は誰にも聞こえなかった。

やがて悲鳴は止み、それから更に数分が経った後、ジェイドは何事もなかったかのように病院から出てきた。



「アンタ、相変わらずディストにキツイなぁ」

「おや、そうですか?」



ルークの言葉にジェイドはあっけらかんと答える。それから表情を引き締めると、ディストから聞き出した(脅し出した?)情報を話した。



「ロニール雪山ですが、地震の影響で雪崩が頻発しているようです。それと………最近彼はシルフィナーレと雪山の奥へと行って来たそうです」

「セフィロトにって事か?」



グレイが問いかけると、彼は途端に苦々しい顔をした。それにルーク達が訝しんでいると、ジェイドはそまるで、親の仇でも見るかのような表情で、「もしかしたら、」と口を開いた。



「六神将以前に………とんでもない化け物を相手にする事になるかも知れません」






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「はぁっ……はぁっ………な、何だってのもう!」



レジウィーダは雪道を全力で走っていた。雪山に出入りしていると言う者の正体を確かめる為に来ていただけだった。

確かに人はいた。しかし、その人物はこちらを見つけるなり直ぐ様襲いかかってきた。



「───!?」



背後にかかる殺気。反射的に横に飛ぶと、今し方己がいたそこが爆発した。積もっていた雪が一瞬にして溶けるどころか、地面すら抉れている。もろに喰らっていたらタダでは済まなかっただろう。



「あっぶなー…………て言うか、」



レジウィーダは言いながら杖を出し、後ろを振り返りながらそれを振るった。直後、ガキンッと鈍い音を立てて杖が弾き飛ばされる。



「瞬間移動とかズルいんですけど!」



理不尽さに叫ぶ。誰もいなかった筈のその先に、静かに降り立つ存在がいた。



「…………………」



高い身長だが、女性だとわかる豊満な体と、その身に纏う白と黒を基調とした、ラインがはっきりとした衣装。腰から生える、まるで羽のような派手な装飾。頭には衣装と同じツートーンの被り物。

相手は何も言わない。しかしそこに感じる圧は、その辺の魔物の比ではない。纏う音素も、隙の無さも………今まで出会った誰とも違う。














間違いなく、強い。

その時、目の前の相手とは別の、鈴を転がしたような小さな笑い声が聞こえてきた。



「楽しんでいるようですね」

「フィーナさん……?」



視線だけ声の先を見れば、予想通りの人物が木の影から現れた。シルフィナーレは楽しそうに目を細めると、白黒の女性の隣に立った。



「どうですか? とっても強いでしょう?」

「いや、誰だしこの人」



どっから連れて来た。素直に思った事をそのまま伝えると、シルフィナーレは一層笑みを深めた。



「運命の悪夢、とでも言うのでしょうか。貴女にも縁のある方ですよ」



悪夢、その言葉で全てを察した。



「なーるほどねー…………そーれは、丁度良かった」



レジウィーダはニッと笑う。



「探していたんだよ。そっちから来てくれて嬉しいや」
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