A requiem to give to you
- 再出発(4/5) -



「しかし、貴方もなかなか話のわかる人種のようですね」

「まぁ、まだまだ俄かですけど、元々機械とかそう言うのは好きですよ」



正直、高校も工業系に行くのを迷ったくらいだったと言うのはここだけの話だった。仕掛けの気になるおもちゃとかもよく陸也と分解したり、違う部品とくっつけて遊んだりしていた。それによって本来の物と違う動きや遊び方が出来てとても楽しかったな、とヒースが思い出にふけていると、ディストは悩ましげな声を上げていた。



「うーむ……。正直ヴァンの事がなければ、貴方とはもっと語り合いたいところではありますね」

「そのヴァン謡将の頼まれ事って言うのは、僕に関わる事ですか?」



何となく、今なら答えてくれるかも知れないと期待を持ちながら問うと、案の定同士を見つけた事に少しばかりの仲間意識(?)を得られたのかディストは快く答えてくれた。



「そうですね。ヴァンからは以前より貴方……ヒース・アクレイズについて身体検査をするように言われていました」

「何で僕だけ? 異世界の住人だからって事なら前からいた二人でだって出来たでしょうに」

「あの二人については既に検査済です。二人とも音素がない、と言うこと以外は正直調べても分かりませんでしたけどね」



人間としての生命活動は出来るし、血液の流れも、内臓機器だって正常に動いている。怪我をしても、風邪を引いてもちゃんと治る。しかし身体的な細胞の成長が見られない、と言う何とも不可思議な現象は、今も昔も答えは出ていない。



「生物学を研究する身としては、貴方達は実験動物としてこれ以上にない被験体だとは思いますがね。ですが、私にはそれよりもやらなければならない目的……いや、目標がありますから。それを成すまでは関係のないことは後に回したいのですよ」

「じゃあ、他の二人で検査が出来ているのならあえて僕を検査する必要はない、と言う事ですよね」

「そうですよ。だからヴァンが何を考えてこんな事をさせるのかが理解でき───」



そこまでディストが言った時、それを遮るように譜業装置の音が鳴り響いた。どうやら計測が終わったようで、ディストは直ぐにパソコンのような譜業へと向いてキーボードを操作し始めた。



「はぁ………だから結果は変わらないと言ったのに……──────ん? ………は、えぇっ!?」



溜め息混じりに画面をスクロールしていたが、ある項目に目がいくと途端に素っ頓狂な声を上げて画面に顔を近付けて何度もその部分を読み返していた。



「何かあったんですか?」



何が何だかわからないヒースが問うと、ディストは「信じられない」と困惑したように頭を抱えた。



「急に新しい事案を出すのは勘弁なんですが……」

「?」

「ちょっと待ってなさい」



そう言うとディストはキーボードを操作し、近くの印刷機へと向かった。それから印刷機から出てきた数枚の紙を手に取ると戻ってきてそれをヒースへと手渡した。

渡されるがままに紙を受け取ると目を通す。そこには身長、体重(何でこんなんでわかるんだ)、主属性を始めとした恐らく己の情報が書かれているのは何となくわかる。それ以外は正直何が書いてあるのかは理解出来なかったが、見かねたディストがある部分を指さした。

そこには……



「音素振動数?」



そう書かれた項目にはこの世界の文字で数字の羅列が書かれていた。それは決してエラーとか、不明とかではない。



「何で僕に音素振動数があるんだ?」



異世界からきた自分に音素がない筈だ。しかし音素振動数があると言うことは、少なからずこの体の中に音素が存在している事になる。

そう思っていると、ディストは更にその数字を読むように促してきた。



「3.14159265358979323846…………あれ、これって」



どこかで聞き覚えがあった。確かそれは、ケセドニアからバチカルへと戻る船の上でジェイドが読み上げていたモノと同じだった気がする。聞き間違えでなければ、とある形を表す数字と同じ……そう、それは



「貴方の音素振動数が、ローレライの物と一緒なんですよ」

「………マジかぁ」



そんな単純な数字で表されたくなかったなぁ、と言う声は心の中だけで呟いた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







アラミス湧水洞を出て直ぐにレジウィーダ達はダアトへ向かって歩き出した。ルーク曰く、アッシュがイオンとアニスをダアトに送り届けると言っていたらしいので、もしかしたら彼の助力を得られるかも知れないと思い向かう事となった。

暫く歩き続けていると、誰かが立っているのが見えた。



「あれは……ジェイド君だ! やっっほーいっ♪」



真っ先に気が付いたレジウィーダは、仲間の静止の隙も与えぬ間に流星の如く目と鼻の先にいるジェイドへと駆け出し、勢い良く飛びつきにかかった。

そんな騒がしい様子に直ぐにこちらに気が付いたジェイドは、きっといつものように何気なく避けていなすのであろうと皆が思っていたそれを軽々と受け止めたのだった。



「レジウィーダ……ですか」

「……………………………あれ?」



レジウィーダ自身も間違いなく避けられる事を想像していただけに、まさか受け止められた事にポカンとしてジェイドの腕の中で固まった。しかしジェイドはそんな彼女の様子を気にする事なく、彼はどことなく安心したように表情を緩めると「元気そうで何よりです」と言うと2、3回彼女の背中を軽く叩くと腕を離してレジウィーダを解放した。



「大佐、どうしてここに?」



レジウィーダに追いついてきたティアがそう問うと、ジェイドは思い出したように手を叩くとガイを向いた。



「そうでした。貴方に頼みがあってきたのです」

「? 何かあったのか?」



自分の名前が出された事に目を丸くしながらの問いに、ジェイドは途端に険しい表情を作るととんでもない事実を告げたのだった。

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