A requiem to give to you- 再生を求めて(8/8) -
「私達がいない間、ルーク達がどこまで進めたかはわからないけれど、可能性としてはメジオラ高原かザレッホ火山か、もしくはロニール雪山ってところかしら?」
「まぁ、多分だけどラジエイトゲートやアブソーブゲートではないとは思うね……知らんけど」
「何にしても、ここを何とかすればある程度はわかる筈よね」
そう言ってタリスはシンクを見た。
「これ、あなたが解く事は出来ないの?」
その問いにシンクは苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。
「ボクは導師のレプリカと言っても所詮は出来損ないだ。元々譜術の適正が低いから、ダアト式封咒を解除するレベルの術は無理だね……って言うか、出来るなら態々他国に喧嘩を売ってまでアイツ(イオン)を攫わないでしょ」
それもそうだ、だが……
「シンク、自分を卑下にしちゃダメ」
レジウィーダが怒ったようにそう言うと、シンクは罰が悪そうにしつつ口を閉ざした。そんな彼を一瞥しつつ、彼女はフィリアムに言った。
「フィリアムの能力で消す事って出来ないかな?」
それにフィリアムは難しそうな顔をした。
「出来なくはないかも知れないけど………多分、それしたら根元からなかった事になるから、後から組み直すのがかなり大変になると思う」
「けど、いつまでもこのままでいる訳にはいかないわ。背に腹は変えられないんじゃない?」
「まぁ、組み直しについてはローレライ教団に何とかしてもらうとして、いっちょやっちゃえ☆」
タリスに続きレジウィーダがそう言ってグッと親指を立てると、フィリアムは乾いた笑いを漏らしながらも頷く。そして彼は扉の前に立ち、両手を前に出して意識を集中しようとした……その時だった。
『───私で良ければ、力を貸しましょうか?』
そんな、落ち着いた声がタリスの耳に入ってきた。
「! フィリアム、ちょっと待って」
タリスが静止をかけると、フィリアムと他二人も何事かと彼女を見る。しかしレジウィーダは直ぐにわかったらしく、フィリアム達に口を閉ざすように人差し指を己の口元に当てた。
タリスが声のした方を見ると、そこには銀髪の女性が一人立っていた。
「あなたは?」
そう問いかけると、女性は首を横に緩く振った。
『……異世界からの訪問者達。私は、私の大切な子達を助けたいの……その為にも、あなた達は戻らなければいけないわ』
「………………」
何を、どこまで知っているのだろうか。今まで見てきた霊魂とは明らかに違う、とタリスは直感でわかった。警戒を露わにするも、彼女からは悪意のような物は一切感じられない。どうするべきかと思い悩んでいると、女性はタリスの後ろを見た。
『……約束』
「え?」
タリスが女性の目線の先を追うようにして振り向くと、そこにはタリスに見つめられて首を傾げるレジウィーダがいた。
(レジウィーダの事を……見てるの?)
女性はレジウィーダの事を知っているのか。しかし彼女自身、元々この世界に来た事があると言っていたのだから、もしかしたらその時の知り合いなのかも知れない。そう結論付けると、タリスは再度女性を向いた。
「具体的には、何をしてくれるのかしら?」
『この扉は特殊な印が結ばれているわ。解除するにはそれ相応の力と知識が必要になる。……私に出来るのは、力を補う事よ』
知識は、そこの彼がわかるわよね。
そう言って女性はシンクを指す。タリスはそれに一度考える素振りを見せた後、一つ頷いてシンクを見て言った。
「ねぇ、シンク」
「何?」
「今、あなたに力を貸してくれるって人がいるんだけど………試してみない?」
それにシンクは意味がわからないと顔を顰める。確かに彼はタリスの能力については知らないのだから、当然と言えば当然の反応である。
「後でちゃんと説明するけれど、私の能力でその協力者の力を一時的にあなたに付与する事が出来るのよ。あなたはこの封咒の解き方自体は知っているのでしょう?」
どうなの、と聞くとシンクは渋々と肯定した。
「なら、今だけで良いから私を信じて。譜術が苦手だと言うのなら、力を補う為に私も協力する。だから……お願い」
「……………まぁ、アンタ達について来た時点で奇天烈な事が起きる事なんて予想済みさ」
大きな溜め息と共にシンクはそう言うと、タリスの横に来た。
「それで、どうしたら良いのさ?」
そんな彼にタリスは頷くと、意識を集中させた。
「───ソウルコマンド」
力を解放すると、女性は光となってシンクへと吸い込まれるようにして消えた。
「! これは………!?」
シンクは驚いたように自身の両手を見つめ、次いでタリスを見た。
「どう? 行けそうかしら?」
「………ホント、何でもありかよ」
でも、とシンクは真剣な顔で正面を見ると、両手を扉に向けた。
「これで失敗なんてしたら、格好悪いよね」
そしてシンクが力を込めると扉に譜陣が現れ、まるで紐が解けるかのようにして開いていく。全てが綻んだ時、扉は音もなく消えてなくなった。それを見てレジウィーダは嬉しそうに両手を合わせた。
「おぉー! 消えた!」
「良かった」
フィリアムも安堵した表情で呟く。シンクはフン、と鼻を鳴らすと片方を振る。
「ま、良いんじゃない?」
それにタリスも頷いた。
「ええ───行きましょう!」
ありがとう、と心の中で名も知らぬ協力者にお礼を告げ、タリスはレジウィーダ達と共に外へと出る。
外の光に一度目を瞑り、吹き込む風の寒さに身を震わせる。次いでゆっくりと慣れてきた明るさに再度目を開くと、
そこに広がるのは、真っ白に輝く銀世界だった。
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