A requiem to give to you
- 再生を求めて(7/8) -



「仕方ないから、優しいオレ様が責任を持ってこの軟弱者達を今だけ守ってやるから、さっさと行って来い」

「どこまでも上から目線………」

「別に私は動けないわけではないわ」



乾いた笑いを浮かべるアニスにムスッとしたように腕を組むティア。しかしイオンとトゥナロがここまで言うのなら、とアニスはその言葉に甘える事にした。



「じゃあ、アニスちゃんがイオン様の分までしかとこの目に納めて来ますね!」

「ええ、行ってらっしゃい」



イオンに見送られ、アニスもルーク達を追うべく大きなツインテールを揺らしながら出口に向かって走って行った。



そしてアニスがセフィロトから火山へと戻った時、既にヒース達はソレと出会っていた。



「これが、イフリート……」

「巨人さんですのー!」



真っ赤体。燃える炎のような両手。特に特徴的なのは、その背や頭から生えるまるで悪魔のような翼と角。下半身はなく、腰から下は一本の尾のように垂れている。

人智を超えたソレを見たルークとミュウがそんな言葉を漏らす。流石に邪魔をしてはいけない、とヒースから少し離れた場所で仲間達は彼らの様子を見守っていた。

そしてヒースの目の前のソレは言葉を発した。



『よくぞここまで来た!』

「あ、どうも」

「いや、軽い!」



快活に声を上げたソレ、イフリートに対して何とも軽い返しだろうか。思わずアニスが突っ込む。しかし注目の者達は特に気にすることもなく、話を進めていく。



『既に他の者達から聞いているのなら、最早言葉など要らぬ。貴様に我が祝福を与えてやろう!』

「ありがとうございます」

『フン、精々己が力に溺れるような事をするなよ。我を使いこなせなければ、直ぐにでもその身を灰してくれるわ』



挑発的な言葉。どうやらイフリートは大分気性の荒い性格のようだ。ヒースはそんな目の前の存在に一度苦笑を漏らすと、直ぐにニヤリと笑った。



「ここまで来て、今更そんな調子に乗るようなことはしませんよ………けど、貰うからには存分に使わせて頂きますので」

『ガハハハッ! よくぞ言った! それでこそ我らが認めた人間よ!』



一頻り満足そうに笑い、それからイフリートは両手を掲げ、エネルギーを集める。そしてそれはヒースの頭上まで来ると弾け、彼に吸い込まれるようにして消えた。



「これが祝福、ですか。とてつもない濃度の音素ですね」

「そうですわね………普通の人間ならば、とてもじゃありませんが無事では済みませんわ」



譜術を使う者達にはわかるのだろう。その膨大な力に。ヒースの能力でなければこんな事などなかなか出来ない。

祝福を与えたと同時にイフリートも消え、ヒースは己の両手を何度も閉じたり開いたりした後、一つ息を吐くとルーク達を向いた。



「終わったよ」

「ああ、お疲れ」



ルーク達がヒースの側に行くと、ナタリアが心配そうに彼を見た。



「本当に、大丈夫ですの?」

「何ともないよ。寧ろイフリートの気性のせいなのか、何だか無性に体を動かしたい気分だね」



ナタリアを安心させるようにヒースは己の右肩に左手を置いて回して見せる。それにガイが苦笑した。



「おいおい、レジウィーダみたいな事を言うなよ」

「ですが、元気そうなので取り敢えずは良いのではないですか?」



ジェイドがそう言った時、入口の方から遅れてイオンやグレイ達もやって来た。



「おー、無事に終わったみたいだな」

「ああ、先に行って悪かったな」



声をかけてきたグレイにヒースが謝ると、それにはイオンが首を横に振った。



「大丈夫ですよ。ヒースにとって大切な事だったんですから」

「そう言ってもらえるとありがたいよ」



それからヒースはジェイドを向いた。



「それで、次のセフィロトは………」

「ロニール雪山ですね」



ですが、とジェイドはその前に待ったをかけた。



「先に一度ベルケンドへ戻ります。スピノザ達に頼んだ検証を確認して、それ如何で障気の処理についての答えが出せると思います」

「そうだな」



と、ルーク達も頷く。



「大地の降下をしても障気が残ってたんじゃ意味がいない。何とかする方法が見つかってると良いんだけど」

「その為の研究者、ですよ」



さあ、早くここを出て向かいますよ。

ジェイドの言葉に全員が頷くと、目と鼻の先にある譜陣へと足を進めた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇








場所は変わり、また別のセフィロトでは……。



「取り敢えず入口までは来てみたけれど……」

「閉まってる、わねぇ」



レジウィーダ達は中から仕掛けを解きながらも何とか出口と思わしき場所まで辿り着いた。しかしそこはまだ来た事がなかったらしく、目の前の扉はダアト式封咒により固く閉ざされていた。
/
<< Back
- ナノ -