A requiem to give to you- 再生を求めて(5/8) -
「まぁ、感じの悪い!」
「まぁまぁ、気持ちは分かるが、平和条約締結で戦争を起こすのが難しくなったから、機嫌が悪いんだろうよ」
邪魔されないだけマシだと思おうぜ、とガイが憤慨するナタリアを宥める。それにイオンも頷いた。
「彼は、預言を遵守したいだけです。大陸を崩落させて、レプリカ世界を創ろうとしているヴァンとは目指すものが違いますから、僕達を邪魔する理由もないのでしょう」
「正直、このまま一生大人しくしてもらいてェところだな」
グレイがそう言うと皆は同じように強く首を縦に振る。それからルークが目を伏せた。
「師匠、どこへ行ったんだろう………」
「そういや、トゥナロ。あんた港であの野郎をどっかに飛ばしてたよな?」
グレイはトゥナロを見やると、彼は欠伸をしながら「あぁ、」と思い出したように返した。
「適当な場所に飛ばしたっちゃあそうだが、多分とっくに帰ってきてるだろうよ。別に飛ばしただけで、それによって傷を負わせたわけじゃないからな…………まぁ、飛ばした先での事は知らんから、無傷かどうかはわかんねーけどな」
「ものっすごい無責任だな」
「でも、総長だったら普通に大丈夫そう………やっぱあの髭と眉毛に超人的な力が……!」
「笑うからやめろ」
トゥナロの言葉に呆れるグレイ、ちょけ始めるアニスと言葉と感情が伴わないツッコミを入れるヒース。相変わらず直ぐに脱線したがる仲間のこの雰囲気にルーク達も少しだけ和みつつ、それからいつもならばこう言う時に厳しい指摘を入れる者がいない事に気が付いた。
「……兄さん、まさか………」
「ティア?」
そんな呟きが聞こえ、ナタリアが声をかければ名前を呼ばれたティアはハッとした。
「何か、心当たりでもあるのですか?」
ジェイドが問うと、ティアは慌てたように首を横に振った。
「い、いえ………何でもありません。───とにかく、今は先へ進みましょう」
そう言って足早にモースの示した扉へと歩き出すティアにルーク達は顔を見合わせるが、特に深く追求するのはやめて彼女の後をついて行った。
そして扉を抜け、書庫のような部屋に入った。……しかしその先はどこかへと繋がるような道や扉など何もなく、完全に行き止まりだった。
「モースが言ってた事が確かなら、ここにセフィロトに繋がる道があるんだよな?」
ルークが辺りを見渡しながら言う。それにティアが「そうね」と頷いた。
「一本道、と言っていたから……もしかしたら隠し通路とかがあるのかも知れないわ」
「ふむ…………その辺はどうなのですか?」
一度考える仕草を取り、そう言ってジェイドが問いかけた視線の先にいたアニスが苦笑した。
「あ、はは………おっしゃる通りですぅ」
アニスはとある壁に向かうと、一見何もないそこに手を当てて押した。すると押された周辺が奥へと沈み、それから横へとスライドした。その先には、まさに隠し通路と呼べる薄暗い道が続いていたのだ。
「ほ、本当にあったんだな」
「ええ、モース様の嘘の可能性も考えられたから……少し拍子抜けだわ」
「ですが、トゥナロのヒントもありましたし、その可能性は限りなく低いと思いますよ」
「って言うかぁ、もっとアニスちゃんを褒めてよぉ!」
好き好きに言う仲間達にアニスが頬を膨らませる。それにグレイが鼻で笑った。
「褒められたいなら、最初から素直に案内してれば良かったじゃねーか」
全くもって正論である。
「では、そんな頑張り屋なアニスにはこの先の案内をお願いしましょう♪」
行きますよ、とジェイドが言うとアニスははぁい、と返事をして先頭を歩き始める。それにルーク達は苦笑しながらも後について進んだ。
そこから人一人通るのがやっとな狭い通路を抜け、やがて広い空間へと出た。奥には譜陣が一つ。どうやらここから火山へと向かうのだろう。ルーク達は立ち止まる事なく譜陣の上に立ち、移動した。
それから視界が明けるよりも先に感じたのは、燃えるような暑さだった。
「あ、っっちぃ…………」
砂漠地帯とはまた違った猛烈な熱気にルークは思わずそんな声を上げる。譜陣を使って移動した先にて、白ばむ視界が晴れた時、夜空とは対照的な明るい赤の空間が目に入ってきた。
「火山ってのは、本当だったんだな……」
その場にいるだけで滴る汗を拭いながらルークが呟く。そんな彼の横ではグレイが大きめのタオルをイオンに手渡していた。
「導師、これでも被ってろ。あまりこの熱気を直に当たってるとあっと言う間に倒れるぞ」
「ありがとうございます、グレイ」
嬉しそうに笑ってイオンはそれを受け取ると、直ぐに頭から被る。ローブでもフードでもないから特に留める物はない為、内側から手でタオルの端を持っている様は、何だかてるてる坊主みたいだった………のだが、
「…………………?」
「どうしました?」
突然首を傾げたグレイにイオンもまた同じように首を傾げる。
「いや………………まさか、な」
そう呟き、それから「何でもない」とイオンに向かって首を振ると、何やら仲間達が集まっている大きな譜石の方へと歩いて行った。それにイオンも慌てて小走りでついて行く。
「…………………」
そんな二人のやり取りをトゥナロは少し離れたところから見ていたが、それに気が付く者はいなかった。
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