A requiem to give to you
- 再生を求めて(4/8) -



「ンな事するわけねーだろって断ったわ」

「いや、断るなよ! お前どう見たって重症だろうが!」



あまりにも予想通りのその言葉にルークが突っ込む。しかしグレイは鼻で笑った。



「外傷はもうない。流石にバッキシいった箇所は自然にくっつくのを待つしかねーけど、それでも他はもう殆ど動けるから問題ねェ」

「七箇所も骨にヒビ入ってる癖に、そんな事を言えるお前の神経を疑うけどな」

「うるせっ。けど、もう殆ど治りかけてるって医者も言ってただろ」



ボソリと呟くヒースに返しつつそう言ったグレイにルーク達は驚く。



「え、もう!?」

「でも確かに、ナム孤島を出た時に比べて動きも軽くなったように見えなくはありませんが…………まさか痛み止めを飲んで誤魔化しているだけ、と言う事ではありませんわね?」



ナタリアが疑いの目を向ける。



「確かに痛み止めはもらったし飲んできたけど、そんな強いモンじゃねーし。だから嘘は吐いてない」

「仮にそうだとして、貴方はこれからどうするのですか?」

「決まってンだろ。このまま着いてくわ」



ジェイドの問いにグレイははっきりと答える。



「まぁ、流石にまともに戦闘なんて出来ねーのは百も承知だ。けど、まだタリス達も探さなきゃなンねーし、何よりもこのままやられっ放しになるつもりもねーンだよ」



そう言って彼は強く左手を握る。



「あのクソ髭野郎……散々コケにしてくれたからな。次は血反吐だけじゃ済まさねぇ!」

「でも血反吐は吐かせたのね……」

「ハッ、ただ一方的にやられるなんて冗談じゃねーわ」

「……………」



まるで子供のように憤慨するグレイのそんな言葉にヴァンの実妹であるティアは何とも複雑な表情だ。



「とにかく、だ。オレはここで離脱するつもりはないからな。右腕が使えなくったっていくらでもやりようはある」



それに、



「そもそもオレの専門は戦闘じゃないしな。もう少し動けるようになりゃ隠密行動くらいは出来る。情報を集めたり、敵のちょっとした数減らしくらいは問題ない」



そこまで言うとグレイは口を閉ざして皆を見た。それにルーク達はジェイドに視線をやると、彼はやがてやれやれと肩を竦めた。



「まぁ、わかってましたけどね。………そこまで言うのなら、存分に役立ってもらいましょう。なので、これからはたくさん扱き使いますね♪」

「大佐、最後だけなんかすごく楽しそう」



ニッコリと笑ったジェイドにアニスが呟くと、ガイとルークがその口を塞いでシーッと己の口に人差し指を当てていた。

そんなやり取りの末、グレイとヒースとの合流を果たし、一行は次なるセフィロトのあるダアトへと向かう事となった。



ダアトのザレッホ火山にセフィロトがあるのは既にわかっていたが、入口にはモースの息のかかった神託の盾兵が塞いでいて入れない。かと言って大胆に火口から入るにはあまりにも目立ち過ぎてしまう。そこで、イオンの提案により教会から向かう事になった。



「イオン、ザレッホ火山への通路ってのはどこにあるんだ?」



ルークの問いにイオンは申し訳なさそうな顔をした。



「すみません。あくまでも噂程度ですので、正確な場所まではわからないのです」

「じゃあ、虱潰しに探すしかないか」



さて、どこへ行こうかと考えようとした所で、ヒースがグレイを向いた。



「そう言えばグレイはレジウィーダと最初にこの世界で合流した場所がザレッホ火山だって言ってたよな。その時はどこから出入りしたんだ?」

「普通に出入り口からだ。特に裏道とかは行ってないからオレにもわかンねーぞ」

「そうか。……じゃあ、トゥナロは?」



トゥナロは神託の盾に身を置いていた事がある。今のこの自由な感じから、もしかしたら知っているのではないかとヒースが彼を見ると、彼はあっさりと是と答えた。



「まぁ、知ってはいるな」

「! なら教えてくれ!」



ルークが飛びつくようにそう言うとトゥナロは暫し考えた後、「本がたくさんある部屋を探せ」と告げた。



「悪いが、それ以上はオレからは言えない。……まぁ、後は知ってる奴が何とかするだろ」



そんなトゥナロの言葉に首を傾げていると、礼拝堂の扉が開かれた。



「おや、これは導師イオン。お戻りですかな?」



礼拝堂からはモースが現れた。その後ろにはトリトハイム、それから数名の兵士を連れ立っていた。それにルーク達は咄嗟に武器に手が伸びかけるが、それはイオンの言葉によって止められた。



「ええ。セフィロトを探しにきました」



隠す事なくそう告げたイオンにルーク達は固まる。しかしモースは気にする事なく頷いた。



「ああ、ユリアシティから報告は受けております。パッセージリングはあの扉の先にありますぞ。一本道ですから迷いますまい」



そう言ってモースは一つの扉を指差した。それはルーク達の知る《本のたくさんある部屋》とは違う場所だった。しかしルークはそれよりも気になった事あったらしく、モースに向かって問うた。



「ヴァン師匠はどうした?」

「ふん、奴は監視者としての責務を放棄して六神将と共に姿をくらましたわい。神託の盾も半数以上がヴァンの元へと走りおった」



忌々しい、とモースは米神に青筋を立てる。



「お陰でこちらは神託の盾の再編成で大忙しだ」



だからこちらに構っている暇はないと言いたげにモースはこの場を去ろうと足を進め、それから思い出したように顔だけを向いた。



「パッセージリングへ続く部屋は、侵入者避けの隠し通路の奥になっておる。精々気張って探せよ」



意地の悪い笑みを浮かべながらそう言うと、モースは今度こそこの場を去って行った。
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