A requiem to give to you- 知らない時間とぶつけた本音(6/7) -
だからこそ、隣で共に戦いたかった。シェリダン港で残ったグレイを一人にせず、無理矢理にでも一緒に着いて行くべきだったのかも知れない。しかしシンクがいた事を考えると、この選択が決して正しい物であるとも言えない。
(僕は、どうするべきだったんだろうか)
「あれだけ暴れ散らかして、随分と落ち込んでるなぁ」
背後から聞こえて来た声。幼馴染みと同じ声だが、その存在は明らかに違う。たくさんの音素に触れて来たからこそわかる、奴の気配に混じる純粋な第七音素。それだけでも、グレイとは違うのだと理解出来た。
「………随分と長い旅行だったな」
そう言って振り返れば、久しく見ていなかった人の形をしたトゥナロが立っていた。しかし何故かその長い髪の先が見覚えのある黒に変化している。
「……イメチェンか」
「まぁ、そんなところだ」
絶対に嘘だ。流石にそれはわかっていたが、どことなく言いたくなさそうな雰囲気を感じたので追求はやめておく事にした。
トゥナロは「それにしても」と頭を掻いた。
「お前も難儀だな」
「そう思うなら、もう少しあの馬鹿を何とかしろよ」
「出来たらとっくにやっとるわ………けど、あいつの気持ちもわからない訳じゃないから、オレじゃあお前の助けにはならないかもな」
「……………」
それはそうだろう。目の前の男はグレイの半身のようなモノなのだから。今はどうだかは知らないが、元々の考え方は同じかもしくはかなり似たようなモノなのだから。
そんなヒースの思考を察したのか、トゥナロはけど、と続けた。
「いつだって、”言葉”って言うのは良くも悪くも相手に何かしら響くモンだぜ?」
「言葉?」
「言いたい事は言える内に、後悔しないように………言っておいた方が良いってこった」
そう言うとトゥナロは一つ指を鳴らすと瞬く間に姿を消した。それと同時に、誰かの足音が聞こえてきた。それはどうやらこちらに向かって来ているようだが、一歩一歩が妙にゆっくりのそれが姿を現したのは予想よりも少しだけ遅かった。
「み、見つけた……」
「グレイ……」
浅い呼吸を繰り返し、覚束ない足取りでやって来たのはグレイだった。これでも一応ついさっきまで何日も意識不明になっていた筈で、相当ここまで来るのも辛かったであろう事は明らかだ。それでも、彼はヒースの元にやって来た。ヒースは言葉を吐き出せずに呆然と目の前まで来たグレイを見る。グレイは深く息を吐き呼吸を整えると、こちらを真っ直ぐに見た。
「ヒース」
「………何?」
「………──────ごめん」
グレイはそう言って頭を下げた。あのグレイが自ら、だ。あまりの事に戸惑っていると、グレイは顔を上げて言葉を続けた。
「お前がオレ達の為に強くなりたいって、思ってくれていた事。知っていたのに、蔑ろにするような真似をした」
「…………!」
「同情したとか、憐んでいたとかそんな訳じゃない。オレは……お前達の誰にも手を汚してもらいたくなくて、そんな事をさせるくらいなら、オレが全部やってやろうって思ってた。特にお前は、昔からたくさん傷付いていた事を知っていたから…………これ以上、悲しませたくはなかったんだ」
それは知っていた。だって、それが坂月 陸也と言う人間なのだから。自分が汚れ役になってでも、自らの守りたいモノを守ろうとする。そんな覚悟が、彼にはあった。
だけど、
「それは、僕も同じだよ」
そう、同じなのだ。ヒースにとって、グレイもタリスもレジウィーダも………それに未来だって、かけがえのない宝物なのだ。自らの手で守りたいと思うのは、当然の事だった。
「けど、僕はまだまだ力不足だ」
「そんな事は、」
「あるよ」
と、グレイの言葉を遮るようにして言葉を紡ぐ。
「でもだからこそ、一緒に…………これ以上大切なモノが傷付かないように、守っていきたかったんだ。今までお前が必死に守ってきた物を、僕も一緒に……ね」
「ヒース………」
悲しげに名前を呼ぶグレイの左腕を見る。そして今度はヒースが謝る番だった。
「僕の方も、さっきはごめん。お前が体を張ってくれたからこそ僕達は無事に地核に行けたし、イエモンさん達だって皆生きてここまで来る事が出来たのに……なのに」
ちゃんと、守る事が出来なくて……ごめん。
地核の底へと落ちて行った者達。生きている、と言う事はわかってはいるが、それでも今現在どこにいるのかもわからない。もしももう少し早く異変に気がついていれば、何かが変わっていたのだろうか。そんな後悔ばかりが募る。
「僕は、もっともっと強くなりたい。戦う力だけじゃなくて、心も。だけど一人じゃ限界はあるし、上手く行かないんだ…………だからさ」
だからこそ、
「一緒に、手伝ってくれよ」
どんなヒーローだって、仲間と戦う事はあるだろ。
そう言って笑う。グレイは一瞬ポカンと口を開けて呆然とするも、直ぐにどこか照れ臭そうに耳を赤くすると頭を掻いた。
「ったく、誰がヒーローだよ………………でも、良いぜ。オレだって、どうせ中途半端なんだ。一人より二人なら、まだマシになるだろうさ」
「なら、二人よりも三人。三人よりももっと沢山いれば、更に怖い物なしになるな」
二人の間に入るようにそう言った声に振り向けば、ガイが爽やかに笑っていた。その後ろではナタリアも同じ表情で佇んでいる。
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