A requiem to give to you
- 知らない時間とぶつけた本音(4/7) -



「お前達、よく無事で戻ったな!」

「ええ、本当に。心配していたのよ」



ヒースと共にナム孤島へと来ていたガイとナタリア、そしてノエルは先にここへ避難していたイエモン達と再会していた。譜業仕掛けがふんだんにされたこの場所は職人達にとっては楽園も等しく、予想よりも遥かに楽しそうにここの住人達と過ごしている姿を見た時は喜びよりも先に呆気に取られたのは言うまでもない。

それからシェリダンの住人や他の技術者達の無事を確認し終え、更には港で一人敵に立ち向かったグレイも来ているとの事でガイが筆談でヒースにそれを伝え先に向かわせたところで、この場に残っていたイエモンとタマラのこの台詞である。



「それはこっちもだよ! 事前に作戦を立てていたって言っても、相手が軍の幹部だったのよ。ここに来るまで気が気じゃなかったんだから」



ノエルがそんな二人にそう返す。気丈にも、ルーク達を心配させまいとずっと平気そうに振る舞っていた彼女だが、やはり己の祖父もいたのだ。不安じゃない訳はなかったのだろう。目にうっすらと浮かぶ涙を見ないフリをしながらも、ガイ達も頷く。



「本当だぜ。一時はどうなる事かと思ったけど、皆無事なようで良かったよ」

「ええ。ですがもしも怪我人とかがいましたら我慢せずに言って下さいませ!」



ガイに続けて言ったナタリアの言葉にイエモンとタマラは顔を見合わせると、それから苦い顔をした。



「ワシらは大して怪我はしとらんから大丈夫じゃ。………ただ」

「「ただ?」」

「グレイ、と言ったか。あの少年がな」

「! グレイに何かありましたの!?」



ああ、とイエモンは頷く。



「アストン達から少しだけ話を聞いたぐらいじゃが、どうやら敵の大将とドンパチやったそうじゃな。そのせいなのか、ここに運び込まれた時に大怪我を負っていたんじゃ」

「シェリダンの町医者に応急処置はしてもらって一命は取り留めたけど、未だに意識が戻っていないのよ」

「そんな………! わたくし、今すぐ様子を見てきますわ!」



そう言うが早く、ナタリアは慌ててヒースを向かわせた部屋へと駆けて行った。それにガイも「俺も行くよ」と後を追いかける。二人の背を見送り、それからノエルはあれ、と首を傾げた。



「ところでおじいちゃん」

「何じゃ?」

「グレイさんをここに運び込んだのってアストンさん達?」

「いいえ違うわ」



それに否定したのはタマラだった。



「魔物がキャシー達を連れてきた後、直ぐに港の方へと飛んで行ったんだけど、それから魔物は戻っては来なかったわ」

「……なら、誰がグレイさんを連れて来たの?」

「それはな、」



と、イエモンが続けようとした時、遠くから誰かの絶叫が聞こえてきた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







グレイは己の今の現状にとても混乱していた。何故、今自分は親友に締め上げられているのだろう……と。



「ヒース、ちょ……っ、いだだだだ!? いってェ! イテェって!? ぎゃあああああああっ!!!?」



目が覚め、最初に目が合ったのは親友ことヒース。お互いに呆然としていたのも束の間、彼が徐に己が運び込まれたであろう場所のベッドに乗り上げて来たと思えば、突然に視界は反転。驚く間もなく、背中に重みを感じたと同時に左腕を後ろに回され、本来曲がる方とは逆の方に捻り上げられた。ついでに折れている右腕は己の体とベッドの間に挟まっており、暴れ出しそうになるのを無理矢理抑え込むかのように首回りに彼の両足が絡みつく。そのあまりの痛みに思わず絶叫する。

何とか拘束を解いてもらおうと抵抗を試みるも、残念な事にヒースの方がずっと力がある為、とてもではないが敵わない。



「………痛い、だぁ?」



今まで無言で事に及んでいたヒースがそう口にする。彼は締め上げる力をそのままにスゥ……と大きく息を吸った。



「───















っっっっったりめぇぇだろうがこの大法螺吹きがよおおおおおおおおっ!!!!」



何が退き時は弁えてるつもりだゴルァッ!!

瞳孔をこれ以上ないくらいに開かせ、普段上げないような大声でヒースは怒鳴った。



「つーか、何ボロボロになってんだぁオイ。大見栄切ってご大層な事言って人を送り出しておいてこの様たぁなぁ?」

「い、いや相手を考え……」

「言い訳してんじゃねぇよ。どいつもこいつも一人で突っ走りやがって………てめぇの実力を過信し過ぎなんだよ!」



ヒースはグレイの左腕を押さえる手に力を込める。それに堪らず呻くが、それでも彼は力を緩める事はなかった。



「丁度良いから、これ以上無茶苦茶な事をする前にもう片方も折ってやろうか?」

「!?」



その言葉に背筋が一気に冷える。いくら何でも、と言いたいところだが、今の彼では本当にやりそうな気がしたのだ。



「ま、待てヒース! それはマジで洒落にならねェって!」

「僕からしたらお前の状態も洒落になんねぇんだけど?」



そこんとこどう思ってるわけ?

問いながら、ヒースは更に力を込め始める。これ以上は本当に折れてしまう、と本格的に危険を感じ、グレイは必死で叫んだ。
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