A requiem to give to you
- 知らない時間とぶつけた本音(3/7) -



「あんたがオレに近付くのを嫌がるのは、つまりは消えたくないからって事だよな?」

「確かにそれもあるが………だからと言って別にそこまで生に拘っている訳じゃない」



トゥナロはそう言うが、しかしそれでは彼の話があまりにも矛盾している。このままでは彼はそう遠くない未来に消える。その流れに身を委ねているのかと思えば、しかしその行動は反対だ。その矛盾さに訝しんでいると、トゥナロは「あのな」と再び肩を竦めた。



「勘違いしているようだが、」

「何だよ?」

「別にオレは消える事が死ぬ、とは思ってねーぞ」

「違うのか?」



そう問えば、彼は「違う」と否定した。



「そもそもが同じ存在からの分岐なんだ。それが元に戻ろうとしているだけの話だ。だから別に大元さえ生きていれば問題なんてねーンだよ」

「……あんた、本当にそれで良いと思ってるのか?」



確かに、元はどちらも【坂月 陸也】だ。しかし一度分離した以上、彼には【トゥナロ】と言う人格がある。それはグレイの意志ではない、完全に別人なのだ。その魂の過ごした時間の長さだって違うから、年齢だって違う。彼がこの世界に来て過ごした時間は、彼だけの物の筈で、その中で知り合った人達もいるだろう。彼が消えたら、それらは一体どうなると言うのだ。



「どうなるも、どうにもしないさ」

「そんな訳……」

「だってそうだろ。元から存在しないモノの事なんて、覚えている必要はないからな」



は、と思わず声を上げる。それからその言葉の意味を考え、そして理解してしまった。



「まさかとは思ってたけどテメェ………!」



どうやらこの男、常から自分自身に能力を使い続けていたようだ。己の存在を、この世界の者達に認知されないように。だから書面にこそ残るも、誰も彼の事を気にしないし、離れていればいる程、共に過ごした時間でさえも忘れさせてしまう。

グレイは沸々と湧き上がる怒りに歯を食いしばる。出来る事ならば、今すぐにでも目の前のスカした面をぶん殴りたいくらいだ。……しかし、そんな己の怒りもトゥナロは笑って受け流してしまう。



「まぁまぁ、そう怒るなって。それに例えオレがお前に回帰したとしても、”トゥナロ”と言う存在を押し付けるつもりはない」

「そう言う問題じゃねーだろ!」

「何だよ、割と大事な事だぞ?」

「だから……!」



そうじゃない、と更に言い募ろうとする言葉を、トゥナロ自身が遮るようにして名前を呼ばれた。



「なぁ、グレイ」

「……………」



口を閉ざし、トゥナロを睨みつける。そんなグレイに彼は続けた。



「憎らしい事に、お前の考えてる事がわからない訳じゃない………けど、逆にお前なら、オレの考えだってわかるだろ?」



だからよ、



「こんな事、あの三人には言える訳がねェ。お前だから言える。……それに、もしもオレ達の立場が逆だったとしても、きっとお前は同じ選択をしていると思うぜ?」



悔しいが、彼の言葉を否定する事が出来なかった。同じだからこそ、わかってしまう。本当は、彼が何を願っているのかも。

だけど、



「それでも、そんな運命を受け入れるだけだなんて………くだらない事を考えるのはクソくれェだ」



そんなの、どこぞの導師やそのレプリカ達だけで十分だ。そんな彼らもまた流されるままにして、先程見た時間のような運命を辿らせるつもりなど毛頭ない。だってそんな事になれば、幼馴染み達が悲しむのは目に見えている。



「元は同じなのかも知れねーが、オレはあんたがオレ自身だなんて死んでも思わねェし、思いたくもねェ。ここまで干渉しておいて今更誰にも知られる事なく消えるだなんて許さねーぞ」

「……………」



漸く口を閉ざしたトゥナロにグレイは言った。



「だから、最後まで足掻けよ。勝手に諦めてンじゃねェ」

「……………………はぁ、」



たっぷりと間を置き、やがてトゥナロは大きな溜め息を吐いた。



「まさかお前にそんな事を言われる日が来るなんて………これも記憶が一部戻ったせいなのか?」

「何でもかんでも記憶のせいにすンな。これは、オレ自身の意志だ」

「………みたいだな」



だって、オレ様には言えねーよ。そんな事。

トゥナロはそう言って苦笑する。しかしそれは先程とは違い、どこか柔らかいような気がした。



「まぁ、何にしてもローレライとの約束が最優先だ。預言の通りに滅んだんじゃあ、オレどころかこの世界自体が滅びるからな」



そんな彼の言葉に何かを返そうとした時、視界が少しずつ白くなり始めている事に気が付いた。



「……何だ?」

「そろそろ起きる時間って事だろ。なら、オレも次の準備をしないとだ」

「準備?」



そう問うと、途端にトゥナロは言い辛そうに視線を逸らした。



「取り敢えず、ある程度心構えはしておいた方が良いかも知れねェ………」

「はぁ? それってどう言う───」



意味だ、とその言葉続く前には視界は完全にホワイトアウトしていた。




















次に視界が開けた時、目の前に飛び込んで来たのは驚きに目を見開いた親友の顔だった。






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