A requiem to give to you
- 愛芽吹く、新しい夢(7/7) -



チリン、と音が鳴った。それと同時に樹が輝き始める。

葉のある枝の所々から蕾が現れ、金色……否、錦と呼ぶべき淡い輝きを放つ色の花を咲かせた。更には花の一つ一つが小さなベルのように音を鳴らし、それはとても幻想的な空間を作り出していた。



「綺麗……」



誰かのそんな呟きが聞こえた。そして直ぐに樹の奥より門が出現し、ゆっくりと開いた。門の奥は光が続いていて、先は見えない。

宙とフィリアムは互いに繋いでいる方とは反対の手をシンクとタリスへと伸ばした。二人もその手を取り、最後に反対の手を繋ぎ四人で輪になった。



「宙」



と、遥香が宙を呼んだ。振り向けば、いつもの元気な笑顔があった。



「行ってらっしゃい!」

「うん、行ってきます!」



次いで遥香は三人を見た。



「涙子ちゃん、シンク君。それから……フィリアムも、あなた達も頑張ってね」

「勿論です」

「程々に、ね」



涙子とシンクがそう返し、フィリアムは……



「あの、ないとは思うけど………もし、次に会う事があれば………お母さん、て呼んでも良い?」



それに遥香は一瞬だけ目を丸くし、それから再び笑った。



「次なんて言わずに今言いなさいよ! そうでしょ、樹」

「………! うん。ありがとう、お母さん」



この世界で新たにもらった名前で呼ばれ、フィリアムは嬉しそうに笑った。そして───



「行ってきます……!」



その言葉が終わると共に門から光が溢れ、それは四人を優しく包み込むとその先にある場所へと誘っていった。

光が消えると四人の姿はなくなり、今までの出来事がまるでなかったかのように元の公園に戻った。



「行ってもうたなぁ」

「そうだね」



四人を見送った睦と玄がそう言うと、遥香は二人のその背を勢い良く叩いた。



「今生の別れじゃないだから、しっかりしなさい!」

「「い、いたい………」」



悶絶する二人だが、遥香はどこ吹く風だった。それからニッと笑うと「それよりも」と言った。



「次に帰って来た時の為に向かい入れる準備をしなくちゃ! ほら、キビキビ動いて行くわよー♪」



元気一杯な遥香に、男性二人の情けない声が静かな公園に響いた………ような気がした。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







陽の光が届かない場所。しかし決して暗くはなく、賑やかな照明や楽しげなそこに住まう人々の声がとても素敵な所だった。ガイ、ナタリア、それから仔ライガと共にこの《ナム孤島》と呼ばれる場所へと訪れたヒースは、ある一室へと案内されて来ていた。



「………………」



そこには先客がいた。しかしその相手は部屋に備え付けられているベッドで眠っている。右腕にはギプスが着けられ、服から見える至る所に包帯が巻かれている。一目見て、重症である事がわかった。



「……何、やってるんだよ。お前は」



小さく上がる寝息は非常に穏やかで、怪我をしている事を除けば本当にただ寝ているだけのようだ。だが、ヒースがいくら声をかけてもその意識を浮上させる事はなく、懇々と眠り続けている彼がいつ目覚めるのかはわからない。ここの住人達が言うには、ここに運ばれて来た時から既にこのような状態だったのだと言う。ただ、怪我が酷かったからこちらで応急処置だけはしてくれたようだ。

せめてその事だけでもありがたいと住人達にお礼を言いたい所だが、未だにヒースはこの世界の人々との会話が出来ないままだった。何とか筆談でやり取りは出来ているものの、あまりに長い会話はお互いに大変な為、詳しい話は出来ていない。

今、己に出来る事などないと言われているようで、とても悔しかった。唇を噛み締め、己の無力さに拳を握る。



「目を、覚ましたら覚悟しておけよ……………この大馬鹿野郎」



今はただ、やり切れない思いを抱えながら、幼馴染みの目が覚めるのを待つしかなかった。











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