A requiem to give to you- 愛芽吹く、新しい夢(6/7) -
「お祖母様から聞いたのだけれど」
そう言って涙子が切り出した。
「異界の門の鍵って、あの懐中時計の事だったのね」
それに宙は頷くとポケットから時計を出した。
「うん。今は詳しい経緯は省くけど、この時計自体は杏奈さんが坂月君にあげた物なんだ」
「何故、陸也だったの?」
涙子の疑問は尤もだ。時空を超える力自体は宙が持っている。だからその力を抑制する為にも、鍵は宙が持つべきなのではと考えたのだろう。
しかし、
「えーっとね、それがまだ思い出せなくて……」
困ったようにフィリアムを見れば、彼は言いたい事を理解すると話を引き継いだ。
「結論から言うと、兄貴にも当時から龍脈の力があったから………らしい」
それには涙子だけでなく、睦や玄も驚いたように彼を見た。
「どう言う事なんだい?」
「さぁ………」
そこまでは、と肩を竦めるフィリアムは本当に知らないのだろう。
「とにかく、兄貴に持たせたのは時空を超える力がある者が持つよりは抑止力になるからって事なんじゃないかな……知らないけど」
「あたしが覚えている事として、一応この鍵を扱えるのはアイツだけなんだよね。でも、あたしが力を使えばある程度扱えるのは実証済みって言うか……」
「俺もその辺は曖昧だからよくわからないけど、兄貴にしか扱えないってのはもらった時にそう言った呪いの類でもしたんじゃないかな。姉さんが能力で使えるのは、多分だけどそこに着いてる【生命の石】が作用してるのかも」
だってこれって、そう言うものでしょ?
そう問うたフィリアムに宙も頷く。それに彼の言う通り、それが一番筋が通っているのだ。詳しい事は調べてみればわかるのだろうが、今はそれよりもやる事がある。
「それで、」
と、声を上げたのはシンクだった。
「ソイツを使ってオールドラントに行ける事はわかったよ。それで、いつ行くのさ?」
「準備が出来次第かな。正直、今直ぐにでも行っても良い………だけど、」
そう言ってレジウィーダはシンクを見た。
「シンクは、どうする?」
このまま預言のないこの世界にいたいと思うのだろうか。そんな事を思いながら彼の答えを待っていると、シンクは鼻で笑った。
「どうするも何も、連れて帰ってって言ったじゃん」
「シンク………本当に、良いんだね?」
「何回も言わせるな。大体、この世界でボクは暮らせないよ」
だってこの世界は、ボクには眩しすぎる。
「それに、まだ話をつけなくちゃならない奴らもいるし、このままにしておくのも腹の虫が収まらないんでね。特にヴァンには一発入れないと気が済まない」
「あら、奇遇ねぇ」
涙子がニヤリと笑った。
「私もそれには大賛成なの。これは心強い味方が出来た、と考えて良いのかしら?」
「フン、別にアンタの味方になった覚えはないよ。ただ、どうせ生き残ったのなら、ムカつく奴をぶっ飛ばすくらいはしたいだけ」
「フフ、それで十分よ」
「あはは……まぁ、話はまとまったみたいだし、善は急げっしょ!」
宙はそう言って勢い良く立ち上がる。それにタリスとフィリアム、そしてシンクは頷いた。
それから宙達は公園へと来た。遥香や玄、睦は見送りの為に一緒に来ていた。公園に入ってすぐ、樹の近くに設置されたベンチの前に何かがあるのに気が付いた。
「何だこれ?」
「キャンバス、ねぇ」
皆を先に樹の方へと促し、涙子と二人でポツンと置かれたキャンバスを見つめる。ベンチには肩掛けの鞄が一つ置かれており、持ち主はどうやら一時的に席を外しているだけのようだ。
どうしようかな、と考えていると、キャンバスに描かれた絵を見た涙子が声を上げた。
「これって………宙じゃない?」
「えー?」
意味がわからずに持ち主には悪いと思いつつもキャンバスを覗き込む。そこには大きな樹を背景に二人の人間が描かれていた。一人は黒髪の男性。もう一人は……赤髪の少女。
「こ、これって…………」
もしかしなくとも、夜中の出来事ではないだろうか。まさか見られていたとは思わず、途端に恥ずかしくなる。
その時、慌てたような声が聞こえてきた。
「す、すみません……!」
声の主を振り返ると、そこには明るい茶色のショートヘアの少女がいた。
「す、直ぐに戻るつもりだったんですけど………お邪魔でしたよね。今退きますので……!」
「あ、いや別にそれは構わな……」
言うが早く、猛スピードで画材やらを片付けた少女はキャンバスを抱えると走り去って行った。ポカンと口を開けてそれを見送る事になってしまった宙達は顔を見合わせると、仕方なしに樹の方へ行く事にした。
「お待たせー」
「遅い」
シンクが苛立たしげに仁王立ちで出迎える。それに宙は謝ると、やり取りを見ていた睦が笑った。
「短気は損気やで、シンク君」
「うっさいよ!」
「まぁまぁ」
「ほら、喧嘩するなー」
そんな二人(特にシンク)を玄と宥めつつ、宙は樹を見上げる。風に煽られて舞う紅葉に合わせ、同じ色に染まった葉を音を立てて揺らしている。懐中時計を取り出して掲げれば、取り付けている【生命の石】が淡く輝き始めた。
「……うん、いけそう」
フィリアムに視線を向ければ、彼は頷き宙と手を繋ぐ。そして二人は意識を集中させ、心を一つにして力を解放する。
(───お願い。あたし達を、大切な仲間達の所へ連れて行って!)
「「エナジーコントロール」」
.