A requiem to give to you
- 未来が夢見たモノ(4/7) -



驚く宙を他所にシンクは部屋を見渡すと、



「せっっっま。ここは倉庫かなんかな訳?」

「失礼だなオイ」



確かに幹部棟にあるシンクの部屋に比べたらずっと狭いのだろうが、この家の寝室なんてどこもこんな感じだ。リビングがやたらと広いから余計に狭く見えるのかも知れないが、それでもそこそこの広さはある筈だ(多分)

シンクは視線を未だに曲の流れ続けるパソコンへと目を向けると、「何コレ」と問うてきた。



「コレ? 兄貴が作った曲だよ」

「ふーん」

「興味なさげか」

「まぁ、興味はないよね」



じゃあなんで聞いたんだよ、と思わず突っ込みたくなったが、言うだけ意味のない答えが返ってくる事は明らかだったので思い留まる。そんな事を思っているとシンクは更に続けた。



「て言うかさ、食べる物なくなったんだけど」

「まだ食べるの!? 美味しいのはわかるけど、この世界の物はやたらとジャンキーだから食べ過ぎると直ぐに体壊すよ」



それに夕飯だってあるのだから、一度食休めをしようと促すとシンクは舌打ちをしてから渋々頷いた。それに苦笑を漏らしながらもソフトを切り、パソコンの電源を落とす。



(今度帰ってきた時に、他の曲も聴いてみよう)



今聴いた二曲は、贔屓なしにしてもすごく良かった。インストのみも悪くはないが、歌詞をつけたら更に良い形になるのではないだろうか。曲の持つ世界をもっともっと広げられる………そう思えてならない。



「……ちょっとだけ、書いてみよう…………かな?」

「? 何か言った?」



小さく呟いた声が聞こえたようでシンクが首を傾げるのに「なんでもない」と返す。シンクは何かを考えるようにこちらを見つめると、やがて静かに口を開いた。



「…………ずっと、気になってたんだけど。アンタって、死にたかったのか?」



宙は暗くなったパソコン画面から目を離さず、小さく首を横に振った。



「違うよ。違う…………けど、未来は約束されていなかった」



未来《future》。預言とは違うけれど、宙は人としての人生を歩む事を望まれてはいなかった。いずれは消える事がわかっていた。父が願いを叶える時…………それがいつになるのかはわからなかったが、能力に目覚めてからはそう遠くないと思っていた。

でも、それでも良かった。大好きな父の為に、宙だけが出来る事で役に立てるのだから。



「つまりは」



と、シンクは言う。



「アンタはボクに自分と似たような境遇を同情したから………ボクは生かされたってわけ?」

「その気持ちが嘘、とは言い切れない。──────けどね、」

「ふざけるなよ!!」



言い切る前に、言葉を遮るようにしてシンクは叫び、その手は宙の背中の服を力強く引くと勢いよく床へと叩きつけた。



「っ…………」



全身に走る痛みを堪える間も無く、シンクは宙に乗り上げるとその細い首に両手をかけた。



「結局、アンタもヴァンと同じだ! 自分勝手に人を生かして振り回してさ! 誰もそんな事望んでなんていないのに……!!」



首にかかる指に徐々に力が入り始める。



「ボクの望みなんて………誰も叶えてなんてくれない! 生きる事も、死ぬ事も許されない。中途半端に利用するだけ利用して、いらなくなったら直ぐに突き放す」



カヒュ、と呼吸の擦れる音が口から漏れる。命を奪わんとするその手に己の手を重ね、宙は苦しげにシンクを見上げた。その表情は…………とても悲しそうだった。



「アンタも…………ボクを捨てるんだ」



少しずつ、空気が喉を通ってくる。シンクは宙の首から手を離すと項垂れた。宙は軽く咳き込みながらもなんとか息を整え、上半身を起こすとその深い緑の頭にそっと触れた。



「誰も、君を捨てる事なんて出来ないよ。だって、それは君だけのモノだから」

「何、言ってんのか……わからないよ」

「聞いて」



と、宙は彼の頭にあった手をシンクの頬まで下ろすとゆっくりと顔を上げさせた。暗い瞳と目が合うと、安心させるように静かに笑った。



「あのね。シンクを助けたのは、確かにあたし自身のエゴもある。あたしはこの先の未来を生きれない事を受け入れていたからまだ良かったけれど、だけど君は……そうじゃなかった」



ザレッホ火山に降り立って、最初に出会った緑色。無機質とも取れる表情の中は微かな希望が確かに存在していた。



「君に生きていて欲しいと願ったのは、あたしだけじゃない。君の兄弟だって、望んでいたんだ」

「兄弟……?」

「助けてあげられなかった、君ととてもよく似た兄弟」



その言葉の意味がわかったのだろう。シンクは目を瞠ると信じられないように「嘘だ」と首を振った。



「たすけてって言われた。だから君を助けた」

「……………」

「その後にヴァンが来て、ディスト達が来て。君の状況がわかって………だけど生まれたばかりの君が何を望んでいたのかがわからなかった」



宙のように運命を受け入れるのか、それとも荒波に揉まれながらもこの先の長い未来を見ていきたいのか。



「だから、あの時聞いたんだ」



いきたい? 、と。

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