A requiem to give to you
- 光を信じて(7/7) -



ルークは頷き、それから「あとさ」と続けた。



「向こうに万が一怪我人がいるといけないから、ナタリアとガイもヒースについて行ってくれよ」

「それは別に構いませんけど……ですが、大丈夫でしょうか?」



ナタリアの心配は尤もだ。今ではこの辺の魔物くらいでは然程苦戦はしないが、それでも治癒術が使える者が二人抜ける上にメインの戦力も一人いなくなるのは流石に辛いのではないだろうか。

しかしルークは首を振った。



「こっちにはあの死霊使いに優秀な導師守護役だっているんだぜ? 怪我一つなく帰ってきてやるよ!」

「ルーク、調子に乗らないで」



強気に胸を叩くルークにティアが鋭く突っ込む。しかし直ぐに表情を和らげるとナタリア達を向いた。



「でも、ルークの言う通りよ。あそこに医者がいるのかもわからないし、もしも重症人とかがいたら大変だわ。こっちの事は大丈夫だから、行ってきて」

「ティア………」



それでもなお心配を露わにするナタリアにガイが肩を叩いた。



「ここはルーク達を信じようぜ。向こうが心配なのも事実なんだし、寧ろ早めに行って仕掛けを解いておいてもらえれば、後からノエルがルーク達を迎えに行けるだろ?」

「そう、ですわね。……わかりましたわ!」



ナタリアは頷き、それからヒースとノエルを振り返った。



「行きましょう」

「はい。じゃあルーク、頼んだよ」

「ああ!」



任せとけ、とルークはグッと親指を立てた。それからヒース達はミュウをルークの元へと返し、代わりに仔ライガを連れてアルビオールのある場所まで引き返した。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







吹く風に舞う紅色。ほんの少しだけ、乾燥し始めるこの季節特有の空気と、懐かしい匂い。



「……………あ、」



ゆっくりと目を開いた先に広がる世界に、ぼーっとする頭で起き上がりながら考える。



(ここは………中央公園?)



レジウィーダが宙として訪れた、この街での始まりの場所。そして己の髪と同じ色が舞うこの季節は、別れの季節でもあるのか。

さて、とレジウィーダは考える。これは夢なのか、と。



「………な、わけはなさそうだよねー」



ゆっくりと振り返れば、いつもの大きな樹。そしてその根元には、見覚えのある三人が転がっていた。三人、と言っても内二人はよくこの場所に集まる二人ではない。

目の前に横たわる三人も、己の服装も、全てがこの場所とはミスマッチだ。しかし確かに地面の感触はあるし、何よりもこの樹から感じる気配は言っている。













───おかえり、と。



「う………ここ、は?」



少し苦しげなそんな声と共にタリスが目を覚ます。それと同時に残りの二人も起きたようで、三人は体を起こして辺りを見渡し……そして当然ながら驚いていた。



「え、ここって………えぇ!?」

「ち、きゅう………だよな」

「音素の気配が一切しないんだけど、どこここ?」



まさか天国とか言わないよね、とシンクが皮肉げに笑いながら問う。それに「んなわけないでしょうが」と突っ込む。



「タリス、察しの通りみたいだよ」

「帰ってきたの? どうやって??」

「さあ………」



それが分かれば苦労はしない。最後の記憶はシンクがとんでもない譜術をぶちかまして吹き飛んだところなのだから。



「まさかシンクの譜術が原因、って事は流石にないとは思うけど」

「場所の問題、だったとか?」

「確かに、地核なんて言ってみればあの星の核も核よ。何があってもおかしくはなさそうだけど……」



うーん、と考え出す三人。しかし答えは出ない。そんな彼女達に痺れを切らしたのか、シンクがあのさ、と声を上げた。



「原因なんて今はどうでも良いんだけど、それよりもこの後どうするのさ」



お腹減ったんだけど、と言い出す彼にタリスはポカンとした。



「え、急に何を言ってるの? て、言うか緊張感……」



つい先程まで殺しかねない勢いで襲ってきた上に負けて自殺未遂をかました者の台詞ではない。レジウィーダ自身も確かにそう思ったが、しかし湧いてきたのは怒りではなく喜びだった。



「わっかるー! たくさん動きまくったからお腹減ったわー」

「レジウィーダ!?」



驚くタリスを他所にレジウィーダは勢いよく立ち上がると、腕を組んだ。



「昨日の敵は今日の友! どうせ理由なんて考えてもわからないんだし、取り敢えず今は腹拵えしながら状況を整理しよう!」



その方がわかりやすいっしょ、と笑うとフィリアムは呆れたように肩を竦め、シンクは特に何も言わなかったが反対もなさそうである。そんな二人を見て、タリスも仕方ないと溜め息を吐くと砂を払いながら立ち上がった。



「そうねぇ。友、かどうかはともかくとして。今のシンクに敵意はなさそうだし、一先ずは移動しましょうか」

「じゃあ、こっから近いしあたしの家にでも───」





















「───宙?」



行こうか、と言う言葉を続ける前に誰かが名前を呼んだ。

え、と全ての時が止まったかのような感覚だった。その耳に入るのは酷く懐かしくて、愛おしくて、そして最近では思い出す度にどこか苦しくなる………そんな人の声だった。

声の先を振り返る。隣りでもう一人、その人物を見て驚く気配を感じつつも、レジウィーダの視線の先にいた人はやはり予想と違わぬ者だった。



「……………おとう、さん」



───数年振りの再会は、異世界帰りの門前だった。











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