A requiem to give to you
- 決意の時(6/6) -



「これは……拙い事になったなぁ」



ヒースは目の前の状況に現実逃避をしたくなりたい心境をありありと出しながら呟いた。

アッシュと別れ、一先ずワイヨン鏡窟から再びダアト港へと戻り、そこでイオンとアニスをダアトへと帰す事になった。モースの息が掛かっている事を警戒し、補給ついでにヒースとナタリアもついて行きダアトの入り口を越えて直ぐだった。自分達がここに来る事が分かっていたかのように神託の盾騎士団が武器を持ち待ち構えていた。

騎士団を従えるように先頭にいたのはフィリアムだった。彼はイオン、アニスを見て、それからヒース達を見ると少し残念そうに溜め息を吐くと口を開いた。



「導師誘拐、及びアクゼリュス崩落関与の容疑でアンタ達を拘束する」

「何!?」



その言葉にヒース達は驚愕し、ナタリアは怒りを露わにした。



「何をおっしゃるのです! アクゼリュスを崩落させんとルークに強要したのはそちらではありませんか! それに導師誘拐は少なくとも、キムラスカは関与していませんわ!」

「フィリアム、マルクトについて行ったのは僕の意志です。僕がダアトを離れた時の騒ぎも、ジェイドは事実を民に伝えたに過ぎません」



ナタリアに続くようにイオンが説明するが、フィリアムは興味がなさそうに首を振った。



「実際がどうであれ、第三者に説明出来る証拠もないだろ? それぞれの国から見たら、お互いが重役を消さんと謀ったようにしか見えないだろうしな」



余計な諍いを起こしたく無いのなら、大人しく捕まりなよ。

それは例え自分達を捉える為なら、ダアトの住民達を巻き込んでも良い。そう言っているようにも聞こえた。ヒースは怒りを覚えるのを堪え、今にも弓を構えそうなナタリアを向いた。



「ナタリア様、今下手に抵抗すれば無関係な人を巻き込みかねない。一旦投降しましょう」

「ですがヒース!」

「………幸いタルタロスには大佐も残ってる。僕達が戻らなければ、異変を察する筈だ」



それにガイやルーク達と合流して来てくれるかも知れない。

そう言うとナタリアは歯を食いしばるように黙り込むと、弓矢を下へと落とした。それに倣いヒースも背負っていた大剣を鞘ごと落とすと、フィリアムは兵士達に二人を拘束するよう命じた。

腕を後ろに回され、強く抑え付けれれる感覚に思わず顔を顰める。隣りではナタリアも同じように苦痛に顔を歪めているのを見て、彼女を取り押さえる兵士を睨みつけた。



「オイ、いくら容疑が掛かっていようとそちらはキムラスカの王女殿下だぞ。罪人ときまったわけでも無いんだ。もっと丁重に扱え」

「キムラスカの王女……ねぇ」



ヒースの言葉に今まで表情の変化がなかったフィリアムの顔に嘲笑が浮かぶ。それに「何がおかしい」と文句を言う前にフィリアムは再び兵士たちに命じると二人を抑える手が離れた。

まさか自分の拘束まで緩むとは思わず驚いている内に、フィリアムの「連れていけ」との声と共に兵士たちに連れられ協会へと足を向けさせられた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







ヒースとナタリアが兵士達に連れて行かれるのを見て、イオンは不安げにフィリアムを向いた。



「フィリアム、二人に手荒な事はしないで下さい」

「………それは俺が決める事じゃない。って言うか」



途端に苦虫を噛み締めたような顔になると、フィリアムはイオンに言った。



「しないで下さいって、アンタってさ、導師の癖に”お願い”ばっかりだな」

「え?」

「立場的にアンタの方が上なのに……命令すれば良いじゃん。そうすればモースの権限よりも上なんだから俺達はアンタに従わなくちゃいけないんだ」



ま、全員がそうなるわけじゃ無いけど。そう言うとフィリアムはまた色のない表情に戻ると鼻を鳴らした。



「威厳ないよな……仮にも導師なんて役もらってる癖に、なっさけないの」

「っ!!」

「ちょっとフィリアム!!」



フィリアムの言葉にイオンはショックを受けたように息を呑み、アニスは怒りに叫んだ。



「いくら大詠師派の幹部補佐だからって、イオン様を侮辱する事は許されないわよ!」

「そう思うならもっと導師が導師らしくあれるようにしてあげれば良いじゃん。それだって導師守護役の役目でしょ?」

「……フィリアムの言う通りです。自分の部下一人制御出来なくて、僕は……本当に情けない」

「イオン様! そんなこと言わないで下さい!」



悲しそうに自らを卑下にするイオンにアニスが否定をする。



「今回の和平だって、イオン様が動いてくれたからここまで来たんですよ。確かに邪魔されちゃったし、取り返しのつかない事になっちゃったけど……でも、イオン様は一生懸命動いてくれました!」

「ですが、大事なところで僕は何も出来なかった。ルークを止めてあげられなかった」

「それはアイツだって悪いんです! 一心にヴァン総長ばっかりで、こちらを見向きもしてくれなかったんだから! ……それに、あたしだって………」

「アニス……」



アニスの懸命な励ましにイオンの深緑の瞳が揺れる。そんな二人をフィリアムは呆れたように見つめていたが、やがて肩を竦めると二人の間を割って入った。



「慰めごっこはそこまでにして。導師、取り敢えずアンタも戻ってもらう」

「っ……わかりました」



何か言いたげに口を開きかけたが、イオンは堪えるように口を閉ざすと残っていた兵士に連れられて行った。

残されたアニスはイオンについて行こうとしたが、直ぐに立ち止まると踵を返してダアト港にいるジェイドの元へ向かおうとした……が、



「『イオン様を侮辱する事は許されない』だなんて、どの口が言うんだろうな」

「……っ!」



囁くようなそれに思わず肩を揺らして足を止める。



「もっとも最低な形で導師を侮辱してるのは…………どこの誰だろうね?」



知らないとでも思った? そんな楽しそうな声に、後ろにいる人物がどんな顔をしているのかを想像したくなくて、アニスは振り返る事なく地面を蹴り、その場から走り去った。










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