A requiem to give to you
- 光を信じて(6/7) -



「そう言えば、おじいちゃん達の避難場所も近いよね? シェリダンもだけど、そっちの様子も見に行かない?」



アルビオールでは切り立った崖を避けながら進むのは難しく、徒歩で高原を歩く道すがら、ふとアニスがそう言った。確かに、既に神託の盾がシェリダンから撤退している事はベルケンドで知事から聞いていた。しかし既に街に戻って来ているのかはわからない。……本当に無事でいるのかも。



「確かに無事を確認する意味でも、現地の方々にお会いした事もなかったのでお礼を伝える意味でも、一度はちゃんと行った方が良いですね」



イオンもアニスの言葉に頷く。しかしジェイドは難しい顔をした。



「ですが、あの場所は特殊な仕掛けがしてあると言っていました。アルビオールで行けるのでしょうか?」

「正直なところ、今の性能では難しいと思います」



流石に今回は一人で待機させるのは危険だろうと連れてきたノエルが申し訳なさそうにそう言った。



「おじいちゃん達から少しだけ聞いた事がありますが、精度を上げる為には今使っている物よりも強い力を持つ飛行譜石が必要みたいなんです」

「強い力の飛行譜石、かぁ。それはどこにあるんだ?」

「すみません。私にはわかりません……ですがおじいちゃんだったら、もしかしたら場所がわかるかも知れません」



ルークの問いに謝りつつもそう答えるノエルに気にしなくて良いよ、と返す。



「でも、それなら尚更イエモンさん達に会いに行かないとだな」

「だけど結局どうやって行くの?」

「それならさ」



と、ヒースが声を上げる。



「ウンディーネに力を借りればいけるかも。確か、その特殊な仕掛けって言うのは海に見えたあの変な渦潮だろ? なら、頼めば何とかなると思う」



それに海ならば、第四音素に困ることはなさそうだし。

そう言ったヒースに仲間達もそれなら、と頷いた。




「そうだな」

「じゃあ、早いとこ用事を終わらせて行こう♪」



アニスの元気な言葉に皆が頷いた時、突如空気が裂けるような銃声が聞こえてきた。ルーク達は直ぐ様武器を構えて音のした崖上を仰ぎ見ると、そこには煙の出る銃口を上に翳したリグレットが立っていた。



「教官!?」



ティアが声を上げると、リグレットは銃を持つ腕を下ろし、そして静かに彼女に向けて言った。



「ティア、これ以上無駄な事はやめろ。ヴァン総長も心配しておられる」

「無駄なことをしているのは兄さん達の方です!」



しかしリグレットは首を横に振った。



「お前の身体の事は知っている。自分の身を犠牲にしてまで、ここは守る価値のある世界か? ホドの真実を、お前も知ったのだろう?」

「ええ……預言に踊らされ、預言を私欲に利用する為政者達。確かに、兄の言っていた通りでした」



なら、とリグレットは訴えかけるように言葉を紡ぐ。



「私達と共に来なさい。お前ともう一人のホドの生き残りは、総長が助けて下さる」



その言葉にガイは肩を竦めた。



「ありがたい話だが、ごっそりレプリカに入れ替わった世界なんてごめんだな。今あるこの大地と、今生きている人類で何がいけないんだ?」

「それでは結局、ユリアの預言と言う呪縛から逃れることは出来ない。お前達もいずれわかる。ユリアの預言がどこまでも正確である事を」

「まるで、この先の預言を知っているような言い方ですね」



ミュウを片手にヒースがそう言うが、リグレットは答えない。しかしそれは、肯定とも取れるのではないだろうか。ティアはまさか、と目を瞠った。



「兄さんは第七譜石を見つけたの?」

「っ、違うティア」



ハッとしたように声を上げたのはガイだった。



「あれだ。あれが第七譜石だったんだ!」

「え?」



どう言うことだ、とティアやルーク達がガイを見る。

その時、どこからか魔物が飛んできた。それは一度軽く降下してリグレットを背に乗せると直ぐに高く飛び上がる。



「! 待て!」



ルークは叫ぶが、リグレットはそれには答えずにヒースを見た。



「…………馬鹿の手綱は、しっかりと握っていた方が良い」

「え………?」



予想外の言葉に疑問を口にする間も無く、リグレットは魔物と共に飛び去ってしまった。



「どう言う意味、だ?」



馬鹿、とは。馬じゃなくて馬鹿の手綱?

しかし彼女が態々誰でもないヒースにそう言ってくると言う事は、それを示す人物など一人しかいないのだろう。



「……………」

「ヒース?」



黙って考え込んでいると、ルークに声をかけられた。それにハッとすると彼を振り返る。



「あ、ごめん。何?」

「あ、いや……なんだか考え込んでるっぽかったからさ」

「ああ、まぁ……ちょっと、ね。でも、もう大丈夫だから」



早く行こう、とそう言ったヒースに今度はルークが黙り込む。それにヒースが首を傾げていると、やがてルークは何か納得したように一人頷くとこう言った。



「ヒース、やっぱり先にイエモンさん達の所に向かっててくれないか?」

「え?」



ヒースは何故だ、と言いたげにルークを見る。



「仕掛けを何とか出来るっぽいのが現状お前だけだし。それにグレイもいるかも知れないなら、無事を確認したいだろ?」

「そうだけど……でも、それは別に用事が済んでからでも良いよ」

「俺が気になるんだって!」



そう言ってルークは食い下がる。



「ローレライの言葉を信じるなら、多分タリス達は生きてると思う。けど、最後までヴァン師匠と戦ってくれたグレイはわからない。もしも生きているのなら、イエモンさん達と一緒にいる筈だ。だから、先に行って作戦は無事に成功したって伝えてきて欲しい。きっと、向こうも俺達の報告を今かと待ってると思うからさ!」

「ルーク……」

「それに、ノエルにもこのまま魔物の多いところに連れ回すよりは少しでも安全な場所で待っててもらいたいし」



な、とルークは言う。それにヒースはやがて根負けしたように苦笑した。



「わかった。なら、お言葉に甘えさせてもらうよ」
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