A requiem to give to you
- 光を信じて(5/7) -



「以前の事を踏まえるのなら、恐らくヒースは覚えていると思いますよ」



そう言ってジェイドは別のペンを取り出すと再び紙に文字を書き、それをヒースに渡した。ヒースはそれを読み、一つ頷くと仔ライガの側に言って何やら声をかけ始めた。恐らく彼の名前を呼んでいるのかも知れないが、仔ライガは不思議そうにヒースを見るだけで、今までのように人の言葉を発する訳でもなくマイペースに寛いでいる。



「なんて書いたんだ?」

「トゥナロの反応がないので、もしかしたらそちらと同じ言語かも知れないので呼びかけてもらえませんか……と」



ヒースはこちらを振り返ると肩を竦めて首を横に振った。どうやら彼でも駄目なようだ。



「そういや旦那。さっき気配がなくなってるって言ってたけど、いつから気付いてたんだ?」

「私も直ぐにと言う訳ではありませんでしたが………少なくとも、シェリダン港を出発した次の日には気付いていました」

「ならその時点で教えてくれよ……」



ガイが項垂れる。それにルーク達も頷くが、そもそも忘れてしまう可能性があるのなら、下手に言ったところで不安要素を増やすだけとなってしまうだろう。それをジェイドが口にすると、それもそうかと皆は肩を落とす。



「トゥナロの存在を忘れてしまう理由、と言うのは……前に聞いたグレイの能力の内容的に、彼にも同様の能力があるのでしょうね。どうしてそんな事をするのかまではわかりませんが、こればかりは本人に聞くしかありません」

「そうだな」



少なくとも今、ルーク達に出来るのは彼を忘れないように意識し続ける事しかないのだろう。



「あの、ですの」



か細い、そんな小さな声が入ってくる。それは先程から仔ライガの隣りで成り行きを見守っていたミュウだ。ルークはミュウの前で屈むと「どうした?」と問い掛けた。



「ボク、よくわからないですけど………皆さんはヒースさんとお話が出来ないんですの?」

「!?」

「え? ミュウ、それはどう言う……」



ミュウの言葉にヒースが驚いたようにそちらを向き、ルークが更なる疑問を口に仕切る前に勢い良くミュウはヒースに持ち上げられた。



「ミュウの言葉がわかる!!」

「ヒース!?」



突然鮮明になった彼の言葉に今度はルーク達が驚いた。そしてそれはヒースも同様で、そんな仲間達の声に彼は振り向いた。



「え、何で普通に喋れるんだ……?」

「いや、それはこっちが聞きてぇよ!?」



どうなってるんだ、とお互いに疑問符を飛ばしていると、ジェイドはもしかして、とミュウを……正確にはミュウの身に着けているソーサラーリングを指差した。



「ソーサラーリングの力でしょうか?」



今のヒースは確かにその手がリングに直接触れている。いや、それでなくとも先程の反応的にリングを装着しているミュウの言葉はわかったところを見るに、それは正解なのだろう。



「確かに、そもそもミュウだってリングの力で俺達と会話出来てるんだもんな……考えてみりゃ、意外と解決策って近くにあるもんなんだなぁ」

「何を言っていますの。結局リングがなければわたくし達と会話が出来ないのですから、解決とは程遠いですわ」

「いえ、それでも……」



と、ヒースは首を振った。そして少しだけ嬉しそうに笑った。



「誰の話もわからない、わかってもらえないよりは………マシですよ」



それから、



「地核では、皆にすごく迷惑をかけてしまってすみませんでした。急がなきゃいけないってのはわかっていたのに、それでも感情を先走らせて………しかも酷いことまで言ってしまった」



本当にごめんなさい。

そう言って謝る彼に仲間達は顔を見合わせると小さく笑い、代表してルークが前に出ると軽くその頭を平手で叩いた。



「本当だぜ………あまり心配かけるなよな」

「………ごめん」

「謝るのは一回で良いって。だからさ」



と、ルークはニッと笑った。



「今度は頼ってくれよ。………まぁ、俺が言うのも説得力はないかも知れないけどさ」



そう言って苦笑する彼にヒースは思わず噴き出した。



「大丈夫。それはここにいる皆そうだから」



でも、



「僕にとって、ルークや皆は大切な仲間で、良い友達だと思ってる」

「………!」

「だからこそ、今度からはもっと頼れるよう努力する。……それから、頼られるようにも」

「え、何て?」



最後の方は上手く聞き取れずに聞き返すルークにヒースは「何でもないよ」と首を振った。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







それから暫くして、ティアの検査結果が出た。結果は想像よりもずっと悪く、このまま続けていけばパッセージリングから流れる障気は彼女の体を蝕み、死ぬ可能性すらあると言う。

本当ならば休養をするべきだ。しかし彼女がいなければパッセージリングの操作盤を起動出来ない。それは彼女自身もわかってる為、そして兄の野望を止める為にも、ここで離脱することは出来ないと言う。

決して無理はしないと仲間達と約束をしたティアは医師であるシュウからいくつかの薬を処方してもらい、再び仲間達の元へと戻ってきた。

そしてヒースだが、流石にミュウのリングを奪うわけにはいかないので、なるべくミュウが側についてお互いの言葉を翻訳し、長い話や必要な会話がある時はリングに触れて喋るようにする事になった。グレイとの合流後については一先ず合流してから考える事にして、取り敢えずはこの形で次の目的地へと向かう。



それから数日が経ち、一行はメジオラ高原へと来ていた。残るセフィロトはラジエイトゲートとアブソーブゲートを除いて三つ。ロニール雪山とザレッホ火山よりも危険が少ないのと、終わった後にシェリダンの様子を見に行くのも兼ねてメジオラ高原のセフィロトを先に行く事となったのだった。
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