A requiem to give to you
- 光を信じて(4/7) -



「一体、何がどうなっていますの……?」



最初に口を開いたのはナタリアだった。誰もが思っている疑問を口にした彼女に正しい答えを持ち合わせている者などおらず、ルーク達も首を傾げるしかなかった。



「あたし達も聞きたいんだけど………って言うか、いつからなのぉ!?」



アニスが絶叫する。そうしたい気持ちもよくわかるが、流石に真似をするわけにもいかない。

うーん、とガイも困ったように頭を掻いた。



「少なくとも、アルビオールが出発する直前にはもうこうなってたなぁ」

「染み染みと言ってる場合じゃねぇって!」



ルークはそう突っ込む。しかしだからと言って何か解決策もない。それからルークはなぁ、とヒースを向いた。



「本当に、わからないのか………?」

「──────?」



問われたヒースが言葉を返す。しかし彼の口から出た音は、今まで聞いた事もない言語で、ジェイドですらも理解は出来なかった。



「……どうやら、こちらの言葉もわかってはいなさそうですね」

「みたい、だな」

「けど、何故急にこんな事になってしまったんでしょう?」



イオンが純粋に思った疑問を口にする。それにアニスがうーん、と考え、



「ショックがデカすぎた、とか?」

「アニス……おふざけが過ぎましてよ?」



ナタリアがアニスを睨む。しかし彼女も真面目に答えたつもりだったらしく、そんなナタリアに「だってぇ」と返す。



「それ以外に思い浮かばなくない?」

「ふむ、確かにその可能性はありそうですが……」



ジェイドはそう言いながらヒースの表情や動きをじっくりと見る。それから近くに置いてあった紙とペンを持ち出すと何かを書き、そしてペンと一緒にそれを彼に渡した。紙を受け取ったヒースはそれを受け取ると読み始めた。



「…………………」



無言でその短いメモを読み終えるとペンを持ち、同じように何かを書き始めた。先程のジェイドよりも長く、しかし自分達のよく知る文字を綴り、一通り書き終えると紙の方をジェイドに返した。

ルーク達はジェイドの周りに集まり、彼の持つ紙を覗き込んだ。



「『勝手に頭おかしい認定をするな。僕はいつも通りに話しているつもりだし、そもそもこっちからしてみればあなた達の方が急に知らない言葉を話し始めたようにしか感じない』………って、え?」

「これも可能性の話ですが、もしかしたら彼がおかしくなったのではなくて、これが本来の向こうの世界の言語なのかも知れませんね」








……………………。









『ええええええええっ!?』



ジェイドの言葉にこの場にいるヒースとジェイド以外の仲間達が叫ぶ。遠くから「病院ではお静かに!!」と怒鳴り声が聞こえたような気もするが、それどころではなかった。



「ちょ、ちょっと待てよ! じゃあ、今までは何で言葉が通じてたんだ!?」

「恐らくですが、召喚主であるローレライが何かしら関与していたのではないでしょうか。───もしくは、」

「もしくは……?」



ルークが恐る恐る訊く。しかしジェイドは首を緩く振ると「まだ確信が持てないので、少し考えさせて下さい」と返した。それに仲間達はがっくりと肩を落とす。



「何だよ、勿体ぶるなって」

「考えが纏まらないと上手く説明も出来ないんですよ。それよりも、」



と、そう言って次にジェイドは先程から部屋に備え付けのソファでミュウと共に大人しくしている仔ライガに目を向けた。



「いつだったか、誰かさんを綺麗に忘れた事がありまして。それからはなるべく意識するようにしていたのですが………いつの間にか、気配がないのは誰か気付いてました?」



それにえ、と皆は仔ライガを見る。皆の視線を受けても動じる事なく呑気に欠伸をして、後ろ足で体を掻く様は本当にただの動物のようだ。













ただの、動物……?



「え、と……こいつって、元からこんなんだったっけ?」

「確かに卵から孵ってから随分と経つし、大人まではまだまだ遠いけどそれなりに大きくなってきたから………?」

「鬣(たてがみ)が立派になってきましたね。最初は気付きませんでしたが、どうやらこの子は雌みたいです」

「マジで!?」

「って、事は将来のクイーン候補って事ですか!?」

「まぁ! ならば女王たる者に相応しくなる為に共に励まなければなりませんね!」

「何の話をしているんですか貴方達は」



脱線してますよ、と珍しくジェイドが突っ込むと皆はハッとした。しかし結局の所、彼の言いたい事がわからずにジェイドを見ると、彼は大きな溜め息を吐いた。



「トゥナロですよ。覚えていませんか?」



そう言うとルーク達は首を傾げる。数秒、あるいは数十秒と時間が経った頃だろうか。暫くしてから仲間達の脳裏にはどことなく仲間の一人と同じ声をした、どこか良い加減な発言の目立つ存在を思い出した。



「ああっ、あいつか!」

「思い出しました?」



ジェイドが問うとルーク達は勢い良く頷いた。



「タリス達が仔ライガに憑依させたって言うグレイの分身的な奴!」

「確かに、旦那の言う通り前にもこんな事があったな……」



合点の入ったルークに次いでガイも以前の事を思い出すようにそう呟く。そして当然の疑問を抱いた。



「けど、何でまた忘れちまってたんだろう? しかも今度は旦那以外の全員だぜ?」



それにジェイドはいえ、と首を振った。
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