A requiem to give to you
- 光を信じて(3/7) -



「ローレ、ライ……?」



それはまさに、ヒース達をこの世界に喚んだ張本人ではないか。驚きにローレライと名乗る見た目はティアのそれを見た。そして、ローレライと名乗ったそれに驚いたのはヒースだけではなかった。



「第七音素の意識集合体………理論的には存在が証明されていましたが、やはり実在していたのですね」



いくら理論で証明されていようが、異世界の者達から話を聞いていようが、やはり実物を目の当たりにすると嫌でも急に現実味を感じるのだろう。あのジェイドでさえも表情を強張らせてティアをじっと見つめている。

ローレライはルークを振り返った。



『私は第七音素そのもの。そしてルーク、お前は音素振動数が第七音素と同じ。もう一人のお前と共に、私の完全同位体だ』



私はお前。だからお前に頼みたい。

そう、声を上げた存在はまるで普通の人間のようだった。今まで出会った、音素意識集合体よりも。



『何かとてつもない力が私の力を吸い上げている。それが地核を揺らし、セフィロトを暴走させているのだ。お前達によって地核は停止し、セフィロトの暴走も止まったが、私が閉じ込められている限り……』



そこまで言った時、ティアに纏う光が急速に失われようとしていた。それに気付いた時、ヒースは慌ててティアの腕を掴んだ。



「待ってくれ!!」



何かを意識したわけではないが、彼女の腕を掴んだ瞬間に消えかかっていた光が再び灯った。ローレライは驚いたようにヒースを見た。



『……お前は、』

「ローレライ、あなたが今までどこで何をしていたかはわからない。だけど、あなたが喚んだ者達が先程地核に落ちてしまったんだ」



ギュッ、と思わず指先に力が篭る。



「あなたが今この場に現れたと言うことは、ここの事がわかるし、多少の自由が利くんだろう? だから教えて欲しい───いや、助けてほしい。レジウィーダとタリス。それから彼女達が大切にしている人達を………助けてくれ!」



頼む、とヒースはローレライに頭を下げた。ヒース、と誰かが切なげに名を呼ぶのにも答えずに待っていると、こちらを黙って見つめ返していた存在は静かに答えた。



『───《光を救う者》』



今までも何度か呼ばれた事のあるその名にヒースはハッとして顔を上げる。そこにあったローレライの表情は、やはりどこか人間味のある優しげなモノだった。



『時を巡り、空間を跳躍する。扉が開けばそこに道はある。それが彼の者達の助けとなるのなら、私はそれを惜しまない』

「それって……」

『私にとって、いや……この世界にとっての希望の芽を潰させはしない。だから、』



お前は、お前自身を信じて進め。

その言葉を最後に、今度こそティアに纏っていた光は消え、彼女は静かに目を閉じてその身は崩れ落ちた。














「ティア!?」



ヒースが慌てて彼女の体を支えて受け止めると、ティアは頭を抑えながら直ぐに目を開いた。ルーク達もそんな二人に直ぐに駆け寄り声をかける。



「ティ、ティア! 大丈夫か!?」

「め、眩暈が……私、どうしちゃったの………?」



ルークに手伝ってもらいながら立ち上がったティアがそんな疑問を口にすると、ジェイドは「その話は後にしましょう」と言った。



「ここは危険です。とにかく今はアルビオールへ移動しましょう」



それに反対する者はいなかった。ルークは仲間達に声をかけ、先に乗り込んでいたノエルにハッチを開けてもらい急いで乗り込む。後に続こうとしたナタリアが、ふと後ろを振り返ると、ヒースが動かずに立っていた。



「ヒース、お気持ちはわかりますが……今は行きましょう!」



と、ナタリアがヒースの手を取り力一杯に引っ張る。意外にも抵抗はなく、すんなりとついてくる彼に違和感を覚えつつも最後に二人でアルビオールに乗り込んで座席に座る。

全員がシートベルトをしっかりと締め、ジェイドの合図でノエルが操縦機を操作し始めた。いよいよ飛び立つと言ったそこで、ガイが隣りの席に座るヒースの様子に気が付いた。



「ヒース? ………顔、真っ青だけど大丈夫か?」



今までの事を考えると決して大丈夫ではないのだが、血の気が引き、冷や汗をかいているその異常さにガイは心配になった。そしてガイに声をかけられたヒースは、一瞬だけ反応は遅れるも直ぐにガイを振り向くと口を開いた。



「──────?」

「え? 何だって?」



上手く聞き取れずに聞き返す。しかしガイが何かを言う度に、彼の顔色はどんどん悪くなっていく。

そんなヒースは、震える唇でこう言った。



「───、





















──── ────── ──」



と。

しかしその言葉はガイには聞いた事もない、まるで異国の言語のようで、一つも理解が出来なかった。






ガイさん、僕は…………






















あなた達の言葉がわからなくなったようです






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







最早奇跡に近い状態で何とか地核からの脱出を果たしたアルビオールは、外郭の空を抜けベルケンドへと来ていた。本当ならばシェリダンへ向かうべきなのだが、先の襲撃騒ぎでまだ神託の盾がいる可能性もあるし、何よりも街の住人達は別の場所へと避難している為、今行く意味はない。なので、一先ずは最初に協力をしてくれたベルケンドの知事へと報告し、そのついでとなってはしまったが、ティアの精密検査をする事となったのだ。

ティアの検査結果を待つ間。待合室にてティアを除いたメンバーが何とも言えない表情で顔を突き合わせていた。
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