A requiem to give to you
- 這い寄る屍鬼(10/10) -



「え!?」



驚いたティアが後退したと同時に、空中に赤く何かが表示された。



「『警告。セフィロトが暴走中。耐用限界に到達』……ふむ。操作盤も停止していますね」

「何が起きてンだ?」



音が鳴り止み、静けさを取り戻した操作盤を見つめるジェイドにグレイが問う。



「多分ですが、シュレーの丘やザオ遺跡で、ヴァンの仕掛けた暗号を無視してパッセージリングを制御した結果、並列で繋がっていた各地のパッセージリングが、ルークを侵入者と判断して、緊急停止してしまったのでしょう」

「毎回思うんだけど、これだけのシステムがありながら、この世界にパソコンやネットが普及してないのが不思議でならないんだけど」

「ヒースちゃん、気持ちはわからなくはないけど多分それ伝わらないやつや」



不服そうにするヒースにそう彼の肩を叩くレジウィーダの言う通り、ルーク達は良くわからない様子で首を傾げていた。



「ネット……と言うのは分かりませんけれど、つまりこのままではパッセージリングの制御が出来ないと言う事ですの?」



ナタリアのそんな問いにジェイドは「いえ」と首を振ってルークを見た。



「ルークの超振動で、これまで通り操作盤を削っていけば動くと思いますよ」

「力技ってわけか」

「ええ。それが一番手っ取り早くてわかりやすいでしょう。それと、今後の事を考えて、そろそろこの辺で外殻降下の準備をしておいた方が良いですね」



そう言うとジェイドはルークに暗号の書き換えの指示を出し、ルークもまた超振動を発動させ慎重に作業を始める。

ザオ遺跡で初めて行ったよりも大分スムーズになってきたそれは、彼自身の努力の賜物だろう。いつもよりも作業量は多かったものの、思ったよりも早くそれは終わった。



「出来た……!」

「上出来です。……そして次は、」

「地核の振動周波数だな」



ガイの言葉にアニスはジェイドを振り返った。



「大佐、どうやって計るんですかぁ?」

「簡単ですよ。計測器を譜石に当てて見て下さい」

「なら、それは俺がやろう」



ガイがそう言って計測器を手に中央の譜石に近付ける。その表情がどことなくワクワクしているように見えるのは、恐らく見間違いではないだろう。そしてまたルーク達も、どんな仕掛けがなされているのかと心なしか楽しみにその様子を見守る………が、



「………………」



当てる事数十秒。機械から小さくブザーが鳴り、ガイは譜石から計測器を取り外した。



「これで終わりか?」

「はい」



頷くジェイドにルーク達は残念そうな声を上げ、アニスががっくりと肩を落とした。



「つまんなーい! なんか拍子抜け……」

「まぁ、楽しませる物ではありませんからね」



それはそうだ。

アニスも「わかってますよぅ」と頬を膨らませながらそう返す。そんな彼女に苦笑を漏らしながら、ルークはティアを向いた。



「ティア、体調は大丈夫か?」

「ええ。少し疲れてはいるけど、休めば大丈夫よ」



頷いたティアに、ルークは少しだけ安心したようにそっか、と言うと仲間達を向いた。



「無事に計測も出来たし、早速シェリダンに戻ってヘンケンさん達に報告しよう!」

「善は急げ、だね♪」



仲間達は頷き、出口へと向かった。



「………………」



歩き出した仲間達……ティアを見て、タリスは小さく息を呑む。

前は澱んだ光見えた後は、彼女に溶けるようにして消えただけだったそれは……今は目を凝らすと彼女の心臓があるであろう辺りに残っているのがわかる。



(あれが、ユニセロスの言っていた障気……とは、多分違う。けど、原因は間違いなくそう……よねぇ)



確実に仲間の命を蝕んでいるであろうそれ。今はまだ表には現れていないが、封咒を解除する度に蓄積しているのだろう。本人が気にされるのを嫌っているその様子からも、少しは自覚はあるのだろうか。



(あと、何回やるのかはわからないけれど………酷くなる前には終わらせなくちゃね)



「タリス?」



動かないタリスに気がついたグレイが声を掛けてきた。それに彼の方を見ると、「今行くわ」と返して空いた距離を詰めるように駆け出した。











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