A requiem to give to you
- 這い寄る屍鬼(9/10) -



「本人って、ユニセロスにですか?」



イオンが問うと、ジェイドは頷きながらミュウを見た。



「はい。ここに最強の翻訳者がいるわけですし。ライガと意思疎通が図れるのなら、同じ魔物であるユニセロスとも話が出来るのではないかと思うのですが……」

「はいですの! ボク、頑張るですの!」



ミュウが元気良く頷いた時、ユニセロスは静かに動き出した。皆が警戒するも、流石に立ち上がることは叶わないようで、座るような体勢を取るとゆっくりとこちらを向いた。

そんなユニセロスに向かい、ミュウは直ぐに話し始めた。



「みゅう、みゅみゅみゅ〜。みゅうみゅう!」



ミュウの言葉にユニセロスも先程とは違い、落ち着いた様子で何かを返すように鳴く。その後も何度か二匹の間でやり取りがあった後、ミュウは仲間達を振り返った。



「ユニセロスさんは障気が嫌いなんだそうですの。それで、障気が近付いてきたからイラついて、思わず襲ってしまったそうなんですの」

「障気? でも、この辺に障気なんて出てないぜ?」



ルークが訝しげにそう問うと、ミュウはティアを見た。



「でも、ユニセロスさんは、ティアさんが障気を吸ってるって言うですの」



その言葉にティア本人がハッとしたような表情になり、また人知れずにタリスとヒースも僅かに反応を示した。

ジェイドはそんなティアの反応に「何か心当たりでも?」と問いかけていた。



「……いえ」



伏し目がちに首を横に振るティアにガイは首を傾げた。



「よくわからないな。ティアが魔界の生まれって事に関係してるのか?」



しかしユニセロスはその疑問に答えることはなく、すくっと立ち上がるとその巨大な翼を広げ、その場から飛び立って行った。



「行っちまった……」

「結局、さっきのはどう言う事だったんだろうね?」



段々と遠くなる姿を見ながらルークが呆然と呟き、レジウィーダは皆が思っているであろう疑問を口にする。

ユニセロスの性質上、障気が苦手と言うのは理解出来る。同時にその障気に敏感である事も。だからティアが障気に侵されている可能性は十分に高いのだが、しかしその障気は一体どこから?

その答えをティアに求めたいところだが、彼女自身も何とも言えない表情で黙り込むだけになってしまっている為、正確なところはわからないままだった。



「でも、今のところティアにこれと言った異常は出ていなさそうに見えますけれど……」



ナタリアがティアを見ながら言うと、ティアは顔を上げ苦笑した。



「確かに、最近少し疲れやすい時はあるけれど………でも、大丈夫よ」

「ティア……」

「仮にこれが障気による物だったとしても、動けないわけでも、何か旅に支障が出ているわけでもないわ」



心配を露わにする者達を安心させるようにティアは「それに」と言って続ける。



「今は世界の危機を何とかする方が先よ。兄さん達を放置すれば、それこそ何も出来ないわ」

「まぁ、本人もこう言っている事ですし。取り敢えずは置いておきましょう」



ジェイドが肩を竦めながら言う。何だか煮え切らないが、ルーク達もそれに頷くとセフィロトの入口探しを再開することにした。

皆が歩き出し、後ろから続くティアに向かってタリスが小さく彼女の名前を呼ぶ。



「ティア」



その声に振り返ったティアにタリスは一瞬だけ神妙な顔をするも、直ぐにそれを打ち消して苦笑した。



「小さな疲労だって、案外油断は出来ないものよ。………無理はしないでね」

「タリス………ありがとう」



そう心配するタリスにお礼を告げると、ティアは改めてルーク達と共にセフィロトを探し始めた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







それから目的地は、意外にも時間がかからずに見つける事が出来た。

ユニセロスと会った場所から少し奥へと進んだ先に見つけた岩肌に、一箇所だけ不自然なヒビの入った場所があった。それを見つけたジェイドがミュウに指示し、ソーサラーリングを使ってアタックを決めた事により岩は崩れ、隠されていた入口は姿を表した。

長らく人の手が入っていなかったそこはやはりダアト式封咒もかけられたままで、それをイオンが解除する。その直後に崩落の影響か地震もあったが、大した被害もなく一行はセフィロト内へと入っていった。

中を守る魔物を倒し、様々な仕掛けを解除した先に見慣れた空間が見えてきた。



「やーっと着いたぁ!」

「当たり前と言えばそうなんだろうけど、場所毎に全然仕掛けの内容が違うから、なかなか骨が折れるな」



両手を上げて喜ぶレジウィーダに少し疲労の見せながら苦言を呈すヒース。



「まぁ、謎解きとかは嫌いじゃないから、時間があればそれなりに楽しめそうだけどねぇ」

「魔物だってウヨウヨいるってのに、そんな呑気な事が出来るかよ」



どことなく残念そうにするタリスにグレイが突っ込む。そんな好き好きな様子の四人にルーク達は苦笑を漏らす。



「あんたら………ホント自由だなぁ」

「辛気臭いよりは良いっしょ♪ それより、早いとこやる事やっちゃおー」



レジウィーダがそう促し、ティアが操作盤にかけられたユリア式封咒に近付く。彼女に流れる血に反応し、封印が解けて操作盤が開いた。

その時、けたたましい警告音が鳴り響いた。
/
<< Back
- ナノ -