A requiem to give to you- 這い寄る屍鬼(8/10) -
「さわ、れた………?」
ガイはアニスを投げたそのままの体勢で呆然と呟く。また、アニスの方も何が起きたのかわからないかのようにポカンと口を開いていた。
しかしまだ事態は解決していない。急に暴れ出したユニセロスは、再び苦しげな咆哮を上げてこちらに突っ込んできた。
「話は後です! まずはユニセロスの動きを止めますよ!」
ジェイドの叱責に二人は慌てて立ち上がると武器を手に戦闘体勢へと入った。
ユニセロスの突進を避け、最初に攻撃に転じたのはレジウィーダだった。
「氷結よ、我が命に応え敵を薙ぎ払え───フリーズランサー!!」
飛び出した氷の槍がユニセロスに飛んでいく。しかしそれはユニセロスが頭を大きく振る事で、その巨大な角で全て弾かれてしまった。
それなら、と次に詠唱を完成させたティアとジェイドが譜術を放つ。
「エクレールラルム!」
「スプラッシュ!」
中級だがなかなかに高威力の譜術だったが、それもやはりユニセロスの動きを止めるには至らない。
「うーん……。なんか、随分と譜術に強いみたいだね」
「ええ、しかも私の譜術は全く効いていないわ」
どうやらユニセロス自体がそもそも譜術系の攻撃に強いのかも知れない。しかも光属性を弾いていると言う事は、恐らく───
「ティア、第一譜歌《ナイトメア》の準備を。他の皆さんは物理で彼女の詠唱時間を稼ぎます!」
ジェイドの指示でルーク達は頷き動き出した。アニスは転がってきたミュウを回収するとイオンの前に立つ。
前線に出たガイ、ヒースが剣を持ち、持ち前の俊敏さで相手を翻弄する。その隙にルークが烈破掌でスタンをかけようと試みるが、相手も素早く、なかなかその技が決まらない。
「大きさに似合わず、何つー早さだよ」
「せめて行動範囲を狭める事は出来ませんの? これではティアが詠唱にすら入れませんわ」
中距離から銃で応戦するグレイが舌を打ち、ナタリアも矢を射る手を休めずに呟く。その後に続くように矢を放つタリスはそうだわ、とレジウィーダとジェイドを見た。
「ユニセロスの周りに障害物をおけないかしら?」
「どゆこと?」
「直接譜術が効かなくても、周りに大きな岩を突き立てて囲めば、少しは足止めになるんじゃないかって思うんだけど」
「なーるほど!」
やってみる価値はあるかもね、とレジウィーダはジェイドを見ると、彼も頷き早速詠唱に入る。
「狂乱せし地霊の宴よ───ロックブレイク!」
「加勢するぜ! 目覚めよ、鋭き岩槍───グレイブ!」
ジェイドとグレイの譜術により発生した大きな岩がユニセロスを囲む。しかし直ぐにユニセロスは体当たりで岩を蹴散らそうと暴れ回る。一発で退かすことはなかったが、それほど長く時間は持たないだろう。
「ティア、今です!」
その声にティアが詠唱を始める。仲間達はユニセロスの迎撃に備え武器を構え直し、レジウィーダは岩を使ってユニセロスの真上へと飛び上がった。
「レジウィーダ!?」
ルークが驚きの声を上げる。声にこそ出さないが、他の者達も同様に彼女を見上げる中、レジウィーダは両手を振り翳した。
「念には念をってね……譜術はダメでも、魔術(これ)ならどうよ!」
辺りに立ち込める第二音素を取り込む。そしてその力を変換し、重力を操る術を放った。
「グラビディドライブ!!」
上から押し潰すような重力による圧を掛ける。それには流石のユニセロスの動きを鈍らせた……が、しかしそれでも完璧とは言えない。必死の抵抗を続ける相手を抑えつつ、レジウィーダはティアに向かって叫んだ。
「ティアちゃん!」
「出来たわ! ───深淵へと誘う旋律」
トゥエ レイ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ
透き通るティアの歌声と共に、ユニセロスを悪夢へと誘う光が覆う。レジウィーダも術を解除し、警戒しながら岩の上でユニセロスを見下ろして様子を見る。
粘り強く、呻きながらも動こうとするその足は、やがて崩れ落ちて地面へと倒れ込んだ。
「みんなー、大人しくなったよー」
レジウィーダが下にいる仲間達にそう伝えると、ルーク達は大きく息をついて武器を収めた。
「び……くりしたなぁ」
「本当ですよぅ。……でも、何でいきなり暴れたんだろう?」
アニスが不思議そうに首を傾げる。それにどう言う事だと皆が彼女を見ると、「そもそも」と言って説明をしてくれた。
「ユニセロスってすっごく大人しくて、人を襲ったりはしない筈なの」
「でも実際は襲ってきた。それに、戦闘になる前にミュウが言っていた事も気になります」
「確か、苦しそう………って言ってたわよね」
ジェイドの言葉にタリスもミュウを見ると、ミュウは耳を悲しげに垂れ下げながら頷いた。
「はいですの……」
「原因は何だったのかしら? 特別何か外傷があったとか、強力な敵がいたような感じはしませんでしたけれど」
「寧ろ、それは直接本人に聞いた方が早いかも知れませんね」
ジェイドがそう言うと、仲間達は首を傾げながら彼を見た。
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