A requiem to give to you
- 這い寄る屍鬼(7/10) -



それからも暫く老人達は睨み合っていたが、やがてイエモンとヘンケンがお互いに背を向き合った。そして───



「……わしらが地核の揺れを抑える装置の外側を造る」

「わかっとる! 演算機は任せろ」



イエモンとヘンケンはそう言葉を交わした。いがみ合っていても、何だかんだと息がぴピッタリである。

各チームでやる事が決まれば、ルーク達もまた計画を進める為に出来る事をするだけだった。これから向かうのはそう、ルークにとって……そして、タリスにとっても始まりとも言える場所───タタル渓谷だ。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







白く、小さくも美しく咲き誇る野原。以前は夜に、そして日の差さないユリアシティでも見たそれを明るい場所で見たのは初めてで、その光景はまた違うものだった。



「全然雰囲気が違う……。まるで別の場所のようねぇ」

「でも、確かにここから俺達の旅は始まったんだ」



風に靡く髪を抑えながらのタリスの言葉にルークが応える。タリスは「それもそうだけど」と言うと呑気に欠伸をしているトゥナロを見た。



「私にとってここは、この世界に来てからの本当の始まりの場所だったわ。周りの景色を楽しむとか以前に、出会って早々どこかの誰かさんが何の説明もなくバチカルに吹き飛ばしてくれたけど」

「あぁ? 寧ろ楽しむ気あったのかぁ?」

「そうねぇ。少しでも状況を説明してくれていたのなら、多少の余裕はあったかも知れないわねぇ」

「お前なぁ」



嫌味を垂れるタリスにトゥナロは溜め息混じりに言った。



「グレイも言ってただろ? 制約が多いんだよこっちは。それ以外にも、あの時は下手に突っ込まれても面d………説明が難しいし、何よりも実感がわかねーと思ったんだよ」

「今面倒臭いって言いかけたね」

「まぁ、元が元だからなぁ」



トゥナロの言いかけて取り消した言葉に気付いたレジウィーダとヒースがグレイを見る。それに倣って仲間達も彼に視線を寄越すとグレイは「オレを見るンじゃねェ」と睨んだ。



「それより、過去を懐かしむのも良いけど、今は急ぐンだろ?」

「そうですね。トゥナロ、セフィロトの入口は?」



ジェイドがトゥナロに問う。それにトゥナロは一度考えるように黙り込むと、ある方角を見た。



「入口は長い時をかけて自然が隠した。だが、ユリアと契約した力があれば何とかなる」



あとは自分達で探せ。

そこまで言うとトゥナロは再度欠伸をすると手頃な岩を見つけると飛び乗り、そこで丸くなった。



「自然が隠した? 草木が茂って見えなくしたとか?」

「実は水に沈んでるとかも考えられそうね」



レジウィーダが首を傾げ、ティアも己の考えを口にする。



「何にしても、ユリアと契約した力ってのがあれば見つけられるんだろ? その力って言うのは……ティアの譜歌の事か?」



ルークがティアを見る。しかしそれに返したのは元気よく飛び跳ねたミュウだった。



「それは多分このソーサラーリングの事ですの!」

「ソーサラーリングは、嘗てチーグル族がユリアとの契約の証として授けられた物ですからね」



ミュウの言葉にイオンもそう付け加える。ミュウは得意げに小さな手でリングを叩いた。



「ボク、頑張るですの!」

「ええ、お願いね。ミュウ」



ティアが優しく微笑みながら言うと、ミュウは嬉しそうにはいですの、と返事をした。

それからルーク達は渓谷を隈なく歩き回った。草木を分け、川を渡りながら中を覗き込み、魔物の巣穴を捜索したりもした。しかしいくら探せど、それらしい物を発見するには至らなかった。

獣道をかき分け、更に歩いた先に行くと開けた場所へと出た。するとそこには、今までその辺を彷徨いていた魔物とは違う、大きな何かがいた。



「あれは……?」



ガイが先に気が付き、声を上げると皆もそちらを見やる。視線の先には馬のような形状の魔物がおり、その額には巨大な角、耳の後ろからはエメラルドの海のような大きな翼が生えている。それはさながら地球で言うところのユニコーンのようで、その巨大さを除けばとても美しい物だと言える。



「あれって………ユニコーンか?」

「違うよ!」



グレイが呟くと、アニスが全力で否定した。どう言うわけか、その目はとてもキラキラと………まるで大金を前にしたような輝きを帯びているような気がした。



「古代イスパニア神話に出てくる『聖なるものユニセロス』だよ! 捕まえたら五千万ガルドは堅いの!」



その説明に仲間達は成る程、とアニスの様子に苦笑を漏らす。しかしただ一人ジェイドだけは首を横に振った。



「無理ですね。ユニセロスは清浄な空気を好む魔物です。街に連れ出せば、たちまち死んでしまうでしょう」

「あうぅ………」



アニスがとても残念そうに肩を落とす傍ら、ミュウは首を傾げながらユニセロスの足元へ行くとその顔を覗き込んだ。



「みゅ……。ユニセロスさん、何だか苦しそうですの……」

「苦しそう?」

「一体何が───」



ミュウの言葉を受け、ユニセロスから比較的近い場所にいたティアとガイが再度そちらを見ようとした時だった。

ガイの言葉が言い切らぬ内にそれは凄い勢いで突っ込んできた。



「───危ねぇっ!!」



ルークが声を張り上げ、全員が一斉に横飛びでそれを避ける。しかし場所が悪く、避けた衝撃で仲間に押される形でアニスが崖に投げ出されてしまった。

下は川だが浅く、大きな岩もゴロゴロと連なっている。落ちればただでは済まない。



「アニス!!」



今にも真っ逆さまに落下せんとする彼女に手を伸ばしたのは、ガイだった。咄嗟のそれは彼女の腕を捉え、そのまま体を捻る事でアニスを野原の方へと投げて戻した。
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