A requiem to give to you
- 這い寄る屍鬼(6/10) -



「いやぁ、ごめんねー。すっかり伝え忘れてたんだけど、あたしの電話壊れちゃっててさ。それにヒースちゃんは元々持ち歩いてなかったから、多分バチカルに置きっぱなんだよね。だから今後かける時はこのままタリスにかけてもらって大丈夫だから!」

『……わかった。あ、それでスピノザについての報告』



渋々だが頷くような返事の後、本題を切り出したフィリアムにルークが反応した。



「捕まえられたのか?」

『いや、』



それに返したのはアッシュだった。彼は苦々しげに唸るように言った。



『最悪なことに、スピノザが手紙で地核静止の計画をヴァンに漏らしたらしい。しかもその直後に他の六神将にスピノザを奪われた』

「何だって!?」

『大した情報を持たないスピノザを力ずくで奪ったんだ。奴ら、地核を停止されたら困るのかも知れない』

「じゃあヘンケンさん達は!? このままじゃ師匠に……」



研究はベルケンドで進めている。もしもこのまま放っておけば、ヴァン達は必ず彼らを襲うもしくは攫いにくるだろう。

しかしアッシュは「そこは安心しろ」と返した。



『二人はシェリダン行きの貨物船に乗せた。測定器はあっちで受け取れ』



その言葉にルーク達は安堵した。それに行き先がシェリダンなのもありがたかった。あそこもまた譜業の街なのだから、道具も材料も豊富にある。敵に見つかりさえしていなければ、測定器を無事に受け取ることは出来るだろう。



「そうか……。それで、お前はどうするんだ?」

『俺は地核振動の意味を探りつつ、引き続きスピノザを探す。お前達と連絡を取り合うのもここまでだ!』



そう言ってアッシュの声が遠退いていく。次いでフィリアムの声が聞こえてきた。



『取り敢えず、もうここ(ベルケンド)に用はないから……俺も離れるよ』

「アッシュに着いていく感じ?」

『いや………ちょっと、気になる事があるから別行動する』

「そっか、気をつけてね」



レジウィーダがそう言うと、フィリアムは一瞬だけ言葉を詰まらせる。それから小さく「そっちもね」と返ってきて、通話が終了した。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「そんな風に心が狭いから、あの時単位を落としたんだ!」



ヘンケン達のいるシェリダンへと着き、住人達から集会場にいると聞いてやって来たルーク達の目の前では、《い組》と《め組》が言い合っていた。

ヘンケンの怒鳴り声にイエモンも煽るように反論する。



「うるさいわい! そっちこそ仲間に売られたんじゃろが! 文句を言うなら出てけ!」



ダンッ、勢い良くテーブルにイエモンの拳が叩きつけられ、ルーク達は思わず萎縮する。そんな彼らに少し離れた場所で喧嘩を見守っていたアストンが気が付き、声をかけてきた。



「おや、あんた達か」



その声に他の老人達も漸く気が付き、喧嘩をやめてこちらを向いた。



「おお! 振動周波数の測定器は完成させたぞ!」

「わしらの力を借りてな」



ヘンケンが誇らしげに言う横でアストンがボソリと言う。それにヘンケンも「道具を借りただけじゃ!」と反論する。



「……元気なじーさん達だなぁ」

「染々言っている場合?」



ガイが乾いた笑いを浮かべながらの言葉にタリスは呆れたように突っ込む。そんな彼らを気にする事なく、ジェイドはヘンケンを向いた。



「それで、測定器は?」

「これじゃ。説明書は中に入っとるからな」



そう言ってヘンケンが大きな鞄をジェイドに差し出すと、彼は丁重にそれを受け取ってお礼を言う。

そしてイエモンが不敵に笑った。



「話は聞いたぞい。振動数を測定した後は、地核の振動に同じ振動を与えて揺れを打ち消すんじゃな?」



それにジェイドが頷くと、イエモンは更に続けた。



「地核の圧力に負けずにそれだけの振動を生み出す装置となると、並の技術では無理じゃ。わしらシェリダン『め組』に任せてくれれば、頑丈なやつを作ってやるぞ!」



その言葉にヘンケンは鼻を鳴らした。



「ふん、360度全方位に振動を発生させる精密な演算機は、俺たちベルケンド『い組』以外には造れん!」

「百勝目を先に取ろうって魂胆か!?」

「何だと!?」

「何じゃ!?」



イエモンとヘンケンは鼻をぶつけるんじゃないかと思うくらい、勢い良く顔を突き合わせて睨み合う。



「何だかどこかの二人みたいだな」

「本当ねぇ」

「「どこがだ!」」



呆れた表情で老人達の喧嘩を見つめて言うヒースにタリスも同意する。それに”どこかの二人”が突っ込むが、ルーク達は心の中で「お前らだよ」と思わずにはいられなかった。



「いや、それよりもさ。自分達の得意分野がわかってるなら、やる事決まったじゃんよ」



レジウィーダがそう言うとイオンも頷く。



「そうです。皆さんが協力してくだされば、この計画はより完璧になります」

「そうだよぉ。おじーちゃん達、いい歳なんだから仲良くしなよぉ」



アニスも頬を膨らませながら老人達に言う。



「「………………」」
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