A requiem to give to you
- 這い寄る屍鬼(5/10) -



「正直な話、僕自身もまだわかってないんですけどね。ただ、能力が関係しているのは確かみたいです」

「そう言えば、先程聞いた事ない術名を言っていましたわね?」



ヒースの言葉にナタリアがそう言うと、彼は頷いて続ける。



「元々、この能力が発現してから姿は見えなくても彼らの声だけはたまに聞こえていたんですよ。時間を経て力が強くなったのか、ケテルブルクに行った辺りからは他の集合体の姿も見えるようになって………そしたら、【祝福】と言って力を分けてくれるようになったんです」

『ヒース自身が元よりぼく達と近い性質を持っていたからね。でも何にも染まっていなかったから、皆で力を与えて染めてみようってなったんだ♪』

「その話はちょっと聞き覚えがないんだけど」



ヒースがそう突っ込むとシルフは「そうだっけ?」と首を傾げ、それからニッコリと笑った。



『でも、結局眷属になるのは断られちゃったから、染めたところであまり意味はないんだけどね。ただ、力自体はどの道あっても損はないだろうし、何よりぼく達がヒースを気に入ったからね! どうせならあげた力を使ってもらいたいから、これからも必要なら喚んでよ』

「ありがとう。ただ、僕は同調と簡単な威力調整は出来ても音素自体を増やす事は出来ないから、色々と条件は必要になるけどね」



ヒース自身にフォンスロットがあれば話は別なのだが、そこはレジウィーダ達と同様異世界人なのだからどうにもならない。だからこそ、余程音素の密度が濃い場所に行くか、レジウィーダの能力やティアの譜術のように音素を集めて濃度を高められる者に手伝ってもらう必要がある。

それにシルフは少しだけ残念そうに、しかし「わかってるよ」と苦笑を浮かべた。



『流石に必要以上に音素を注ぎ込むわけにはいかないからね。人より許容量が多くても、過度な力は人間なんてちっぽけな存在を狂わせるくらい容易いんだ』



その言葉に譜術を扱う者達はどう言う事なのかがわかったのか、想像をもしたのか、その表情は苦々しい物だった。



『ま、今はその位が丁度良いんだし、本人が無茶苦茶な使い方さえしなけらば大丈夫でしょ!』

「そうだね。例え仮にそうなりかけたとしても、誰かしらは止めてくれそうだし」

「当たり前でしょう」



冗談とはわかっているが、ヒースの比喩にタリスが突っ込む。それにシルフは満足そうに頷く。



『うんうん。それなら問題ないね! ……と、そろそろ限界かなぁ』



言うが早く、シルフの体は少しずつ透け始めている。シルフはヒースを見ると「そろそろ戻るよ」と告げた。



「ああ、態々出てきてくれてありがとう」

『ふふん、ぼくは他の子達と違ってどこへでも行けるからね♪ 是非また喚んでね』



それと、と付け加えるとシルフは途端に真剣な表情になった。



『音素を喰らう化け物には気を付けて』

「え?」



それってどう言う事だ、とそう問おうと口を開いた時には、シルフの姿は風と共に消えてしまった。



「音素を喰らう化け物って?」

「わからない。ただ、前にもなんかセルシウスが言っていた気はするけど……」



レジウィーダの問いにヒースも顎に手を当てて考えるが、やはりピンとは来なかった。そんな二人を見てジェイドが口を開いた。



「まぁ、その化け物の正体が何にせよ、警戒するに越した事はありません」

「そうだな。ただでさえ、六神将にヴァン、フィーナにモースからの襲撃の可能性だってある」

「それに先程街で襲ってきた者の正体も気になりますわ。大衆構わず来た所を見ても、いつ何時戦闘になるかもわかりませんもの。気をつけていきましょう」



ジェイドの言葉にガイとナタリアもそう言うと、仲間達も強く頷いた。

それから改めてヘンケン達の元へ戻ろうと礼拝堂を出た時だった。



テテッテテレ、テン、デン♪



「うおっ!?」



聞き覚えのあるメロディがルークから聞こえてきた。ルークは驚きながらもズボンのポケットに入れていた物を取り出すと画面を見て、首を傾げた。



「いきなりびっくりした……けど、???」

「フィリアムじゃね?」

「そう言えばアンタの携帯渡してたもんね」



グレイとレジウィーダが依然として鳴り続けている携帯を覗き込むと、そこには「坂月 陸也」と表示されていた。どうやらルークが首を傾げていた原因は見覚えのない文字のせいだろう。二人の言葉に納得すると同時にナタリアがハッとした。



「まさかアッシュに何かあったのでは!?」

「何かあったと言うより、スピノザ関係じゃないかしら」

「いや、何でも良いけど取り敢えず早く出てやれよ」



ヒースが突っ込むとルークはそうだった、と慌てて通話を押して電話に出る。



『あ、やっと出───『遅ぇんだよこの馬鹿!!』………ちょっと、いきなり怒鳴るなよ』



スピーカーモードでなくても聞こえてくる怒声に、ルークは思わず耳から携帯を離す。その後電話の向こうでフィリアムが諌める声が聞こえ、そっと耳元に戻すと「ごめん」と言った。



『その声……ルーク?』

「あ、うん。タリスの携帯は俺が持ってるんだよ」

『なんで? ……いや、今はそれはどうでも良いや。それより、姉さんの電話は繋がらないし、ヒースは出ないしで困ったから今度からかける先をわかるようにしておいて欲しいんだけど』



そんなフィリアムの言葉に困ったようにレジウィーダを見るルークに、話が聞こえていたらしいレジウィーダがルークから電話を受け取ると即座にスピーカーモードにして話し出した。
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