A requiem to give to you
- 這い寄る屍鬼(4/10) -



「ガイ。………わたくし、貴方が女性を怖がるのを面白がっていましたわ。ごめんなさい」



それに倣うようにアニスとティアも頭を下げた。



「今まで揶揄って、ごめんなさい」

「私も………本当にごめんなさい」



タリスは「ねぇ」と言った。



「前にコーラル城で、一度物凄く怖がっていた時があったでしょう? その時に記憶がないと聞いていて、ちゃんと考えれば、その時点でトラウマが原因の可能性もあったってわかった筈なのよね………それなのに、あなたのソレを利用してふざけていて、ごめんなさい」

「オイオイ、皆何言ってんだよ」



ガイは小さく笑った。



「俺だって忘れていたんだ。君達が謝る必要はないさ。だから気にしないでくれ……勿論、ルークもな」



最後に名前を呼ばれたルークは何かを言い募ろうとしたが、やがて小さく頷いた。



「それでガイ、もう大丈夫ですか?」



ジェイドがガイにそう問うと、彼は力強く頷く。



「ああ、心配かけて悪かった。もう大丈夫だ」



そのタイミングで、礼拝堂の扉が開かれた。



「皆、遅れてごめん!」



そう言って走って入ってきたのはレジウィーダだった。先程までの落ち込んだ様子はなく、いつも通りの表情に仲間達は安堵する。

彼女の後ろからはグレイとイオンが歩いて入ってきて、仲間達、それからガイを見た。



「もう平気なのか?」

「ああ、何も出来ずに悪かったなぁ」



苦笑するガイにイオンが首を横に振った。



「そんな事はありません。大丈夫そうで良かったです」



そんなやり取りを横にレジウィーダは「ところでさ」とジェイドを見た。



「あの時の襲撃者の事って、何かわかった?」

「……いえ。残念ですが、術が飛んで来た方を見た時には、もう襲撃者の気配すら感じられませんでした」



ジェイドは珍しく苦々しげに顔を顰めて答えた。気配や音素に敏感な彼が見失うレベルと言うことは、相手も相当な手練れと言う事なのだろうか。



「アリエッタがね、捜査に協力してくれるみたい。何かわかったら伝えるから、こっちはイオン様を必ず守って、だって」



アニスが肩を竦めながら、しかしその表情は苦笑気味になって言う。アリエッタの姿がなかった理由は、襲撃者について動いてくれていたからだったのかとレジウィーダは納得すると、「そっか」と頷いた。

するとジェイドが思い出したようにヒースを向いた。



「そう言えば、今の会話で思い出したのですが。最初に襲撃者の譜術が放たれる直前にとてつもなく濃いの第三音素を感じたのですが、あれは貴方が襲撃者が来るのを察知したのと何か関係がありますか?」

「あ……………忘れてた」



ジェイドの言葉に、ヒースがそう言う。その顔は本気で忘れていたようで、事情を知っているルークやレジウィーダ達は乾いた笑いを漏らした。



「いや、別に隠していた訳でもないんですけどね」

「え、なになに? なんかヤバイ事???」



アニスが恐る恐るそう言うと、ヒースは「そんなんじゃない」と否定した。



「シルフが、教えてくれたんだ」

「シルフ……って、第三音素意識集合体の事?」

「そうそう」



そうヒースは頷くが、アニス達は今一つ理解し難いような表情だ。それにヒース自身もどうしようかと首を傾げながら心の中でシルフを呼び掛けようとすると、ルークが口を開いた。



「俺は見た事あるぜ! あの時はシルフって奴じゃなかったけど、同じような奴がヒースに力を分けてたんだ!」

「どう言う事ですか?」



ジェイドがそう訊ねると、ルークは押し黙る。聞かれたところで、本人ではないので説明など出来る筈もないのだ。そんな彼に肩を竦めると、今度はグレイがヒースを向いた。



「つーか、直接喚んだ方が早くね?」

「あ、ならあたし手伝うよー」



と、レジウィーダもノリノリで腕を回し出す。その申し出にヒースも一つ頷くと「なら、お願いするよ」とレジウィーダに頼んだ。



「オッケー♪ ───エナジーコントロール!」

「ありがとう。出てきてくれ、シルフ───エレメント・サモナーズ」



レジウィーダが集めた第三音素を利用し、ヒースはバチカルの時と同じようにシルフへと呼び掛けた。すると音素は意志を持ち、ヒースの声に応えるように彼の目の前に集まると、やがてそれは形となって具現化した。



『やーっとぼくを紹介してくれるんだね!』

『!!?』



大きなリボンに愛らしい少女のような姿。蝶のような羽を羽ばたかせて現れたシルフに初めて見た面々は目を見開いて固まった。



『初めまして人間達。ぼくはシルフだよ!』

「……シルフ…………本当にいたのね……」

「しかも普通に意思疎通出来てるなんて……ヒース、これどうなってるのぉ!?」



何とか搾り出すように声を出すティアとヒースに説明を求めるアニス。しかし彼が口を開く前にシルフは頬を膨らませた。



『ちょっと、人に名乗らせておいて無視とは失礼な奴らだね!』

「え、……ご、ごめん」

「何だか色々と衝撃的すぎて……」



そんなこんなでルーク達は順番にシルフへと名乗ったところで、ジェイドは再度ヒースに説明を求めた。
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