A requiem to give to you
- A score that spells hope・後編(10/10) -



「多分、また眠れないんだろうなって思ったから。心配なのよ」

「………それは、恋人だから?」



詳しい事はわからないが、グレイとタリスは恋人同士らしい事は聞いていた。そう思うのなら、タリスのこの行動はとても納得のいく事なのだろうが……



「それも勿論あるわ。でも、それを抜きにしてもグレイも、ヒースやレジウィーダと同じく私にとってとても大切な幼馴染みよ。困っているのなら、助けたいって思うの……でも、」



そこまで言ってタリスは表情を曇らせる。



「レジウィーダが悩んでいた時もそうだけど、私では色々と役不足みたいね。今からグレイを追いかけたとして、だからと言って私が出来ることは本当に何もないかも知れないって………そう思うと、すごく悔しいわ」



私はいつも何かを与えてもらってばかり。だから何かを与えてあげる事が出来ない。

そう言って自嘲するタリスに、フィリアムは何故だか苛立ちを感じた。そしてそれと同時に思わず口を開いていた。



「自分で役不足ってわかってるなら、他にやるべき事があるって事だろ」

「え……?」



その言葉にタリスは目を瞠る。



「出来ない事を無理にやろうとしたって無理なものは無理なんだよ。でも、今もこうしてアンタ達がお互いを想い合えるんなら、それはアンタにあの三人にとって必要な何かがあったって事なんだろ」



正直、それが何かはわからないけど。

フィリアムの持つ宙の記憶の中にある彼女は、正直言って良い印象はない。

嫉妬、怒り、絶望。そんな感情を向けられている記憶が多い。だからと言って宙自身が彼女に対して特別嫌な感情を持っているわけでもないのが理解が出来なかったが、やはりレジウィーダとは違う人間であるフィリアムは同じようには思えなかった。

しかし今の彼女とレジウィーダの関係が悪い様子はない。だからフィリアムが二人に対してどうこう言うつもりはなかったが、それでも……少しでも過去の記憶と違う感情の方が強いのだと言うのなら、少しだけ彼女を信頼しても良いのかも知れない。



「手を取る役目が既にいるのなら、アンタが出来る事ってなんなのか……もう一度よく考えてみたら?」

「…………そうね。何も解決させる事だけが全てではないものね」



そう小さく呟くと、タリスは一度深呼吸をするとフィリアムを見た。



「ありがとう」

「……べ、別にお礼を言われるようなこと、してない」



寧ろ捉えようによって嫌味にしかならないと思っていると、タリスは首を横に振った。



「それでも、私に考えるチャンスをくれた。きっと私一人ではまた空回りをしてしまう所だったわ………だから、ありがとう」



そう言って嬉しそうに微笑んだ彼女に、フィリアムは返す言葉に困り黙り込む。

それからタリスは思い出したように手を叩いた。



「さっきレジウィーダも外に出たみたいだし、早速行動に起こしてみるわ」



結局全員出てるのかよ。

そう心の中でツッコミを入れているフィリアムを他所にタリスは「そろそろ行くわ」と言った。



「多分、今夜は帰ってこれないと思うけど、大佐さんやアッシュに何か言われたら適当にフォローしておいてね♪」

「え」



言いたい事を言い終えると、タリスは足早に去って行った。

再び一人となった空間で、フィリアムは苛立たしげに溜め息を吐いた。



「………そう言うところ、やっぱり嫌いだ」



しかし同意はしていないが、ここまで勝手に外に出る者達を見送ってしまっている時点でフィリアムも同罪みたいなものだろう。

仕方なしに朝の言い訳を考える為にもフィリアムは静かに部屋に戻ると、再びベッドへと寝転がった。











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