A requiem to give to you- A score that spells hope・後編(9/10) -
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───時は少し遡り数時間前。
解散後、各自で買い出しなどのやる事も終えて、宿の消灯時間となり割り当てられた部屋で目を瞑って休んでいると、ふと隣のベッドから物音がしたのに気が付いた。
「兄貴?」
「ン? あ、悪い。起こしたか?」
頭を上げて振り返れば、フィリアムよりも先にベッドで横になっていたグレイが軽く身支度をしていた所だった。
暗がりで表情はわかりにくいが、声色的にも幾分か申し訳なさそうにする彼にフィリアムは「大丈夫」と首を横に振った。
「まだ寝てなかったし………それより、どこかに行くのか? しかも一人で……」
そう言葉にしながらグレイよりも更に奥にあるベッドを見やる。ここは三人部屋の為、自分とグレイの他にはヒースがいるのだが………どうやら彼は夢の中らしく起きる気配はないようだ。
しかし昼間の事もある為、いくらグレイでも流石に一人は危なくないのかと思っていると、グレイ本人はあまり気にした様子はなかった。
「ちょっと軽く散歩してくるだけだよ」
「こんな時間に……?」
「最近ずっと張り詰めてたからなぁ。気を休めろっつったって直ぐに難しいモンだぜ」
そう言って肩を竦めるグレイ。しかしフィリアムはそんな彼の最近顔色が優れない事を知っていた。バチカルに向かうまでの海上で再会した時よりも更に色濃くなっている目の下の隈からも、彼が全然休めていない事も十分に理解出来ている。
彼の仲間達もそれに気付いてはいるのだろうが、彼の事だからきっと上手い具合にかわしてしまっているのだろう。
宙の記憶の中にある彼もまた、何かと”そう言う所”があるのだから、これは記憶云々よりも元々の彼の性格なのだろう。
「あの、ついて行こうか?」
何が出来ると言うわけでもないが、一人で行かせるよりは良いのではないかと申し出るが、グレイはそれをやんわりと断った。
「平気だって。いつ戻ってくるかもわかンねーし。それよりお前も今回色々動いたから疲れたろ? オレが言う事じゃねーけど、早いとこちゃんと休めよ」
「……ホント、アンタが言える台詞じゃないよ」
呆れたようにそう返せば、グレイは明後日の方を向いて誤魔化す。それから「とにかく行ってくるわ」と告げると静かに部屋を出て行ってしまった。
「………………」
何が彼を悩ませているのかはわからない。しかし大凡の予想はつく。でもだからと言って、今すぐに解決出来るような事でもないし、何よりもその役目は己ではない。
だけど、
(やっぱり、後を追いかけようかな)
やはり心配にはなる。そう思ってベッドから立ち上がろうとした時……今まで静かに寝息を立てていた筈のもう一人が飛び起きた。
「………っ!!」
「うわっ!?」
あまりにも急過ぎて驚きに声を上げると、ヒースは辺りをキョロキョロと見渡した後にフィリアムを見た。
「? 起きてたのか?」
飛び起きたとは思えないくらいあまりに普通に声をかけてくるものだから、フィリアムは思わず返す言葉を失ってしまった。
そんなフィリアムを他所にヒースは自分の隣りのベッドを見て、それから小さく溜め息を吐いた。
「あいつ、出掛けたのか?」
「あ、うん。ちょっと散歩してくるって……」
「絶対帰ってこないやつじゃん」
呆れたような言葉にフィリアムも心の中で同意する。
それからヒースは軽やかにベッドから降りると剣を持ち、靴を履いてドアへと向かった。
「追いかけるのか?」
「残念だけど、無理に追いかけたところで僕だけじゃ何もしてあげられないよ」
寧ろあいつには負担になるかもね。
そう言ってヒースは苦笑を漏らす。
「なんか、ちょっと気になる事が出来たからあいつとは別件で少し出てくる」
言うが早く、フィリアムが何かを返す前にヒースも部屋を出ていった。
結局一人取り残されたフィリアムはどうしようかと考え、取り敢えずドアを開けて部屋の外に顔を出してみる。
「あら、こんばんわ」
「!?」
部屋の目の前には丁度通りかかったらしいタリスがいた。まさかいるとは思わず後退ると、笑われた。
「そんなに驚かなくても……」
「いや、外に出て急にいたら驚くだろっ…………それより、アンタまでこんな時間に何出歩いてるんだよ?」
最早何か打ち合わせでもしているのかと思うような展開にフィリアムは彼女にそう問うと、タリスは苦笑を漏らした。
「その様子だと、やっぱり外に出たのねぇ」
そんな気はしていたけれど、とそう続けた彼女は少しだけ悲しげで、フィリアムは言葉に困ってしまった。
タリスはそんなフィリアムの様子に気が付くとハッとした。
「あら、ごめんなさい。困らせるつもりはなかったのよ」
「いや、別に………それよりも、アンタは兄貴を追うの?」
ヒースはわからないが、タリスのこの様子ではグレイを追うのだろう。そう思って問うと、タリスは頷いて返した。
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