A requiem to give to you
- A score that spells hope・後編(7/10) -



「ふふん、高かっただけあるね!」

「因みにいくらだよ?」

「3000ガルド」

「高っ」



下手な装備より余程高い。しかしルークとタリスは首を傾げた。



「そうか? 寧ろ安いくらいだろ」

「寧ろ本気で寝心地を求めるなら、もっと積んでも良いくらいじゃない?」

「金銭感覚がバグってる方々は黙っててどうぞ」



そんな二人にヒースが突っ込み、レジウィーダは苦笑して改めて寝転んだ。



「そう言えばさ、この世界には星座って概念はあるのかな?」

「あー………屋敷にいた頃、ガイからなんか聞いたことがある気がする」



興味がなかったから覚えてないけど、と言うルーク。それに何だかすごく勿体無い気がしたが、それも仕方がないのだろうと思うことにした。



「そっかぁ。……まぁ、そう言うあたし達もあまり意識はした事なかったよね?」



レジウィーダが三人に向かって言うと、タリス達もそれぞれ頷く。



「そうねぇ。精々夏の大三角形とか、冬のオリオン座とかその辺くらいしかわからないわ」

「後は、星座とは違うけど秋冬頃に流星群を見に行ったこともあったな」

「その頃って言うと、獅子座流星群か」

「獅子座流星群?」



聞き覚えのない単語にルークが聞き返す。



「あたし達の世界でも比較的見やすいとされる流れ星の大群かな。これは毎年ってわけじゃないけど、確か昔一度だけ皆のタイミングがあって見れた事があったんだよ」

「流石に田舎じゃなかったからものすごくはっきりと見えたわけじゃないけれど、それでも普段じゃ見れないくらいの流れ星を見たわよねぇ」

「そうなんだな………ちょっと、羨ましいな」



自分達のように、夜星を見上げて語らうなんて事はしてこなかったのだろう。ルークがどこか寂しげに言うと、タリスが小さく笑った。



「だからこそ、あなたも誘ったのよ」

「え?」

「ガイやナタリア達も呼べれば良かったのだけれど、流石にあまり大人数で来るのもアレだったからねぇ………偶々とは言え、居合わせてくれて良かったわ」



そう言ってタリスは次いで空を指差した。



「流星群、とまではいかないけれど。まだまだ夜は長いのだから、流れ星くらいは探しても良いんじゃないかしら」



それにヒースも同意した。



「そうそう。運良く流れ星を見つけたらさ、願いでも言ってみたら良いさ」

「願い?」

「あたし達の世界のちょっとしたジンクスで、流れ星に祈ると願いが叶うって言われてるんだよね」

「けど、あれって消えるまでに三回唱えるんじゃなかったか?」



グレイが冷静にそう言うと、タリスは「物は考えようよ」と返した。



「あくまでもおまじないみたいなものなのだし、そこは深く考えなくたって良いと思うわ」

「だから心置きなくルークはヴァンに土下座させる事を考えようよ」

「師匠が俺に土下座って………」



レジウィーダの言葉にルークが苦笑いをする傍ら、昼間のやり取りに特に不満を持っていた二人も「それは良い」と手を叩いた。



「寧ろ土下座じゃ済まされないわ。寧ろ箪笥の角に足の小指をぶつける位の苦しみは味わってもらわないと」

「あとはあの行け好かないチョンマゲと髭が抜け落ちてしまうと良い」

「それは楽しそうですの!」

「報復の規模がしょべェ………つーかヴァンのあれはチョンマゲでもねーし」

「ははは………俺、師匠のそんな姿見たくねぇんだけど……」



ノリノリでヴァンへの報復方法を考えながら流れ星を探す三人と一匹にグレイとルークが呆れたように溜め息を吐いたのだった。






そして───






それから月が大きく移動した頃、公園内に響いていた楽しげな声はいつの間にか止み、辺りには小さな寝息がいくつも立っていた。

一人、また一人が夢の中へと旅立つ間、ずっと起きていたレジウィーダはそんな仲間達に小さく口角を上げるとゆっくりと体を起こした。本当は寝冷えをする前に皆を起こして宿屋に戻るべきなのだろうが、何となくそんな気は起きず、レジウィーダは鞄から常備していた薄手のタオルを取り出すと眠っている人達に掛けていった。

最後に、こちらに背を向けて寝転んでいるグレイにも掛けようとして……手を止めた。



「……やっぱ、眠れない?」

「…………」



小さく息を呑む気配を感じ、レジウィーダはそっと元の位置に戻ると座り込んだ。それから独り言を呟くように口を開いた。



「皆と出会うよりももっと昔は、知らない誰かの為に何かをしたいって思わなかったんだよね」



生まれた時から己の運命は決まっていたようなモノだったから。ただ一人の為に生きれば良かった。



「だから他の誰とも関わりたいとも特に思わなかったし、今のように何かを愛でたいとか、守りたいとか感じた事もなかった」



それに意味なんて、ないと思っていたから。



「でもある時に、そんな考えを変えさせられたんだ」



引き篭もりのように誰とも関わらずに過ごしていた、そんな日々をぶち壊した人達がいた。



「一人はちょっと強引で、頭は良いのにお馬鹿で、人懐っこい。もう一人はそんな一人の背に隠れるような恥ずかしがりの人見知りで、だけど心の優しい子」



ある日突然、目の前に現れたそんな二人は、宙にとってはとても新鮮で刺激的な存在だった。
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