A requiem to give to you
- A score that spells hope・後編(4/10) -



「奇遇ねぇ。夜の散歩かしら?」

「まぁ………て、言うかお前はこんなところで何してンだよ」



見た所誰もおらず、本当に彼女は一人でここにいたようだ。己よりも余程戦闘経験も浅い彼女が一人で出歩くのはかなり危険だ。そう思って問うと、タリスは少しだけ困ったように自身の頬に手を当てて溜め息を吐いた。



「それが、ルークが宿にいなくてねぇ。ミュウもいないようだから一緒にいるんだとは思うけど、途中で見なかった?」

「いや、別に見なかったな」



元々あまり人目がつかないように歩いていたのもあり、誰にも会っていない。それにルークほどの目立つ髪色をしていれば流石に見かけたら気付くだろう。

素直に見かけなかったことを告げると、タリスは訊いてきた割にはその答えに然程気にした様子もなく「そう」と言ってグレイをじっと見つめてきた。



「まぁ、それはあくまでも口実なんですけれど」

「どう言う事だ?」

「霊魂達に聞いたのだけれど、どうやら今はヴァンはいないみたい。キムラスカ軍の気配もなさそうだし、街の外へ行かなければそこまで心配する必要はないかな、と思って」

「……そう言う事か。前から思ってたけど、お前の力もなかなか便利だよな」



探索にはうってつけだ、と感心してそう言うとタリスは得意げに笑った。



「でしょう? だからあなたが外に出たことも直ぐにわかったわ」



まぁ、あなた以外にもちらほらといるけど。



「それよりもあなたよ、グレイ」

「オレ?」



そう聞き返すと、タリスは先日と同じような心配の色を乗せた表情をした。



「ナタリアの事、気がかり?」

「………どうして、そう思うンだよ?」



まさかピンポイントで図星を指してくるとは思わず、言葉を詰まらせながらもそう問い返す。そんなグレイにタリスは「何年の付き合いだと思っているのよ」と少しだけ怒ったように眉を吊り上げた。



「ナタリアの件が顕著になっているから今は特にそんな感じが色濃く出ているけど……でも、そうね。あなたは元々”ある一定の話題”には弱いわよねぇ」

「……………」

「しかもそれと同時に不調が出てくるとなれば、誰だって気付くわ」



寧ろ今まで誰にも何も言われなかったなんてこと、なかったでしょう?

そう問われれば、最近までの事もあり黙り込むしかなかった。



「………ンな、事言われたって」

「グレイ、別にあなたの嫌がる事を根掘り葉掘り聞いたりはしないわ」



だけどね



「恋人だとか、幼馴染みだとか。そう言うのを抜きにしたって私があなたを心配なのは変わりはないわ」



タリスは再び言葉の通り、心配げに眉を下げる。それにどうにも申し訳なさが勝ってしまい、思わず「………悪い」と言葉が漏れた。

しかしその言葉に彼女は首を横に振った。



「別に謝る必要はないのよ。ただ、私でも何か出来る事があれば言ってほしいなとは思う」

「お前に、出来る事……」

「何でも良いのよ。愚痴を漏らしてスッキリするでも良いし、ムカつく奴をぶっ飛ばす手伝いでも良いし♪」

「……それ、結構限定的じゃ………つーか後半は寧ろお前がやりたいだけだろ」



昼間の事を思い出し突っ込むと、タリスは悪戯がバレたかのように舌を出して笑った。



「あら、バレちゃったかしら?」

「バレないとでも思ったか」

「フフ、でも止めないって事はそれも悪くはないって事でしょう?」

「まあ、あの野郎にはこっちも約束破られてるからな。出来る事なら一発入れたいとは思うぜ」



じゃあ、それは決定事項ね、と両手をポンと合わせるノリノリなタリスに思わず苦笑が漏れる。

それからタリスは表情を落ち着かせると再度グレイを見た。



「大丈夫よ」

「? 何が?」

「ナタリアとインゴベルト様は、きっと大丈夫」



だって、



「本当に実の娘を奪われたとナタリアを偽物扱いするのであれば、あんなに迷わないわ」



それこそ、毒を飲んで自決をさせるだなんてまどろっこしい事はせずにその場で処刑でもするところだろう、とタリスは考えているようだ。



「あとはナタリア次第。彼女がインゴベルト様とどう向き合いたいかだけど………きっと、ナタリアは間違える事はないわ」

「どうして、そう思うンだ?」

「時間は、嘘は吐かないもの」



バチカルで確かにルークも言っていた。ナタリアは生まれた時から王女として育てられてきた、と。そして王であり父であるインゴベルトは、それはそれは愛娘をとても大切にしていたと言う事は、国内外ともに有名な話だ。



「きっと、昔からずっと側にいて娘の成長を見てきたんだと思う。目に入れても痛くないような、そんな存在を自らの手で捨てるだなんて……………それはとても苦しい筈だわ」

「そう、だな」



グレイにはその感覚は少しわかり難い部分もあったが、それを幼馴染み達と置き換えるのなら、想像に難くはない。



「預言がどうのと言うのなら、それこそ私たちの存在(預言の存在しない世界の者)をもっと向こうにも叩きつけてやれば良いのよ。レジウィーダとあなたがバチカルで乗り込んできた時みたいに」

「あれは……勢いに乗せられたと言うか…………いや、まぁー………それも、なしではないか」

「でしょう?」



だから次はもっと派手にいきましょう。

そんなどこぞの紅髪のような言葉に流石のグレイも苦笑を禁じ得なかった。
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