A requiem to give to you
- A score that spells hope・後編(3/10) -



しかしルークは初めて聞く内容に首を傾げていた。



「シルフの眷属? それに祝福って何の事だ?」

「あー、それね」



そう言えば祝福の事はまだ仲間達にちゃんと説明していなかった事を思い出す。バチカルで発現した新しい力についてもまた、流されるままに使ってしまっていたが、正直ちゃんと思い返しすらしてなかったなと苦笑した。



「別に隠していたつもりはなかったんだけど、色々あって忘れてた」

「どう言うことだ?」

「また皆には改めて説明するんだけど、実は僕さ………音素意識集合体達から好かれてるみたいで、何か色々と力を貸してもらってるんだよね」











………………。











「いやそれ割と重要な事じゃねぇ!?」

「うん、言ってて僕もそう思う」



ルークの突っ込みにヒースもハハハと乾いた笑いが漏れた。

そんな事をしていると、この場に更なる人物がやってきた。



「おー! 何か騒がしいと思ったら、ヴォルトがいるじゃん!」

「レジウィーダ?」



珍しいー、と目を輝かせながらヴォルトを見上げたレジウィーダはヒースを振り返った。



「祝福?」

「まぁ、そうだね」

「レジウィーダさんもヴォルトさんの事を知っているんですの?」



ミュウの問いにレジウィーダは頷いた。



「別の世界でね。因みに言葉はわかった?」

「ボクが通訳出来るですの!」

「お、さっすがー♪」



そう言ってレジウィーダがミュウの頭を撫でると、ミュウも嬉しそうに笑った。



「てか、他でもやっぱり基本的に言語の疎通が難しいんだな」

「そうみたいだな…………それで、この後はどうするんだ?」



ルークがヒースに問う。ヒースはそれに本来のヴォルトの目的を思い出すとミュウを連れて前に出た。



「態々来てくれてありがとう。その祝福、ありがたく頂くよ」

「みゅうみゅみゅ、みゅ!」

『謌代′蜉帙?∽ク頑焔縺丈スソ縺?→濶ッ縺』



何も言わなくとも自分の役割を果たしたミュウを褒めるように撫でる。無事にこちらの言葉が伝わったようで、ヴォルトは返事をするとその全身を奮わせた。

そしてヴォルトから電流が発生し、それは一つの光となってヒースへと降り注ぐ。それを見たルークが慌てたように駆け出そうとしたが、レジウィーダがそれを止めた。



「大丈夫。ヴォルトはヒースに自分の力を分けてくれているだけだから」

「でも、それって大丈夫なのか?」



確かに、普通の人間であったなら、意識集合体レベルの音素を一気に受ければただでは済まないだろう。しかしレジウィーダは心配はしていなかった。



「だってヒースちゃんだよ? 彼の能力って何だったか覚えてる?」

「ヒースの能力って確か、自然との同調……だっけ?」



その言葉にレジウィーダは「正解」と頷く。



「そう。だからその力がある限り、あまりにも無茶苦茶な事をしなければこのくらいは大丈夫だと思う。……それにね」

「それに?」

「この祝福って言うのは、一種の契約なんだよ」



バチカルでヒースが新たに取得した能力。この世界における音素の最上位となる存在から祝福と称して力を得ていると知った時、レジウィーダはある可能性に気付いていた。

ヒース達との再会までの道中、暫くはその可能性を中途半端にしか思い出せずにいたが、かつて別の世界に共に行ったもう一人の存在の言葉でそれを思い出し、バチカルでは彼に祝福を与えた存在と同じ音素を集めて渡した。そして彼はレジウィーダが予想していた可能性を見事『召喚』と言う形で体現して見せたのだ。



(ヒースの《同調》の力のその先、それは《召喚》だったんだ)



それが果たして能力の進化なのか、それとも元々あるべき能力自体が完成したと言うべきなのか。それはレジウィーダにはわからなかったが、少なくともヒースは自身が得た力を無事に使えたと言う事を今は喜ぶべきなのだろう。

そう思っていると、ヒースへと降り注いでいた光は彼へと吸い込まれるようにして消えた。それと同時にヴォルトも、自身を形成するプラズマを霧散させながら空気に溶け込むようにして見えなくなっていった。

再び夜の暗さと静けさを取り戻した空間で、ヒースはルーク達を振り返った。



「終わったよ」

「あ、ああ……」



未だに現状の整理がついていないようでルークが戸惑ったように頷く。それにヒースはミュウを手渡しながら言った。



「今度ちゃんと改めて説明するよ」

「それは勿論。だけど本当に何ともないのか?」

「大丈夫。どの道無茶はしないつもりだからね」



どっかの誰かとは違うからさ、と言ってレジウィーダを見ると、彼女は明後日の方向を見ながら「さあ、早いとここんな暗いところから出るぞー」と言って歩き出してしまった。

それにルークと二人で苦笑を漏らしながら肩を竦めるとその後を追いかけたのだった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







ヒース達が路地裏でヴォルトとの邂逅を果たしているその同時刻。また別の場所ではグレイが一人、暗い街中を歩いていた。

特に目的はない。ただ単に眠れなかったから、時間を潰す為に外に出てるだけの話だった。

かなり広い街だ。店などには入れなくとも、ゆっくりと見て回るだけでも時間などいくらでも潰せるだろう。

そんな事を考えながら何度目かの角を気まぐれに曲がり、そして足を止めた。



「タリス…………?」



そこにはタリスがいた。彼女はグレイが来るのがわかっていたのか、特に驚いた様子もなく優しく微笑むと口を開いた。
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