A requiem to give to you
- A score that spells hope・前編(6/7) -



「構わん、リグレット。この程度の敵など、造作もない」



ヴァンはまるで気にした様子もなく、そう言ってリグレットの武器を下ろさせた。それにジェイドも武器を構える者達に向かって口を開く。



「残念ながら、ヴァン謡将の言う通りです。今の我々では部が悪すぎる。武器を収めなさい」



今、ここで争えば確実に無傷では済まない。ヴァンは無駄だと言うが、それでも彼らは決して外殻大地を降下させる事を諦めたわけではないのだから。

レジウィーダもタリス達に再度首を横に振ってみせると、彼女達は悔しそうに渋々と武器を下ろした。



「ヴァン」



アッシュはルーク達との間に割って入るようにして前に出た。



「ここはお互い退こう」



その言葉にヴァンは静かに目を閉じるとこちらから背を向けた。



「よろしいのですか?」

「アッシュの機嫌を取ってやるのも悪くはなかろう」



リグレットはその言葉に頷くと、顎で扉を示した。



「主席総長のお話は終わった。早くこの場から立ち去りなさい」



アッシュは踵を返すとルーク達に目線で促し、先に部屋を後にする。それに続くようにしてルーク達も部屋を出た。

最後に残ったレジウィーダもまたそれに続こうとして、ふと思い立ったように振り返った。



「レジウィーダ、お前も早く行きなさい」



リグレットのそんな言葉を聞き流すと、レジウィーダは「あのさ」と言ってこちらに背を向けている存在に向けて問う。



「どうしてレプリカに拘るんだ?」

「レジウィーダ!」

「ごめんリグレット。どうしても気になるんだよ」



そう言って追い出そうとするリグレットをかわしてヴァンに一歩近付く。



「預言を信じる人々が憎いから、この世界から消し去りたいってのは………同意は出来ないけど理解は出来るよ。だけどさ、いなくなった穴埋めを代用品でするって、なんで態々そんな事をするんだろうなって思ってさ」



フィーナのように時を巻き戻して過去をやり直したい訳でもない。かと言って、世界をレプリカで作り替えた未来を生きたい……と言う風にも見えない。シンクなんかを見ていると尚の事そう思えるのだ。恐らく彼は、彼らは計画が成功すればその命をも散らすのだろう。

消したいと思うのなら、完全に消すべきなのではないのだろうか。それなのに、まるでこの世界の未来を望むかのような…………そんな彼の計画は、やはり何処か矛盾している。



「お前は」



ヴァンはこちらを振り返った。その表情は、先程までの人を見下すようなそれではない。しかし、込められている感情はわからなかった。



「レプリカ、と言う存在をどう思う?」

「どうって……。あくまでもあたしの考えでは、レプリカはオリジナルと同じ遺伝子を持ったとてもよく似た存在だって思う」



そう、あくまでも似ているだけで、決して同じなんかじゃない。



「だから考え方や性格だって似たとしても全く同じじゃないし、お互いの気持ちが完璧にわかる訳もない。その時抱いた感情も、体験も、時間も………全ては本人だけの物だ」




それは目の前の存在だってよくわかっている筈の事。ルークとアッシュ。それにイオン達やシンクだって、姿形は似ていてもその性格はまるで別だ。

そして、この世界におけるレプリカの最大の特徴と言えば……



「それに───レプリカには預言が存在しない」

「その通りだ。それこそが、お前の問いに対する答えでもある」



ヴァンが頷いてそう言うが、やはり腑に落ちない。



「やっぱり理解出来ないよ。預言にない存在だからって、全てをレプリカにして………その先の未来をアンタ自身はどうしたいって言うんだよ?」

「どうもしない。レプリカは人間として……預言のない世界を生きるだけの事だ」



全てがレプリカであれば、被験者との優劣や差別はない。今の世の中と違い、預言を頼らずに己の考えで生きていく。



「例えそれが叶ったとして、アンタはその先を見届けるつもりはないんじゃないの?」

「………………」



それにヴァンは答えなかった。やはりレジウィーダの予想は当たっていたようで、思わず顔を顰める。



「それって、凄く無責任じゃない? 神様気取るなら、せめて最後まで責任を持つとかしろよ」

「神、か……確かに、これだけの事を成すのなら、そう比喩も出来るか」



ヴァンはフッと軽く笑うと、表情を引き締めてレジウィーダを真っ直ぐに見据えた。



「……それで、こちらの真意がわかったところでお前はどうするのか?」

「何が真意だよ。まだ肝心な事に答えてない癖に」



しかし問い詰めたところで、これ以上は教えてはもらえなさそうだが。

レジウィーダは沸々と胸中にある怒りを鎮めるように息を吐くとヴァンを見返した。



「どうするも何も、あたしのやる事は変わらないよ。あたし達を喚んだ人達の願いを叶えて、あの子達と元の世界に帰るんだ。その為には、アンタの計画は絶対に阻止するんだ。───だから」



そこで言葉を一旦止めると、レジウィーダはヴァンに一等鋭い眼差しを向けた。



「あたしの大切な物に手を出すことは許さない」



例え一度でも懐に入れたとしても、利用出来そうな力を持っていたとしても………傷つけることも、そちらに引き込む事だってさせやしない。だってその先に、本当の幸せがあるとは思えないから。
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