A requiem to give to you
- A score that spells hope・前編(5/7) -



その姿を見てルークが叫んだ。



「師匠! 師匠はアクゼリュスで俺を……俺を………っ!」



言いたい事は沢山ある。だけど様々な感情が混じり合い、思うように言葉が出てこないようだった。

そんなルークにリグレットが冷ややかな溜め息を吐いた。



「とんだ人違いだな…………閣下、下がらせますか?」

「いや、構わん」



そう言ってヴァンは机の上で手を組むと、目の前にいるルーク……ではなく彼の横に立つティアを見た。



「久し振りだな、ティア」



兄に呼ばれ、ティアは手を強く握り奮わせる。



「兄さんは何を考えているの? セフィロトツリーを消して、外殻を崩落させて………こんな事はユリアの預言にも詠まれていないわ!」

「ユリアの預言か………馬鹿馬鹿しいな。あのようなふざけたものに頼っていては、人類は死滅するだろう。そう思わぬか、異界の者達よ」



そう言うとヴァンはゆっくりとレジウィーダ達を見た。ヴァン達もルーク達もはこちらの正体を知っている。今更偽る必要も、繕う必要もない。

レジウィーダはヴァンの問いに「否定はしないよ」と返した。それにルーク達からの視線を感じたが、構わずに続けた。



「でも、肯定もしない。結局のところは意識の問題だと思うしね」

「こう言うのに縁がないオレらからすれば、一から十を全部を頼るってのは………確かに馬鹿だとは思うけどな」



グレイが肩を竦めながら言葉を引き継げば、ヴァンは「その通りだ」と言って立ち上がった。



「意識の問題………この世界の大多数がグレイ、お前の言うような馬鹿な事をしているのだ。だからこそ、我らはユリアの預言から解放されなければならない」

「預言からの解放、ってそれで世界の滅亡を早めるような事をして意味なんてあるの?」



タリスが今一つわからない、と言いたげに首を傾げる。それにジェイドが眼鏡を押し上げながら口を開いた。



「確かに、皆死んでしまえば預言は関係なくなりますからねぇ」

「違うな。ユリアの亡霊のような預言と、それを支えるローレライだ。あれが、預言を詠む力の源となり、この星を狂わせているのだ。ローレライを消滅させねば、この星は預言に縛られ続けるだろう」

「でも、今の貴方の方法を続ければ、結局全てが終わる頃には人類皆全滅ですよ?」



今まで黙って話を聞いていたヒースも割って入る。



「言ってる事が破綻してませんか?」

「そうだよ! 外殻が崩落して消滅したら、大勢の人が死ぬ! そしたら預言どころの話じゃなくなっちまうじゃないか!」



ルークの同意するような言葉に、ヴァンは嘲るように笑う。



「預言通りにしか生きられぬ人類など、ただの人形だ。レプリカで代用すれば良い」

「フォミクリーで大地や人の模造品を作るってか? 馬鹿馬鹿しいな」

「ならば訊こう、ガイラルディア・ガラン・ガルディオス」



ヴァンはガイを真っ直ぐに見つめた。



「ホドが消滅する事を預言で知っていながら、それを見殺しにした人類では愚かではないのか?」



その言葉にガイは言葉を詰まらせる。そんな彼にヴァンは更に言った。



「ガイ、私の気持ちは今でも変わらない。兼ねてからの約束通り、貴公が私に協力するのならば、喜んで迎え入れよう」

「兼ねてからの約束……それってどう言うことだ?」

「それは………」



ルークの疑問にガイが言い淀む。



「ガルディオス伯爵家は、代々我が主人。我らは、ファブレ公爵家で再会した時から、ホド消滅の復讐を誓った同志なのだ」



ヴァンの言葉に一部の者達が驚いたようにガイとヴァンを見やる。ルークもまた言葉を失ったように表情を暗くし、それにタリスが声をかけようとした時、扉の向こう側が騒がしくなって来た事に気が付いた。


「───来たようです」



リグレットの言葉が終わると同時に扉が乱雑に開かれ、暗い赤が飛び込んできた。



「アッシュ!」



ナタリアが声を上げ、アッシュはヴァンを睨み付けた。

そんな彼にヴァンは笑顔を浮かべた。



「待ちかねたぞ、アッシュ。お前の超振動がなければ、私の計画は成り立たない。───さあ、私と共に新しい世界の秩序を作ろう」



そう言って差し伸ばされた手を、アッシュは勢い良く振り払った。



「断る! 超振動が必要なら、そこのレプリカを使え!」

「雑魚に用はない。これは劣化品だ。一人では完全な超振動を操ることも出来ぬ。これは預言通りに歴史が進んでいると思わせる為の捨て駒だ」

「───っ」



吐き捨てるような言葉。それにタリスが堪らず腕を振り上げようとして、レジウィーダは反射的に掴んで止める。

タリスは声は出さずにレジウィーダを見る。その瞳には普段の彼女からは考えられない程の明らかな怒りが浮かんでいた。

レジウィーダは小さく首を横に振る。今は諍いを起こしにきた訳じゃない。相手の考えがわからない以上、下手に動けば逆にやられる可能性がある。そう思いながらタリスを見つめ返していると、ティアが「兄さん!」と声を上げていた。



「今の言葉、取り消して!」



しかしヴァンはそれを受け入れはしなかった。



「ティア、お前も目を覚ませ。その屑と共に各地のパッセージリングを再起動させているようだが、セフィロトが暴走していては意味がない」

「意味がないですって!?」



ティアがカッとなり杖を構える。それに倣うようにレジウィーダの腕を解いたタリスやナタリア、ヒース達。そしてリグレットもまたヴァンを守るように前に立ち、譜業銃を構えた。
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