A requiem to give to you
- A score that spells hope・前編(4/7) -



取り敢えずさ、とレジウィーダが皆を振り返った。



「まずは宿を取って休もうよ」

「そうですね。今後の動きも話し合わなければなりませんし、今日は休んで明日朝にまた集まりましょう」



ジェイドの言葉に誰も反対する事なく、頷き合うと宿屋へと向かう事となった。






───そして夜が過ぎ、次の日の朝。






身支度を終え、レジウィーダが同室だったタリスと共に宿を出ると既に他の仲間達が揃っていた。



「はよーっす!」

「おはよう。遅くなってごめんなさいねぇ」



元気良く挨拶をするレジウィーダと少しだけ申し訳なさそうにするタリスに、仲間達も「気にしなくて良い」と言ってそれぞれ朝の挨拶を返す。

そしてアニスがレジウィーダを見て首を傾げた。



「あれ? レジウィーダ、髪型元に戻したの?」



バチカルで再会した時には華やかな装飾を着けて長い髪を下ろしていたのだが、今は服装こそそのままだが髪型は見慣れた二つ結びになっている。

アニスの言葉にレジウィーダはうん、と頷いた。



「アレって元々陛下への謁見用って言うか……ちょっと偉そうな人に見せる為のコスプレみたいな物なだけだったんだよねー」

「こすぷれ?」

「簡単に説明すると、何かに成りきったりする時の変装の事だよ」



聞きなれない言葉に首を傾げる面々にヒースが補足を入れる。それにレジウィーダも「そうそう」と言って続ける。



「そんな訳だから、下ろしっぱなしだと違和感って言うか、動き慣れないんだよねー。だから我慢出来なくて戻しちゃった」



まぁ、服に関しては動きやすいからこのままでも良いんだけどさー。

そう言って笑うと、ルークは「良いじゃないか」と返した。



「動きやすさってすごく大事だし、俺もそっちの方が見慣れてるから良いと思うよ。あ、勿論……前のが駄目ってわけじゃないけどさ!」

「あはは、わかってるよルー君。ありがとね!」



それはともかく、とレジウィーダは改めて仲間達を見た。



「この後は、どうするんだ?」



その言葉にジェイドが「それなんですが」と言って手を上げる。



「スピノザと言う男が、この街でヴァン謡将と組んでレプリカ研究をしていました。ヴァンの目的を探る為にも、ちょっと第一音機関研究所のスピノザを問い詰めてみませんか?」

「成程、確かにそれは良いかも知れませんね。前回はアッシュが”素直過ぎて”聞けなかった事もありましたし」



ヒースがそう言うと、以前を知っているメンバーは苦笑を浮かべた。そんな仲間達を他所にティアがルークを見て問いかけた。



「ルーク。この街は貴方のお父様の領地だったのよね?」

「あー……確か、そうらしいな」

「首都バチカルと湿原で隔てられているからこそ、姻戚関係にあるファブレ公爵に治めさせているのかしら……?」

「そうでしょうね。下手な貴族を置いて、敵対行動を取られてもたまりませんし」



確かにこの街では日用品からちょっとしたおもちゃの他にも、様々な武器や兵器だって研究、開発がなされている事だろう。それこそジェイドの言う通り、信頼の薄い者に任せていざと言う時に裏切られでもしたら、一気にキムラスカは不利になる。

婚姻関係にある以上、大きなデメリットもないファブレ公爵がキムラスカを裏切る事はまずあり得ない。そう考えれば、妥当な配役と言った所だろうか。



「ま、何にしてもここがキムラスカ領内である事は変わりはねーンだ。何をするにしても警戒するに越した事はないだろ」

「そうですわね。今はまだ……あそこに戻るべきではありませんもの」



グレイの言葉にナタリアも苦しげに同意した時だった。



「どうやら、そう甘くはないようですね」



ジェイドがそう言うと、どこに潜んでいたのか周りを神託の盾兵に囲まれてしまった。

思わず表情を強ばらせるルークの元に一人の兵士が前に出て言った。



「バチカルでは派手にやってくれたようですな、特務師団長」

「え?」



突然の言葉にルークは訳がわからずに思わず仲間達を見た。それにレジウィーダが何かに気付きルークに耳打ちした。



「アッシュの神託の盾での階級だよ。もしかしたらこの人達、ルークをアッシュと勘違いしてるのかも」

「アッシュと………成程な」



ルークが小さく頷いていると、目の前の兵士が続けた。



「ヴァン主席総長がお呼びです。出頭して頂きますよ、特務師団長」



その言葉にルークはジェイドを見、視線を受けた彼は頷いた。



「ヴァン謡将に会う絶好の機会です。ここは大人しく捕まりましょう」

「わかった」



それから兵士達に連れられ、図らずも当初の目的地でもあった第一音機関研究所へと行く事となった。

入り口から中に入り、こちらに意も返さずに研究に熱中している研究員達を通り過ぎた更に奥の扉まで来ると、先頭の兵士は扉を叩いた。



「アッシュ特務師団長を連行しました」

「ご苦労」



と、そんな久し振りに聞いた独特な低い声にルークは勿論、レジウィーダ達の間にも緊張が走る。

兵士が扉を開け、促されて入った先にはヴァン、そして《魔弾のリグレット》が待っていた。
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