A requiem to give to you
- 破滅の未来とフォミクリー(5/6) -



「トゥナロ。あなたはどうしてグレイと…………陸也と同じ姿をしているの?」



ずっと気になっていた。口には出していなかったがそれはヒースも同じで、きっと聞きたかったことだろう。隣りにいるグレイ本人を見ると、息を呑んだようにして成り行きを見守っていた。



「同じ? 違うだろ。色も、年も」

「茶化さないで。決して意味がないわけではないのでしょう? でも、フィリアムのようにレプリカでもないと思うの………なら、」



あなたは一体何者なのかしら。タリスのその言葉にトゥナロは重い腰を上げるように立ち上がり、グレイを向くと徐に彼に近付いてその額に指を軽く当てた。すると、



バチッ



「いっ……てええええっ!?」

「グレイ!?」



電流が走ったかのような音がして、グレイは両目を抑えてしゃがみ込んだ。驚いてタリスが側に寄って肩を支えると、そうなった原因を見上げて睨み……そして驚愕した。



「え…………」



見上げた先にいたトゥナロはつい先程までの星のような金色の瞳をしてはいなかった。いつの間にか左目を覆っていた布も外しており、彼の両目は…………………夜を思わせるような黒になっていたのだ。



「オレは《夢想を奏でる者》。今は、それしか言えないけど……きっとお前達なら、答えはすぐに見つかるさ」



そう言ってトゥナロは右手で指を鳴らすと、自身の周りから光を溢れさせた。どこか、行こうとしているのだろう。



「ま、待って!」

「すまんがタイムオーバーだ。今ので正直オレも辛い」



だからまた次回な、と言ってから、トゥナロは思い出したように一度レジウィーダを見て言った。



「こいつにはさっき伝えたが、暫くは能力……ってか魔術を使わせるなよ。じゃないと今度こそ死ぬからな」

「ちょっといきなり!?」



もっと最初に言いなさいよ、と怒鳴る頃にはトゥナロは光と共にどこかへと消えてしまった。



「あの男………次に会ったら絶対にしばき倒すわ」

「く、そ……ってェ……」

「! そうだわ、グレイ!」



怒りに拳を振るわせているとグレイの呻き声が聞こえ、タリスは慌てて声をかけた。



「大丈夫?」

「あ、ああ……大分痛みも引いてきた」



まだ少し痛むのか、目を抑えたまま立ち上がったグレイは痛みを振り払うように首を振るとそっと手を外して両目を開けた。

それを見てタリスは再び驚く事となる。その彼の右目は、左目と同じ金色になっていたのだから。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







ユリアシティから外殻大地へと戻って数日。暫く海上を走らせていたタルタロスは、やがて南アベリア平野のベルケンド港へと到着した。

そこから徒歩で少し歩いた先には音機関都市ベルケンドがあった。こんな時でなければガイやヒースは喜んで辺りを動いている音機関の数々に目を輝かせていたことだろうが、流石にそんな空気ではないのはわかっていなので泣く泣く自粛していた。

一行はアッシュの先導で第一音機関研究所へと足を運び、そこにいた一人の老人の元へと赴いた。



「お前さんはルーク!? いや、アッシュか……?」



老人はアッシュを見て驚愕に目を見開いてそう言うと、アッシュは嘲笑した。



「はっ、キムラスカの裏切り者がまだぬけぬけとこの街にいるとはな。笑わせるぜ、スピノザ!」

「裏切り者、とはどう言うことですの?」

「こいつは、俺の誘拐に一枚噛んでやがったのさ」



キムラスカの、と聞いてナタリアが不審そうにアッシュに問うと、彼は苦々しい表情で吐き捨てるようにそう返した。それにハッとしたのはジェイドだった。



「まさか、フォミクリーの禁忌に手を出したのは………!」

「アンタの想像通りだ、ジェイド」



そんな彼にアッシュは頷いた。



「そうですか……………ところで、フォミクリーを生物に転用するのは禁じられた筈ですよ?」



咎めるようなそんな声に老人───スピノザは「何を言う!」と叫んだ。



「フォミクリーの研究者なら、誰だって一度は試したいと思うはずじゃ! あんただってそうじゃろう、ジェイド・カーティス! いや、ジェイド・バルフォア博士!」

「博士?」



成り行きを見守っていたヒースが思わず疑問を口に出すと、スピノザは勢いに乗ったようにその疑問に答えた。



「そうじゃ! こやつはフォミクリーの生みの親。今までだって何十体ものレプリカを作ってきておる!」

『!!?』



それにはこの場にいた者達全員を驚かせた。フォミクリーの生みの親、と言うことはつまり、レプリカを作る技術の考案者という事になる。



「否定はしませんよ。フォミクリーの原理を考案したのは私ですし」

「ならあんたには、わしを責めることはできまい!」

「すみませんねぇ。自分が同じ罪を犯したからと言って相手を庇ってやるような、傷の舐め合いは趣味ではありません」



それに、と彼は眼鏡のブリッジを指で押し上げながら続ける。



「私は自分の罪を自覚していますよ。だから禁忌としたのです。生物レプリカは、技術的にも道義的にも問題があった。貴方も研究者ならご存知の筈だ。最初のレプリカがどんな末路を迎えたのか」

「わ、わしはただ……ヴァン様の仰った保管計画に協力しただけじゃ! レプリカ情報を保存するだけなら……」

「保管計画? どういうことだ」



どうやらアッシュでも知らない情報があったようだ。これは口を滑らせたらしいと気づいたスピノザは驚いたように一歩下がった。



「お前さん、知らなかったのか!?」

「うるせぇ! 良いから説明しろ!」



アッシュが詰め寄るが、スピノザは断固として首を振らず背を向けてしまった。



「……言えぬ。知っているものとつい口を滑らせてしまったが、これだけは言えぬ!」



帰ってくれ、とこれ以上の追求が出来ないと踏み、騒ぎを起こすわけにもいかないと一同は研究室を後にした。



「クソッ、舐めやがって!」

「いや、て言うか」



部屋を出てすぐに廊下の壁を殴るアッシュにヒースは思わず突っ込んだ。



「なんで馬鹿正直に知らないことをバラすんだよ。嘘でも黙ってたらもっと口を滑らせたかも知れないだろ」

『……………………』















「屑がぁあああああっ!」



先に言えよっ、となんとも理不尽な怒声が狭い廊下に響き渡った。
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