A requiem to give to you
- 詠まれなかった存在(8/8) -



「『ND2018。ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ鉱山の街へと向かう。そこで若者は力を災いとし、キムラスカの武器となって街と共に消滅す。然るの後にルグニカの大地は戦乱に包まれ、マルクトは領土を失うだろう。───結果、キムラスカ・ランバルディアは栄え、それが未曾有の繁栄の第一歩となる………』───っ」



そこまで詠み終えると、イオンは疲れたようにその場に座り込んだ。



「イオン様!」



アニスが直ぐに駆け寄り、彼の体を抱え起こす。それにお礼を述べ、イオンは短い呼吸を繰り返しながらもルーク達を向いた。



「……これが、第六譜石に刻まれた、……崩落に関する部分です」

「ありがとう、イオン。……だけど、」



ルークがイオンにお礼を言う。しかし直ぐに表情を曇らせるとガイも頷いた。



「やっぱり、アクゼリュス崩落と戦争の事しか詠まれてないな。もしかしたら、セフィロトの暴走は第七譜石に詠まれている可能性もあるのか?」

「確かにその可能性もなくはないわ。ただ、皆も知っている通り、第七譜石は未だに見つかっていないの。だからこそ、この星の未来についてはここから先は誰もわからないのよ」

「それは尚更、大詠師モースが必死こいて欲しがる訳だな」



ガイとティアの言葉にヒースも頷く。しかしタリスやグレイはその続きについては既にローレライの使者であるトゥナロから聞いていた為に知っている。そしてまた、それはヒースやレジウィーダにも共有済みである。

トゥナロが告げた、恐らくどこかに眠っているであろう第七譜石に刻まれている預言。その内容をモースが知れば、彼はどうするのだろうか。



(世界滅亡が詠まれても尚、預言の成就を優先しようとするのなら………救いようがない馬鹿よねぇ)



だからこそ、ヴァンの様な人が現れるのかも知れないが。

そんな事を考えていると、ふとティアが首を傾げた。



「ちょっと疑問に思ったのだけれど、この《ローレライの力を継ぐ者》って、一体誰の事を指しているのかしら?」

「それはルークの事に決まっているではありませんか」



そうナタリアは当たり前のように言ったが、しかしティアの疑問は晴れる様子はなかった。



「でも、それはおかしいわ。だって、ルークが生まれたのは七年前でしょう?」

「ティア。ナタリアが言っているのはオリジナル・ルーク……アッシュの事ですよ」



ジェイドの言葉にナタリアは頷く。しかし、それは確かにおかしいと言う事に預言を知っていたタリス達を含め、他の仲間達も違和感を覚え始めた。



「確かに、預言では聖なる焔が鉱山と共に死ぬと詠まれているけど、ルークもアッシュも生きてる……よな」

「それにそもそも、ローレライの力って言うか超振動を使ったのはこっちのルークだよ? でも、ちゃんと……って言うのはおかしいけど、アクゼリュスは無くなったし、戦争だって起きてる。預言通りに進んでる部分もあるんだよね」



ガイとアニスの疑問にティアも同意だった。そこで漸くナタリアも「確かにそうですわね」とおかしい事に気付いたようだ。

タリスとヒースは人知れずどこか呆れたように息を吐いた。



(なんか、意外と預言における定義って…………緩いと言うか何と言うか……)

(”形”さえ整っていれば、割と何でも良いのねぇ……)



つまりは、聖なる焔の光の名と、それに準じた容姿さえ用意出来れば預言の成就は可能なのだろう。

ルークが作られた理由がアッシュの持つ力の保護だとしたら、それはそれで非常に胸糞悪い事案ではあるのだが……。



「なぁ」



今まで黙って考え込んでいたルークが口を開いた。



「この預言ってさ、そもそもレプリカの事がないよな」



それってつまり、



「レプリカである俺が生まれたから、預言が狂ったって事なのか?」

「ルーク? 何を言って……」



ルークのそんな言葉にティアが言葉を続けようとした時、礼拝堂の扉が荒々しく開かれた。



「見つけたぞ、鼠め!!」



それから多数の神託の盾兵が雪崩込み、瞬く間に周りを取り囲んでしまった。

そんな兵士達の後ろから、声の主……モースがゆったりとした足取りでやってきた。



「こんな所まで入り込みおって……」

「いずれは見つかるだろうと思いましたが………これだけの兵、準備の良い事ですね」



憎々しげなモースに向かってジェイドが皮肉に笑う。

そして彼の言う通り、この短時間で用意出来る数ではない。予め自分達がいる事を知っていなけば、ここまで完璧に武装して来る事など不可能だろう。



(やっぱり、私達がいた事は最初からバレていた?)



もしくは、疑いたくはないが………誰かがモースへと密告した、とか。

流石にそれは考えすぎか、と思考を巡らせていると、モースの隣に誰かが連れて来られた。



「皆さん……すみません………!」

「ノエル!?」



ダアト外でアルビオールと共に待機していた筈のノエルが拘束され、彼女を連れてきた神託の盾兵に武器を向けられていた。

捕まってしまった事を悔やむように唇を噛み締める彼女の首元に更に武器を近付けさせ、モースは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。



「さあ、無駄な抵抗は止める事だ。この女がどうなっても良いのであれば、構わぬがな」

「畜生……っ」



ルークは悔しそうに武器から手を離した。譜術を構えていた者達もまた、静かに音素を霧散させる。



「俺たちをどうするつもりだ!?」



ルークの言葉にモースはフン、と鼻を鳴らした。



「バチカルへ連れて行く。戦争再開の為に役に立ってもらうぞ───連れて行け!」



モースの命令により、タリス達はなす術なく拘束されその場から連れ出されてしまった。

兵士達に連れられながら、タリスは結局合流出来なかった者達を思う。



(何とか、モース達があとの二人に気付かないようにしないと……)



恐らくこの教会内にはいるであろう二人。導師であるイオンが拘束される事はない。だからこのまま奴らが気付かなければ、まだチャンスはある筈。

今はそう、一縷の望みに賭ける事しか出来なかった。











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