A requiem to give to you
- 詠まれなかった存在(7/8) -



「ええ。そもそも秘預言を知っていれば、僕はルークに出会った時に何者かがわかった筈です」



確かにルークの存在は秘預言に大々的に記されている。あんなにもわかりやすいのだ。あの預言を知っていれば、また違ったのだろう。

しかし、



(詠師以上が知る事が出来ると言われている秘預言を、導師であるイオンが見た事がなかったなんて事……あり得るの?)



タリスはそんな疑問が頭に過ぎる。その場にグレイかレジウィーダがいれば何かを知っていたのかも知れないが、思わず他の仲間を見ればヒースとジェイドも少し不可解そうな表情をしているのに気が付いた。

どうやら同じような疑問を持ったようだが、今はそれを言及する時でもないのはわかっていたので特に何かを言う事はなかった。



「秘預言を知っていれば、アクゼリュスの事も回避できたかも知れなかった……」



どこか悔しげに胸に手を当てたイオンは、己の後ろにある机の上に積まれた本を見やった。



「だから僕は、秘預言の全てを理解する為にダアトに戻ったんです。それにはレジウィーダにも、手伝ってもらっていました」

「でも、その秘預言にセフィロトの暴走の事は……」



ナタリアの言葉にイオンは小さく頷いた。



「詠まれていなかった筈です。ですが、念の為に礼拝堂の奥へ行って確認してみましょう。あそこには譜石が安置されているので、そこで預言を確認出来ますから」

「で、でもイオン様! それではお体に触りますよぅ」



アニスが心配げに声を上げるが、イオンは首を横に振った。



「止めないで下さい、アニス。これは必要な事ですから」



行きましょう、と皆に告げるとイオンは一人先に部屋を出た。それにアニスが慌てて着いて行き、またその後にタリス達も続いた。

それから譜陣を使って再び広間へと戻り、辺りを確認しながら礼拝堂へ向かう。



「そう言えば、グレイはどうしましたか? 一緒にはいないようですけど」



イオンがそんな疑問を口にすれば、それにはタリスが答えた。



「なんか、気になる事があるみたいで先に礼拝堂へ行ったわ」

「? そうなんですね。では向こうで会えるかも知れませんね」

「仮にすれ違っても私達があなたの所へ行く事は知っているから、どの道また部屋に戻った時にでも合流出来ると思うわ」



そう言うとイオンは安心したように笑った。



「なら、レジウィーダとも合流出来ますね。彼女には資料を探しに図書室に行ってもらっていたので、用事が済めば僕の部屋に来ると思います」

「そうなのね。……あの子は、元気?」



彼女と離れる前の様子から、タリスはレジウィーダが心配でならなかった。

少しでも、心が休まったのだろうか。そんな不安を口にすれば、イオンは安心させるように目を細めた。



「元気ですよ。彼女なりに少し気持ちを整理させたのか、次の日には大分表情も明るかったと思います」

「そうなのね」



良かった、と安堵の息を吐く。それからヒースを見やれば、目が合った彼は苦笑しながら肩を竦めて返した。

そんな事を話していると、礼拝堂の前まで到着した。大きな扉は閉められていたが、やはり鍵はかかっていないようで簡単に開いた。

先程の騒動もあり教会の扉が閉まっている為、今日は巡礼者の姿はない。近くに神託の盾兵の姿も見られず、タリス達はイオンに促されるままに礼拝堂へと入った。

広く、普段は巡礼者や在住の信者達が礼拝を行う場所。誰もおらず、静かな空間にはタリス達の足音だけが響く。どうやらグレイの姿は見当たらないようだ。



「あいつ、どこに行ったんだ?」

「さぁねぇ………でも教会内にはいるだろうから、用事が終わったら探しましょう」



辺りを見渡すヒースにそう言うと、彼は仕方がないなと溜め息を吐きながら先を行く仲間達の後を追いかけた。

階段を上がり、そこにある大きなテーブルのような物があった。どうやらこれが安置されていると言う譜石らしい。

イオンは譜石の前に立ち皆を振り返った。



「この譜石は、第一から第六までの譜石を統合して加工した物です」

「これが譜石……。バチカルでティアが詠んでいた欠片と同じものよね?」



あの時は手の平に乗るほどの小さな欠片で、しかも内容が掠れていた。確かにこのサイズなら、より詳しく読み取れそうである。

タリスの言葉にイオンは頷いた。



「導師はそう言った小さな欠片からでも、その預言の全てを詠む事が出来ます。……ただ、これはあまりにも量が桁違いに多いので、ここ数年の崩落に関する預言だけを抜粋しますね」



そう言ってイオンは目を閉じ、譜石へと手を伸ばす。すると譜石が淡く光を帯び始めた。



「『……ND2000。ローレライの力を継ぐ者、キムラスカに誕生す。其は王族に連なる赤い髪の男児なり。名を、《聖なる焔の光》と称す。彼はキムラスカ・ランバルディアを新たな繁栄に導くだろう』」



ここまではタリスとヒースがトゥナロから(ヒース以外はバチカルで)聞いた物と同じだ。

イオンは一つ息を吐くと続きを詠んでいく。



「『ND2002。栄光を掴む者、自らの生まれた島を滅ぼす。名をホドと称す。この後、季節が一巡りするまで、キムラスカとマルクトの間に戦乱が続くであろう』」



その内容にガイがピクリと反応したが、しかし何も言わずにイオンに続きを促した。
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