A requiem to give to you- 詠まれなかった存在(6/8) -
ガッ、と何かが抉れたような音が背後でし、思わず鼻水を垂らしながらゆっくりと振り向くと、そこにはチャクラムが刺さっていた。
「ディスト響士ィィィ………」
「ぎゃあああああっ!?」
地を這うような、そんな声と共に現れたのはクリフだった。彼はゆったりとした足取りでディストの前までくると、突然のことにビビリ倒す彼に問いかけた。
「シルフィナーレ殿を見かけませんでしたかァ?」
背後にドス黒いオーラでも纏っているかのような怒気を放つクリフ。見た事がない程の怒りを露わにする彼の様子に、ディストは出かけた文句も出せずにブンブンと勢い良く首を横に振った。
「し、知りませんよ!! 彼女は総長補佐でしょう! ヴァンに着いて行ったんじゃないですか!?」
「そのヴァン総長は?」
「少し前にダアトを出ましたよ!!」
一体何なんですかあああっ!
そんな彼の叫びも虚しく、クリフはそれをまるっと無視すると怪しげな笑い声を上げた。
「フッフフフフ…………あの女。ここまで侮辱されたのは初めてだ」
「な、何があったですか……?」
何故理不尽に怒りをぶつけられなければならないのかわからずディストが恐る恐る訊くと、クリフは口元をへの字に曲げた。
「人のプライベートスペースに勝手に入って物を盗んで行きました」
「は、はぁ………因みに何を?」
「それを教える義理はありません」
それだけ言うとクリフはもう用はないと言わんばかりに踵を返すとさっさとその場からいなくなってしまった。
残されたディストはそんな彼の背をポカンと口を開けて見つめていたが、やがて段々と怒りが湧き起こってきたのか全身を震わせて地団駄を踏んだ。
「キイイイイイイイイイイッ!! どいつもこいつも私を馬鹿にして………絶対、絶対に復讐日記に書いてやるううううううっ!!!」
そう一人叫び倒すと、今度こそ浮遊椅子を動かしてどこかへと飛んで行った。
それから暫くの静寂が訪れ、誰も来ない事を確認するとタリス達は物陰から出てきた。
そしてルークが一言。
「いや、さ
やり取りが長ェよ!!」
何なんだよアレは!
隠れている身で大声は控えて欲しい所だが、流石に皆同じ気持ちだったのか誰もルークを咎めなかった。
「アレ、別に俺たちがいるのを知っててやってた茶番……とかじゃないよな?」
「多分、普通に素だと思う」
疲れたようなガイにアニスも同じような表情をしながら言葉を返す。
でも、とタリスは頬に手を当てた。
「フィリアムが休職って……どう言うことなのかしら?」
これは彼自身は今後こちらと敵対しなくなる、ととっても良いのだろうか。そんなタリスの疑問にヒースも「わからない」と首を振った。
「この突発さと行動の読めなさ…………なんか、流石って感じがした」
「それは、そうねぇ………でも、あれが本来の彼の姿なのかしら」
遠い目をする彼にタリスも思わず苦笑を浮かべて頷く。あまり比べたくはないのだが、元が元なだけに彼にもそんなちょっとお茶目(?)な面がある事に内心ホッとしたのも確かだった。
そんな各々感想を述べている中、ジェイドは「それよりも」と話を引き戻した。
「ヴァン謡将もシルフィナーレもいないとわかれば、今が絶好のチャンスです」
「そうですわね。調べるのにどれだけ時間がかかるかもわかりませんもの」
ジェイドとナタリアの言葉に全員が頷いた。
「よし、イオンのところに行こう!」
「アニス、お願い」
ティアに名前を呼ばれ、アニスは元気よく頷くと譜陣の上に乗った。
「まっかせて! 皆も譜陣に乗って」
そう言って皆を促し、全員が乗った事を確認するとアニスは一つ息を吸い、それから静かに言葉を紡いだ。
「『ユリアの御霊は導師とともに』!」
アニスが唱えた瞬間に譜陣が光を帯び、タリス達を包むとその身を別の場所へと飛ばした。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
「イオン!」
譜陣の飛んだ先から一直線に続く導師の部屋へとルークが勢い良く入ると、中にいたイオンが驚いたように椅子から立ち上がった。
「ルーク、皆さんも……!?」
どうしてここに、とこちらまで歩いてきたイオンへの挨拶も忘れ、ルークは彼に「外殻大地が危険なんだ!」と言った。
「だから教えて欲しい! セフィロトの暴走について預言には詠まれてなかったか!?」
「……どう言う事ですか?」
唐突に言われた事だったが、冷静に表情を引き締めたイオンにジェイドが前に出た。
「それについては私から説明をさせて頂きます」
それからジェイドによって、ケセドニアで別れた後の事とセフィロトの暴走について、そしてこの状況を打破する為のヒントが預言から得られないかと言う事を伝えられた。
一通り説明を受けたイオンは顎に手を当て、「なるほど」と呟いた。それから顔を苦しげに顰めると、申し訳なさそうに続けた。
「それは初耳でした。……実は僕、今まで秘預言を確認したことがなかったんです」
「え、そうなんですか!?」
これは導師守護役(元)のアニスでも知らなかった事実らしい。驚きに声を上げる彼女にイオンは頷いた。
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